Yahoo!ニュース

プライバシー保護よりアプリ開発優先か フェイスブック創業者が英政治コンサル会社のデータ乱用問題で謝罪

木村正人在英国際ジャーナリスト
ケンブリッジ・アナリティカ問題で謝罪したザッカーバーグ氏(写真:ロイター/アフロ)

「皆さんのデータを守る責任がある」

[ロンドン発]フェイスブック・ユーザーのデータを不正利用して米大統領選でドナルド・トランプ氏当選を後押しした疑惑が浮上しているイギリスの政治コンサルティング会社ケンブリッジ・アナリティカの問題を受け、フェイスブック創業者マーク・ザッカーバーグ氏が21日、米CNNのインタビューに対し、「本当にごめんなさい」と謝罪しました。

自らのフェイスブックに投稿した声明の中で、ザッカーバーグ氏は「私たちには皆さんのデータを守る責任がある。もし、それができなければ私たちは皆さんに仕えるのに相応しくない」として初めて問題の経過を説明しました。

【ザッカーバーグ氏が明らかにしたこれまでの経過】

2007年、第三者がフェイスブック上でアプリを提供できるフェイスブック・プラットフォームを開始。

13年、英名門ケンブリッジ大学の研究者アレクサンダー・コーガン氏が性格診断クイズのアプリを開発。フェイスブック上で30万人のユーザーがインストール。コーガン氏はインストールしたユーザーとその友だち数千万人のデータにアクセスできるようになる。

14年、アプリの乱用を防ぐため、フェイスブックはプラットフォームを変更してアプリがアクセスできるデータを大幅に制限。コーガン氏が開発したタイプのようなアプリは友だち本人が承認しない限り、データの提供を求めることができなくなった。

フェイスブック・ユーザーからセンシティブなデータを集める際はその前にアプリ開発者にフェイスブックから承認を得るよう求めている。こうした対応でコーガン氏が行ったような大量のデータ収集はできなくなった。

15年、英紙ガーディアンの記者からコーガン氏がデータをケンブリッジ・アナリティカと共有していることを知らされる。ユーザーの同意なしにアプリ開発者がデータを第三者と共有することはフェイスブックのポリシーに違反している。

このためコーガン氏のアプリをフェイスブック上から締め出すとともに、コーガン氏とケンブリッジ・アナリティカに不適切に収集されたデータの消去を求める。両者はデータを消去したという証明書をフェイスブックに提出した。

先週、ガーディアン紙、英TV局チャンネル4、米紙ニューヨーク・タイムズからケンブリッジ・アナリティカがデータを消去していない可能性があると知らされる。フェイスブックは即座にケンブリッジ・アナリティカがフェイスブックのいかなるサービスも利用できないようにした。

ケンブリッジ・アナリティカは「データは消去した」と説明し、フェイスブックが雇ったフォレンジック監査チームを受け入れることに同意した。

「ユーザーに対する背信」

ザッカーバーグ氏は「これはコーガン氏、ケンブリッジ・アナリティカとフェイスブック間の背任にとどまらず、フェイスブックとユーザー間の背信になる」とフェイスブックの非を認め、今後の対策として次の3点を挙げました。

(1)大量のデータにアクセスしていないか、フェイスブックがすべてのアプリを監査。監査に同意しないアプリ開発者は出入り禁止

(2)ユーザーが3カ月間、使用していないアプリについてはアプリ開発者がデータにアクセスできないようにする。アプリ開発者が利用できるユーザーのデータを制限する

(3)来月、ユーザー全員にこれまで使用したことがあるアプリを表示し、承認を取り消せる方法を表示する。

「フェイスブックは喜んでリスクを引き受けた」

これに対してフェイスブックで2011~12年に働いたことがあるサンディ・パラキラス氏(38)がビデオリンクを通じて英下院デジタル・文化・メディア・スポーツ委員会で証言しました。

「フェイスブックの役員にこんな程度の安全基準では社外勢力やデータ・ブローカーがユーザーの同意なしにデータを収穫できると警告した。しかし、フェイスブックは何の対応も取ろうとしなかった」

「アプリ開発者に対してユーザーや友だちのデータにアクセスすることを認めたこと自体、許されるべき範囲を逸脱していた」「データの乱用についていくつも指摘があったのに、フェイスブックは適切に調査するのに失敗した。記憶する限り、アプリ開発者の監査が行われたことは一度もなかった」

「フェイスブックはユーザーのデータがブローカーの手に渡るのを望んでいなかったが、彼らの優先事項はいち早く、広大なアプリのエコシステム(生態系)を構築することだった」「私のような人間はデータがブローカーの手に渡ると心配したが、フェイスブックにとっては喜んで引き受けるリスクだったと思う」

「EU離脱派はケンブリッジ・アナリティカとは契約していない」

16年の国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を主導したイギリス独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージ元党首は21日、外国人特派員協会(FPA)の記者会見でケンブリッジ・アナリティカとの関係を質問され、こう答えました。

記者会見するファラージ氏(21日、筆者撮影)
記者会見するファラージ氏(21日、筆者撮影)

ファラージ氏はケンブリッジ・アナリティカを保有するコンピューター・サイエンティストで投資家のロバート・マーサー氏と親密な関係にあると報じられています。

「トランプ大統領や前首席戦略官兼上級顧問スティーブン・バノン氏はバッドガイ(悪玉)と位置づけられている。もしケンブリッジ・アナリティカが5,000万人のデータを悪用していたら恐ろしいと批判されている」

「一方、バラク・オバマ前米大統領はグッドガイ(善玉)だ。オバマ・チームが2億人のソーシャルメディア・データを活用するのは素晴らしいと称賛される」

「私は中身を承知しているわけではないが、ケンブリッジ・アナリティカは法律に違反していたわけではないし、米大統領選への関与も限られていた」

「(チャンネル4ニュースのおとり取材で報じられている疑惑については)彼らは積極的なハードセール(強引な販売方法)を展開しただけで、スネークオイル(いんちき薬)をつけた」

「ケンブリッジ・アナリティカのことは知っていたし、接触もあったが、最終的にケンブリッジ・アナリティカと契約することはなかった」

「私はEU離脱派を一つの大きなテントの下に組織したかったが、保守党をはじめバラバラだった。一つの方向性にまとめることができず、ケンブリッジ・アナリティカのようなサービスとは合わなかった」

「私が世界的な謀略の中心にいたと報じられているが、そんなわけがない。ウラジーミル・プーチン露大統領、ドナルド・トランプ米大統領、内部告発サイト『ウィキリークス』創設者ジュリアン・アサンジ氏と直接のつながりはない」

「私がトランプ大統領を崇拝しているのは事実だ。彼は2期目に向かっている。トランプ陣営のIT選挙責任者は先の米大統領選で勝利したあと、フェイスブックよりツイッターの方が重要だと結論づけた」

「ケンブリッジ・アナリティカはフェイスブック・ユーザー5,000万人のデータにアクセスしていたと言われているが、バラク・オバマ前大統領は選挙戦で2億人のソーシャルメディア・ネットワークにアクセスしていたという記事が紹介されている」

トランプ大統領の誕生、イギリスのEU離脱の背後に人工知能(AI)の開発に詳しいコンピューター・サイエンティストで投資家のロバート・マーサー氏がいたのは間違いありません。

先日逝去された「車いすの天才科学者」として知られる英物理学者スティーブン・ホーキング博士が警告したように、AIが世界を支配するという悪夢のディストピアはすでに始まっているのでしょうか。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事