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「ハリー&メーガン」:嘘と指摘された「3日前のふたりだけの結婚式」は完全スルー

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 昨年3月に放映されたオプラ・ウィンフリーによる独占インタビューで、メーガン妃は、ある秘密を明かした。テレビを通じて全世界が見た2018年5月19日のウィンザー城での結婚式は本当の結婚式ではなかったと、彼女は言ったのだ。

 カリフォルニア州モンテシートにある自宅の広々した庭で、メーガンはオプラに「実を言うと、私たちは結婚式の3日前に結婚したのよ。誰も知らないんだけれどね。私たちは聖職者に電話をして、『あの大がかりなものは世界のためです。私たちは、私たちだけで契りを交わしたいんです。私たちの庭で』と言ったの」と言った。横にいたハリー王子も、妻の言葉を受けて「本当だよ」と言っている。

 だが、インタビューが放映されるとすぐに、この発言に対する疑問が聞かれるようになった。まず、ふたりの結婚証明書の日付は間違いなく5月19日で、その3日前ではない。それに、そもそも結婚するには目撃者が必要で、ふたりだけというのは無理なのだ(5月19日の結婚式では、ウィリアム王子とメーガンの母が目撃者だった)。

 結婚の正式書類を作成した担当者も、ふたりが結婚したのは5月19日だと述べている。その上で、「(メーガンとハリーは)個人的に誓いをしたのを結婚だと勘違いしたのかもしれない。あるいは、聖職者の前で簡単なリハーサルをしたことをそう思ったのかもしれない」と、メディアに語っていた。

 これらの指摘を受けて、インタビュー放映のおよそ3ヶ月後、メーガンとハリーは、3日前に行ったのは”結婚式”ではなかったと認めている。ふたりのスポークスパーソンがメディアに語ったところによると、ふたりはプライベートに誓いを交わし合ったのだそうだ。

 それが事実だったとして、本当の結婚がそちらだったと思うほど、ふたりにとって3日前のその誓いは重要だったということだろう。だが、全部で6時間もの放映時間を持つNetflixのドキュメンタリーシリーズ「ハリー&メーガン」に、そのことはまるで出てこないのである。第3話の終わりは結婚式へのカウントダウンになり、12日前、5日前、4日前の状況が出てくるのだが、3日前はすっ飛ばされ、その後は2日前、前日、となる。そこで第3話は終了だ。

 第4話では、当日にウィンザー城に向かうところから結婚式の状況が描写されるが、インタビューで「あれは世界のため」と言ったのとは矛盾して、大規模ではあってもいかにふたりにとってパーソナルだったかが強調されている。この回でちょっと時間が後戻りして「3日前の誓い」が出てくるのかと思うと、それもなかった。このシリーズを見るかぎり、ふたりは出会った時からたくさんの写真や動画を撮影し続けてきているのに、その大事な日の写真がまるで見せられないとは、なんとも不自然である。

インタビュー、ドキュメンタリー、本。計算された露出

 オプラはメーガンとハリーの結婚式にも出席し、ふたりが住んでいたノッティンガム・コテージを訪れてもいる。ノッティンガム・コテージはケンジントン宮殿の敷地内にあるのだが、小さくて天井が低いその家にふたりは不満だったらしく、メーガンは「あれは、誰も信じないような、私たちの人生のひとつのチャプター」と「ハリー&メーガン」の中で語っている。オプラにも「誰も信じないでしょうね」と言われたと、ハリーと一緒にメーガンは笑った(我々一般人から見てそのコテージはみすぼらしいとはほど遠く、ツイッターには『ただで住まわせてもらったのに』と非難する書き込みも見られる)。

 アメリカ人であるメーガンはオプラを崇拝してきたし、メーガンと結婚したことで、ハリーもアメリカで最も影響力を持つこの女性と親しくなった。そしてオプラとハリーは、メンタルヘルスについてのドキュメンタリーシリーズ「あなたに見えない、私のこと」を一緒にプロデュースしている。このシリーズがApple TV+で配信開始されたのは、昨年5月。オプラによる独占インタビューの2ヶ月後だ。

 このシリーズにメーガンは出ないが、ハリーは出てきて、王室に生まれ育ったせいで受けた精神への影響について語っている。独占インタビューで最初メーガンだけが登場し、途中になってハリーが加わるようにしたのは、彼の話の美味しいところを取っておこうと思ったからではないかと、シリーズを見て思った。あのタイミングで独占インタビューを放映したのも、シリーズの宣伝を考えてのことだったのだろう。

(amazon.com)
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「ハリー&メーガン」のタイミングもまた完璧だ。良くも悪くもこのシリーズは、今、話題になっている。そこへきて、4週間後にはハリーの回顧録「Spare」が出版されるのだ。独占インタビューと「あなたに見えない、私のこと」でうまく発言内容の振り分けをしたように、「ハリー&メーガン」でも、「Spare」ために使うのを控えたネタがあったのかもしれない。それは、この後、「Spare」のための宣伝の中で、小出しにされていくのではないか。いずれにせよ、「Spare」では「3日前の結婚式」について詳細に語られるのかが、やや気になるところである。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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