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二転、三転した朝鮮総連本部競売の顛末

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

競売に掛けられていた東京都千代田区富士見の一等地にある朝鮮総連中央本部の土地(2,390平方メートル=700坪)と建物(地下2階、地上10階、延べ床面積1万1700平方メートル)が四国・高松の不動産投資会社「マルナカホールディングス」に落札されることが3月24日、正式に決まった。

朝鮮総連が本部を明け渡さざるを得なくなったのは、朝鮮総連の影響下にあった朝鮮信用組合(朝銀)のバブル時代の多額の負債がそもそもの原因。

朝銀は日本の経済成長と共に拡張し、一時は全国に38組合、180支店、2兆5千億円の預金高を誇るに至った。しかし、バブルの崩壊と共に朝銀も他の金融機関同様に不良債権を多く抱え、破綻の運命を辿った。1997年5月には朝銀大阪が続いて、2年後の1999年5月には朝銀東京が破綻。この年には全国13の朝銀が相次いで破綻した。日本政府によって朝銀救済のため公的資金1兆4千304億円が投じられた。

朝銀の債務は最終的に2千億円(16行)に達し、整理回収機構(RCC)は破綻した朝銀から合計1,533億円分の不良債権を引き継いだが、このうち約41%にあたる627億円が事実上、朝鮮総連への融資であったとみて、その返済を総連本部と幹部に求めた。朝鮮総連は一部返還には応じるとしたものの、総額があまりにも大きすぎるとしてRCCに対して「値下げ」を要望。しかし、「値下げ交渉」は決裂。

RCCは負債回収のため2005年11月に東京地裁に朝鮮総連本部が入っている会館と土地の競売を申し立てたが、登記上は朝鮮総連ではなく、「朝鮮中央会館管理会」の所有となっていたため、強制執行ができなかった。このためRCCは再度、会館の実質的な所有者が朝鮮総連であるとして訴訟を起こした。

会館の所有者をめぐる判決が2007年7月18日に下りれば、敗訴は確実とみてとったのか、朝鮮総連は判決が下る前に元公安調査庁長官の緒方重威氏が代表取締役となっていた会社「ハーベスト投資顧問株式会社」に売却を企図。「ハーベスト」は前年の2006年9月に設立されたばかりの会社で、総連本部の「受け皿」となった。敗訴→差し押さえ→競売→立ち退きを回避することを優先させた朝鮮総連の窮地の策でもあった。

双方の間では▲朝鮮総連が35億円で売却する▲売却した後、朝鮮総連が年間3億5千万円の家賃で賃貸する▲5~6年後に朝鮮総連が買い戻すという合意が成立していた。しかし、「ハーベスト」が資金調達に失敗し、2007年6月に交渉は破綻した。

その後、朝鮮総連はRCCに交渉を申し入れ、代理人の弁護士を通じて「総連の全財産は40億円しかない。物件の鑑定額は34億円で建物を競売にかけても20億円程度が相場」として▲30億円で購入する▲8年間毎年5億円返済する(計40億円)▲12年後に再交渉するという条件を提示。これに対してRCCは▲年間5億円を3年間払う▲4年目に利息と残り残金を全額支払うとの条件を提示。総連の代理人である弁護士の話では「最終的にはRCCは40億円+30億円でOKだった。しかし、官邸がノーだった」と、官邸からの「圧力」があったことを示唆していた。

結局、所有権をめぐる裁判は「登記上は便宜上で、実質的所有権は総連中央にある」とのRCCの主張が2009年に認められた。朝鮮総連はこれを不服とし、高裁、最高裁に控訴したが、いずれも棄却された。

こうした経緯を経て、朝鮮総連本部は2013年3月に競売に掛けられることになったが、一回目の入札では宗教法人「最福寺」の池口恵観法王が45億1900万円で落札し、世間を驚かせた。しかし、前金の5億円は払ったものの資金調達に失敗し、5月10日までに残金を納付できなかったため「失格」となった。

最終段階で資金調達ができなくなったことについて、最福寺の担当者は「監督官庁から金融機関に対し、何かしらの働きかけがあった」と説明したが、菅官房長官は記者会見で、「(監督官庁や金融機関に)何かしら働きかけを行ったことはあるか?」との質問に対し、「それは100%ない。金融庁に確認させた。そうした事実は全くない」と、金融機関などへの働きかけを否定した。

同年10月に再入札が行われたが、これまた1月に設立されたばかりの、営業実績も、活動実体もないモンゴルの投資会社「リミテッド・ライアビリティ・カンパニー(LLC)」が1回目の入札よりも5億円高い、50億1000万円で落札したものの、これまた書類の不備で失格。異議申し立てしたものの落札が認められなかった。

元横綱朝青龍と縁戚関係にあるこのモンゴルの会社社長は「いかなる団体も関与していない」と、朝鮮総連や北朝鮮との関係を否定していたが、購入後に朝鮮総連に貸し出すつもりだったようだ。

三回目の入札と思いきや、瀋陽での日朝外務省課長級協議で政府間協議、即ち局長級協議への格上げ、再開が決まった3月30日、東京地検から朝鮮総連本部建物・土地の高松の不動産投資会社「マルナカホールディングス」への落札が発表され、そして3月24日正式に落札が決まった。落札額はモンゴル企業の半額以下の22億1千万円だった。

ピンチに立たされた朝鮮総連は3回目の入札を行わず、安い値で売却されたことを不服とし、売却が許可された場合、不服申し立て(執行抗告)をする方針とのことだが、RCCも異議申し立てに同意しない限り、裁定がひっくり返す可能性はゼロに近い。

「マルナカホールディングス」から第三者を通じて買い戻すという手も残されているが、現状では立ち退きを迫られることになる。

朝鮮総連本部を大使館とみなす北朝鮮がどう出るか。

日朝政府間協議の北朝鮮側代表である宋日昊朝日国交正常化担当大使は2007年3月に日朝作業部会終了後の記者会見で拉致被害者の再調査に関して「日本が経済制裁を解除し在日朝鮮人に対する弾圧をやめ、過去の清算を始めるなどの動きを示してこそ、考えることができる」と述べたことがある。

かつて「朝鮮総連への弾圧を決して傍観しない。当該部門で必要な措置を講じる」と反発していた北朝鮮が金正恩体制になって朝鮮総連の緊急事態にどう対応するのか、拉致問題の進展と密接に結びついている事柄だけに日本としても目が離せない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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