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「中国の白紙デモがうらやましい」それでも北朝鮮国民が立ち上がれない理由

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の兵士(写真:ロイター/アフロ)

 10人が死亡する大惨事となった、中国・新疆ウイグル自治区のマンションで発生した火災。対応が遅れたのはゼロコロナ政策のせいだとして、各地で白紙を掲げて当局に抗議する「白紙運動」が広がった。その後、急速に規制の緩和が進んだ。

 この事実は、北朝鮮国内でも一部の人々の知るところとなった。

 咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、国境に接する会寧(フェリョン)の市民の間で、中国でデモが起きたという話が急速に広がっていると伝えた。

 情報は、中国キャリアの携帯電話を使い、中国と連絡を取っている人から広がった。北朝鮮の人々は、中国国民にも増して当局のコロナ政策によって苦しめられているだけあり、中国からの情報にアンテナを張り巡らしていたのだ。国外の情報が国内で広がることを嫌う当局は、携帯電話ユーザーの取り締まりに躍起になっているが、結局今回も情報流入を許してしまった。

 市民は、北朝鮮と同じ社会主義体制の中国でデモが起きたことに驚愕しているという。

 会寧に住むある市民は、デイリーNKの取材に「中国でデモが起きたと聞いて本当に驚いた」「中国は社会主義国家で、住民に対する政治的統制がわが国(北朝鮮)と似ているところが多いからこそ、住民は余計に関心を持つ」と述べた。

 また、北朝鮮よりはるかに豊かな暮らしをしている中国の人々がなぜ立ち上がったのか、その原因と結果も知りたがっているという。

「私たちはコロナ封鎖政策への不満の声をあげることはおろか、息もできないほどの生活をしているのに、中国の人々はデモをしているというから、余計に驚いた」(会寧市民)

 北朝鮮は2020年1月、国境を封鎖し、一切の貿易を停止した。多くの物資、食糧を中国に依存しているだけあって、国内では深刻な食糧不足に陥り、一部では餓死者を出す事態となっている。また、中国との密輸に従事する人の多い会寧などの国境沿いの地域では、地域経済そのものが壊滅状態に追い込まれた。

 それだけあって、コロナ対策に対する不満は非常に高い。別の会寧市民は、地元の人のこんな声を伝えた。

「私たちも中国人のように死ぬ覚悟で事を起こすべきだ」

「中国のようにわが国でも皆が立ち上がるべきだ」

「皆で立ち上がれば、国はそんなに多くの人をいっぺんに殺せはしないだろう」

 ほかにも、「デモをすることができる中国の人々がうらやましい」との声も聞こえるという。

 中国に住む北朝鮮の貿易関係者も、デモの情報に並々ならぬ関心を持ってはいるが、北朝鮮の体制をより深く知るだけに、立ち上がろうとは思わないようだ。

(参考記事:抗議する労働者を戦車で轢殺…北朝鮮「黄海製鉄所の虐殺」

 中国駐在の貿易関係者は、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の取材に「貿易関係者は非常に関心を持って事態の推移を見守っている」と述べた。彼らが関心を持っているのは、デモそのものと同時に、北朝鮮と同じ体制である中国当局の対応だ。

「もし平壌でコロナ封鎖政策に反対するデモが起きれば、参加者はその家族もろとも秘密裏に処刑されるだろう」(貿易関係者)

 中国当局はデモ参加を連行するなど、封じ込みを図ってはいるが、参加者を処刑したとの情報は伝わっていない。刑法、集会遊行示威法で無許可の集会、デモは違法となっているが、最高刑は5年以下の懲役だ。また、中国は死刑執行数が世界最多だが、対象となるのは殺人、強姦、経済犯罪、スパイ、テロなどの罪で、刑事訴訟法252条で公開処刑はできないと定めている。

 事あるごとに見せしめとして公開処刑を行う北朝鮮のことを、中国メディアは遅れた国だと嘲笑っているのだ。

 中国当局の対応を見た北朝鮮貿易関係者はこのように嘆き、怒り、悲しんでいる。

「(北朝鮮の)幹部たちはこれ(参加者が処刑されないこと)を見て、世界で最も悪辣な独裁国家は北朝鮮だけだと落胆している」

「もし平壌や新義州(シニジュ)など大都市で同じようなデモが起きたら何が起こるか考えると、背筋が凍る。参加者はもちろん、8親等まで処罰される」

「この世で北朝鮮の体制ほど住民の口を銃剣で塞ぎ抑圧する国はないと思い、怒りに駆られた」

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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