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「メッシ離れ」は加速するか?クーマン・バルサの現状

小宮良之スポーツライター・小説家
グリーズマンと抱き合うメッシ(写真:ロイター/アフロ)

 11月7日、FCバルセロナは第7節を戦って、ベティスを5-2と粉砕している。スコア的には、強さを見せつけた勝利と言えるだろう。自慢の攻撃力も出た。

 攻撃的な戦力の分厚さは、必見だ。

 アントワーヌ・グリーズマン、ペドリ、ウスマンヌ・デンベレ、アンス・ファティの4人で組んだフロントラインは、ベティスを苦しめている。後半には、温存していたリオネル・メッシを投入。一気に決着をつけた。

 バルサは強さを取り戻したようにも映るが…。

クーマン・バルサの不安

 今シーズン、ロナウド・クーマン監督はバルサ伝統の攻撃的な4-3-3を捨て、4-2-3-1を導入。守備からの立て直しを図っている。無冠に終わった昨シーズン最後の試合、バイエルン・ミュンヘン戦で2-8と手も足も出ず、屈辱的な敗戦を喫したチームでの荒療治だ。

 守備の乱れを整えるため、ダブルボランチは一つの策と言える。

 バルサの始祖とも言えるヨハン・クライフも、最後のシーズンにはダブルボランチを用いていた。世代交代が難航し、大量失点が相次いで、守備の再建が急務だった。また、フランク・ライカールトも就任当初は、ダブルボランチを使っていた。前シーズンにチームが中位に低迷し、一時は降格も心配されるほどで、守備を組み直す必要があったのだ(ロナウジーニョを4-3-3のトップ左で用い、一気に好転)。

 しかし、4-2-3-1はどれも成果を上げられていない。その理由は、至ってシンプル。バルサの下部組織ラ・マシアは一貫して4-3-3で戦い、ボールありきを身につけ、そこで育成された選手たちがトップチームで根幹をなしている。必然的に、不具合が出てしまうのだ。

 そもそも、バルサは守りを出発点にした戦い方が向いていない。

メッシという存在の矛盾

 エースであるメッシに、プレッシングを要求するのは無理があるだろう。

 最強時代を誇ったバルサは、高い位置でボールを高速に動かし、サイドを崩し、中を撓ませ、万力で締めあげるように攻めるのが信条だった。失ってもセカンドボールを拾い、あるいは即座のプレッシングでショートカウンターを浴びせ、ほとんどの時間を攻撃に費やしていた。攻撃コンビネーションがトレードマークだった。

 メッシは、そこで攻撃センスをいかんなく発揮していた。1試合、走行距離は5キロなこともしばしばだったが(平均が12キロ)、たとえ歩いていても、攻撃の連係で見せるスキルの高さによって、王様に君臨していたのだ。

 しかし守備をベースにした戦いでは役割が増え、プレーは制限される。攻撃機会も以前と比べて明らかに少ない。リズムを出すのは難しいだろう。その結果、試合を重ねるごとに、メッシのミスが多くなっている。アラベス戦では何度もボールを失い、今まで見せたことのない苛立ちを露にしていた。思ったようなプレーができていない。

 ベティス戦、活躍することができたのは、後半からの出場で相手が消耗を生じ始めていたからだろう。その点、圧倒的な力の違いを見せられた。技術は今も健在なのだ。

 ただ、ジョーカーのような存在になることは、「メッシ時代の終焉」の時計を進めることになる。

ラ・マシアの劣勢

 バルサでプレーしてきた大半の選手も、これから現実に晒されるだろう。

 セルヒオ・ブスケッツ、セルジ・ロベルトの二人は、出場機会を減らしていくことになる公算が高い。彼らは下部組織ラ・マシアで育ち、ボールゲームの申し子で、その技量を見せつけてきた。しかし守備を基本に考えた場合、彼らは実力を出し切れない。むしろ、凡庸で弱点が見える選手だ。

 同じくラ・マシア育ちで期待の若手であるカルレス・アレニャ、リキ・プッチの二人は、ほとんど出場機会が与えられていない。4-3-3のボールありきでプレーし続けてきた彼らにとって、厳しい状況だろう。中盤でボールを受け、渡し、それによってリズムを作る。高速パスをつなぐ技術は持っているが、守備で相手とコンタクトするプレーを基本には鍛えられていない。

「レンタル移籍した方が身のためだ」

 クーマンからは示唆されたが、二人は固辞した。バルサのスタイルでこそ、自分たちが輝けることを信じているのだ。

 しかしクーマンは徹頭徹尾、守備=フィジカルインテンシティのチームを目指している。開幕前、クラブにリクエストした選手も、メンフィス・デパイにせよ、ジョルジニオ・ワイナルドゥムにせよ、好みに適合。摩擦を起こさない程度に、選手を入れ替え、チームを変革させつつある。メッシの扱いも、その一つだろう。

 もっとも、それが好転の予兆か、保証はない。

「移行期と正当化されない」

 バルサはリーガエスパニョーラを2連勝で好発進したように映った。しかし、その後はセビージャと引き分け、ヘタフェに敗れ、レアル・マドリードに負け、アラベスと引き分け、2敗2分けの体たらく。ベティスにようやく勝利を収めたが、勝てない試合が続いていた。

 クラシコでは、クーマン・バルサは1-3と本拠地で敗れ、4-2-3-1は破綻していた。

 序盤、ダブルボランチの一角であるブスケッツが呆気なく、背後でボールを受けられてしまい、慌ててジェラール・ピケが寄せたところ、その裏を突かれる形になった。ブスケッツが裏に入った選手を追わず、カバーに入らなかったことに、ピケは身振り手振りで不満を表していた。そもそも、受け身の戦い方に慣れていない。フレンキー・デヨングとのダブルボランチは、滑稽なまでにかみ合っていなかった。

「今シーズンは、簡単ではない1年になるだろう。(会長の辞任など)変化のプロセスにあるのは間違いない。しかし、バルサのようなクラブは勝利が義務付けられており、移行期などと正当化されないことも知っている」

 ピケは言う。5連勝しても、2連敗したら、やり玉にあげられ、重要な一戦で敗れたら、こき下ろされる。それがバルサの真実だ。

 連戦連敗するようなことはないだろう。特に欧州では、バルサの名声が今も轟き、相手が自滅する展開も見られる。実際、チャンピオンズリーグはフェレンツヴァーロシュ、ユベント、ディナモ・キエフに3連勝スタートだ。

<メッシ離れ>

 それが加速することは、クーマン・バルサの強化につながるかもしれない。その一方、長い目で見て、バルサの栄光につながるのか――。答えが出るのは先の話だ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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