聞いて驚く高齢運転者の「実感する運転能力の衰え」
高齢者の数・対総人口比の増加、地域社会の過疎化による移動機関の必然性の上昇、世帯構成人数の減少などに伴い、高齢者の自動車運転によるリスク体現化事例が増加する問題がスポットライトを浴びるようになった。警察庁の統計でも、絶対人数はまだ少なめだが、年齢構成比で死亡事故率を算出すると、75歳未満と75歳以上(高齢運転者)では後者の方が2.5倍も大きいとの結果も出ている。
加齢による身体能力の衰えを起因とする、運転上のトラブルが引き金となりやすく、それによる事故が若年層と比べて件数を積み増しをしている。一方、多くの高齢運転者はそれなりに運転年数を重ね、その経験から慎重さを心得、上手に運転できるようになっているとの認識もある。
そこで高齢運転者自身に、実感として若い頃と比べて運転の上で変わったことがあるか否かをいくつかの項目で4段階「感じる」「やや感じる」「あまり感じない」「感じない」の中から1つ選んでもらい、そのうち前者2つ、つまり「感じる派」の合計を足した結果が次のグラフ(警察庁2014年6月発表の「高齢運転者による交通事故防止に関するアンケート」より)。左側2つはポジティブ、それ以外はネガティブな傾向項目である。
ポジティブな項目では「慎重に運転するようになった」が94.0%と、ほとんどの人が肯定している。しかし「経験を重ねて上手に運転できるようになった」は54.7%のみ。慎重さと上手な運転とは必ずしも一致しないようだ。また「感じる」と「やや感じる」の比率の違いでも「慎重」の方が多く、運転が上手になることの難しさが分かる。
一方ネガティブな回答では、「夜間やトンネル内で見えにくくなった」が74.8%とほぼ3/4、「咄嗟の動作や複雑な動作がスムーズにできにくくなった」が59.6%とほぼ6割。視覚の衰え、頭の中の判断が鈍るだけでなく、その判断から実行動への反射能力が衰え、さらには判断そのもののミスをしてしまうことも多くなると、これだけの人が実感している。自動車運転時には、ほんの些細な反応の遅れやミスでも大きな影響を及ぼし得るため、軽視するわけにはいかない。
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注目したいのは「新しく変更された交通ルールを覚えにくくなった」。55.8%と過半数に達している。どの程度の難儀さかは人それぞれだが、まったく覚えられない人だけでなく、何かそのルールに関する判断が必要の際に、瞬時にそれが出てこず、判断ミスにつながる可能性はある。その判断ミスが、交通ルールを正しく守っている人に被害を与え得るリスクを考慮すると、事は重大ではある。
さらに直接「これは危ない」と容易に判断できる「信号機や一時停止線を見落としやすくなった」「ハンドルやブレーキの操作がスムーズにできにくくなった」も4割近く。程度は人それぞれだが、第三者から見れば少々怖い話に違いない。
これらマイナス要件の実態、度合いはケースバイケースのため、一律に「自覚症状があれば運転を制限すべきだ」との判断は間違っている。一方、今件調査はあくまでも高齢運転者自身の自答によるものであることも注意しなければならない。つまり本人が自認していないレベルで、能力が低下していることも多分に有る。第三者による公正な見聞きにより、適切な判断と対応ができるような仕組みの構築を願いたいものだ。
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