南ア・ランドが6%超の急落、ズマ大統領とゴーダン財務相の確執
南アフリカ通貨ランドが急落している。27日の欧州タイム入り直後には1ドル=12.3044ランドと今年の最高値を更新していたが、その12時間後には12.8041ランドを付け、28日のアジアタイム終盤には一時13.0968ランドまで更にランド安・ドル高が進行している。僅か1日で6.4%の下落率を記録し、3月15日以来のランド安・ドル高水準を更新した形になっている。
南アフリカの政治・経済環境は決して良好とは言えないが、ランド相場に関しては総じて堅調推移が目立っていた。ゴーダン財務相が中心になって展開されている財政再建への期待感が強いことに加えて、グローバルなリスクオンの投資環境、更には資源価格の上昇が、資源国かつ新興国通貨であるランド相場を押し上げた結果である。
更に短期的には、1)3月14~15日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で米国の利上げサイクルが加速する可能性が否定されたこと、2)トランプ政権の政策実行力に対する懐疑的な見方などから、ドルが主要通貨に対して軟化している影響もあって、3月はランド高が加速していた。ドルインデックスは昨年11月11日以来の安値を更新しており、その意味では円高が発生していたのもランド高が発生していたのも同じロジックと言える。
しかし、今週は円高圧力が継続している一方で、ランド相場は突然に強力な売り圧力に晒されている。背景にあるのは、ランド相場では恒例行事とも言えるズマ大統領とゴーダン財務相の確執である。
ゴーダン財務相は現在、南アフリカに投資を呼び込むためのロードショー(投資家向け説明会)でイギリスのロンドンを訪問中であり、今後は1週間にわたって米国にも拠点を移して投資家回りを行う予定になっていた。しかし、ズマ大統領が突然に説明を受けておらず外遊を許可していないとしてロードショーの中止、帰国を求めたことで、いよいよズマ大統領がゴーダン財務相の更迭に踏み切るとの観測が浮上しているのだ。
【南アフリカ通貨ランド相場(対ドル)10分足】
(出所)Reuters
■ランド安で財務相更迭を阻止する
ズマ大統領とゴーダン財務相との関係は、従来から良好とは言えなかった。もともと、ゴーダン氏は2009~14年に財務相を務めた後、緊縮財政を志向していることなどがズマ大統領の不評を買って、一時退任していた。しかし、2015年に同じく財政再建を志向するネネ財務相を更迭し、無名のバンルーエン国会議員をその後任に指名すると、南アフリカの市場では国債利回りが急伸しランド相場と株価が急落するなど混乱が広がり、事態収束のためにゴーダン氏の財務相復帰を求めた経緯があった。
しかし、ズマ政権はゴーダン財務相を必ずしも歓迎しているとは言えず、様々な容疑で訴追を検討したものの、そのたびに市場が拒否反応を示して大きな混乱状態に陥ったことで、解任できない状態が続いていた。マーケットは、ゴーダン財務相の主導する財政再建路線を高く評価しており、ゴーダン財務相の改革が南アフリカへの投資をつなぎとめる役割を果たしていたためである。
しかし、足元ではランド相場が着実な上昇傾向を見せていることもあり、再びズマ大統領のゴーダン財務相に対する不満が表面化したのが今回の混乱の背景とみられる。ズマ大統領は、歳出拡大にフリーハンドを確保できる一種の傀儡型の財務相を強く望んでおり、今回のゴーダン財務相に対する帰国命令が内閣改造に発展するのではないかとの懸念が浮上している。その意味では、マーケットは改めてゴーダン財務相の解任に拒否反応を示すことで、ズマ大統領に財務相交替人事を諦めさせる必要がある。
まだズマ大統領の真意は明らかではないが、ここでランド売り圧力を手控えると、ズマ大統領がゴーダン財務相解任に踏み切る可能性があり、目先のランド相場は神経質な相場展開を迫られることになる。
ランド/円相場も、3月27日の1ランド=8.9520円をピークに、28日には一時8.4432円まで最大で5.7%のランド安・円高となっている。ズマ大統領の暴走を阻止できるのか、これからランド相場はズマ大統領との駆け引きを本格化させる必要性が高まっている。