超機動力野球は楽天にとって180度の方針転換。今季が改革元年となるのか
盗塁を勝利に結びつけるのは難しい?
8対8の紅白戦、オフの日に1、2軍合同での大運動会など豊富なアイディアで話題を集める楽天・大久保監督。戦術面では積極的に盗塁を仕掛ける”超機動力野球”を掲げている。ただ昨季の楽天の64盗塁、成功率59.3%はどちらもパリーグワースト。年間200盗塁の大目標には大幅な意識改革と技術向上が必須となる。ちなみにチーム盗塁数の日本記録は1956年に阪急ブレーブスが記録した277個。当時は154試合制だったから1試合当たり1.8個のペースで走り続けたことになる。肝心の順位は西鉄ライオンズに10.5ゲーム差をつけられての3位。そういえばリーグ優勝を果たしたチームで打線の厚みが頭一つ抜けていた、投手を中心にした鉄壁の守りが堅かったというチームなら思い浮かぶが、機動力を武器に頂点に立ったチームとなるとイメージが浮かばない。
近年では就任1年目にDeNA・中畑監督が機動力を駆使した”せこいぜ野球”を掲げたが61盗塁で成功率58.7%、阪神・和田監督も”走塁革命”を掲げたが3年間の平均盗塁数は67個で通算盗塁成功率は64.4%。キャンプで機動力重視の方針を打ち出してもシーズンでやり続けるのは難しいようだ。
盗塁の損益分岐点は成功率70%が目安
野球を統計学の観点から分析するセイバーメトリクスでは、優勝ラインに届くために必要な得点と失点を算出することが出来る。また安打1本、四球1つがどれほどの得点を生み出すのかも過去の統計からわかっている。これによると盗塁の得点価値は0.17点。安打が0.44点、四球が0.29点だから意外と得点への貢献度は高くない。2安打と5盗塁がほぼ同等だ。にも関わらず盗塁刺は−0.40点。盗塁は成功しても得点価値が大きく増加しない反面、失敗した時の損失が大きいためセイバーメトリクスでの評価は高くない。昨季、盗塁数134、盗塁成功率73.6%で共にリーグトップだった日本ハムでさえ得点価値に換算すると+3.58点。それでも盗塁を仕掛けるならば成功率70%前後が損益分岐点となる。成功率70%で200盗塁を成功させるためには286回の企図が必要だが、この場合で盗塁による得点創出価値は+34点、盗塁失敗による得点損失は−34.4点とほぼ同じ。7盗塁を決めた韓国・KIAとの練習試合後に大久保監督は「トライしてくれたことが大事。200盗塁のためには350から400は盗塁企画しないといけない」とコメントしたらしい。これは意識付けの意味も込めてややオーバーに言ったものだと推測されるが、もし本当に200盗塁、150盗塁刺となれば得点価値は−24点。相手バッテリーにプレッシャーをかけられる、配球がストレート中心になって読みやすくなるというメリットを差し引いてもさすがに損失の方が大きいと思われる。
なぜ”楽天”が盗塁重視の野球を?
ただ気になるのは、楽天はセイバーメトリクスの考え方を重視するチームだということだ。「楽天の補強戦略。マネーボール路線で目指すは日本のアスレチックス」でも触れたが、外国人助っ人に高い出塁率を求めることやDeNAを戦力外になった福山、藤江を獲得することからもその様子が伺える。その楽天がセイバーメトリクスの観点からはあまり好まないはずの盗塁を前面に押し出すのはなぜなのだろうか。フロントと現場の方針がズレているのか、戦力的にギャンブルせざるを得ないと考えているのか、成功率70%を優に超える確信があるのか、シーズンへの撒き餌なのか。真相はわからない。ただ何にせよ優勝ラインの80勝に必要な勝率.559を上回るためには、昨季の549得点、604失点を逆にする以上の成績向上が求められる。ほぼ全ての外国人選手を入れ替えて臨む今シーズン、戦術面でも改革元年となるのか。