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安倍首相を罵倒し続けた中国大使 ついに出たオバマの対中ドクトリン

木村正人在英国際ジャーナリスト

英国のシンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス)で5日、劉暁明・駐英中国大使が「侵略の過去を否定する安倍晋三首相がアジアの緊張を高めている」と激しく非難した。

安倍首相を激しく批判し続けた劉・駐英中国大使(筆者撮影)
安倍首相を激しく批判し続けた劉・駐英中国大使(筆者撮影)

しかし、これまで同盟国であっても領土問題には中立の立場を貫いてきたオバマ米政権が尖閣諸島などについて「一方的な現状変更の試みが緊張を高めている」と中国を牽制、ようやく「対中国ドクトリン」を明確にした。

2008年の世界金融危機以降、国債を買ってもらったり、資金を出してもらったりしなければならない気兼ねからか、欧米諸国は、南シナ海や東シナ海で我が物顔で振る舞いだした中国に対して、はっきりモノを言ってこなかった。

筆者はロンドンでありとあらゆる会合に顔を出し、「南シナ海、東シナ海における米国のゲームプランは何なのか。米国が明確な対中外交の基本方針を示さないことが、中国の横暴を許している」「アフガニスタンから撤退したあと北大西洋条約機構(NATO)の役割が減るなら、アジア太平洋地域に海洋版NATOを構築できないか」などと質問してきたが、のれんに腕押しだった。

最近になって、ようやく南シナ海、東シナ海での中国の横暴ぶりが欧州にも浸透し、中国警戒論が次第に広がってきた。

しかし、安倍首相の「侵略の定義は定まっていない」「安倍内閣として、村山談話をそのまま継承しているということではない(その後、軌道修正)」発言と靖国神社参拝、麻生太郎副首相兼財務相の「ナチス見習え」発言、橋下徹大阪市長や籾井勝人NHK会長の従軍慰安婦発言、百田尚樹NHK経営委員の「南京大虐殺はなかった」発言など、日本と安倍首相の歴史認識を疑わせるニュースが間断なく世界中を駆け巡っている。

「真正保守」を名乗る方々が、中国共産党が泣いて喜びそうな攻撃材料を次から次へと提供しているのはどうしたことだろう。チャタムハウスでの劉暁明大使はまさにそこを突いて、言いたい放題だった。「日本は大戦後の国際秩序に挑戦している」「日本はアジアを不安定化させる最大の要因」などなど。

在英日本大使館の四方敬之公使が質疑で「事実と異なる」と反論、会場からも「軍備を増強しているのは中国」「日本は自制している」という日本擁護論も出た。

しかし、日本を目くらましに使って自らの領土的野心と軍拡を覆い隠そうとする中国共産党の策略に自称・真正保守の方々が次から次へとはまっていく姿を見ていると、戦略的思考を欠いているとしか言い様がない。それとも、靖国神社こそが日本のナショナルアイデンティーと心の底から思い込んでいるのだろうか。

さて、冒頭の「対中国ドクトリン」を5日の米下院外交委員会公聴会で証言したのはダニエル・ラッセル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)である。

前任のカート・キャンベル氏に比べて大人しい感じのする人だが、駐大阪・神戸アメリカ総領事、国務省日本部長などを歴任した「ジャパン・ハンド」。奥さんは日本人で、日本語もペラペラだ。

1月13日、チャタムハウスで講演した際、ラッセル氏は南シナ海や東シナ海の領土問題について「対立がある(at odds with)」としか発言しなかったのでガッカリしたが、米下院の公聴会ではハッキリ言ってくれた。

「中国による東シナ海での防空識別圏(ADIZ)設定は挑発的行動であり、悪い方向に向けた深刻な一歩だ。尖閣諸島は日本の施政権下にある。一方的な現状変更の試みが緊張を高めており、国際法に基づく領有権主張を強めるものではない。米国はADIZ設定を認めないし、受け入れない。地域での作戦展開を変えるつもりもない。中国はアジア地域で同様の行動を取るべきではない」

「(1)南シナ海・スカボロー礁へのアクセス制限(2)フィリピンが領有する仁愛礁への圧力(3)他国の本土に近い地域へのブロック設置(4)南シナ海で領有権を争っている地域での施政権・州管区の表明(5)尖閣周辺での中国公船による危険な活動の前例のない増加(6)東シナ海における突然で、何の相談もない一方的なADIZの設定(7)領有権争いのある南シナ海での漁業権制限。こうした行動が地域の緊張を高め、南シナ海、東シナ海における中国の目的に懸念を抱かせている」

これまでは、

昨年1月、クリントン国務長官(当時)「日本の施政権を害そうとするいかなる一方的な行為にも反対する

昨年4月、ケリー国務長官「現状を変えるような行動に反対する

同月、ヘーゲル国防長官「現状の変更を試みるいかなる力による一方的な行為にも反対する」という発言にとどまっていただけに、ラッセル氏の見解はかなり踏み込んだ内容になっている。

大阪勤務の経験があるラッセル氏に、「大阪の愛情が通じた」と大阪出身の筆者は信じたい。しかし、ラッセル氏が橋下市長の従軍慰安婦発言をどう感じたのか、個人的には気にかかる。

筆者は以前から、中国はアジアの近隣諸国に対しては傍若無人に、欧米に対しては神妙に振舞っていると疑っていた。そこで、チャタムハウスの中国専門家ロデリック・ワイ氏(元英外交官)に「中国はアジアと欧州でアプローチを変えているのではありませんか」と質問してみた。

ワイ氏「基本的には同じと思う。英国のキャメロン首相はチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世と会談したが、関係改善に要する期間が以前に比べて長くなった。欧州に対しても中国は自らの政治的利益を擁護し、促進するようになっている。中国は世界的により幅広い利益を追及するようになっている。今は日本に焦点が当たっているのだと思う」

筆者「中国は清朝以来受けた歴史的な恥辱をそそごうとしているのでしょうか」

ワイ氏「その通りだ。対象は日本、英国、米国などだと思う」

「自らはアジアの平和勢力」と言い募る中国の化けの皮がはがれるのはもうすぐだ。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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