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【トランプと英国】英女王がトランプ氏を公式招待へ ー王室の占める位置とは

小林恭子ジャーナリスト
訪英したコロンビアの大統領とともにバッキンガム宮殿に向かう英女王(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

何故、英女王の出番になった?

最近になって、英女王が次期米大統領ドナルド・トランプ氏を来年6月か7月、英国に招待するというニュースが出た。

表向きは英米2国の関係強化だ。確かにそういう意図があるのだが、ほかにもわけがあった。

11月9日、米大統領選の翌日、不動産王トランプ氏が当選したことが判明した。英国の知的エリート層は一時的にパニックに陥った。まさか、人種差別的、女性蔑視的暴言を飛ばすトランプ氏が当選するとは思っていなかったからだ。 

メイ首相はトランプ氏の当選確定後間もなくして祝福のメッセージを送った。しかし、今月12日、ニューヨークを訪れた英国独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージ氏が首相を差し置いてトランプ氏と面会してしまった。

ファラージ氏は英国の欧州連合(EU)からの独立(=ブレグジット)をもたらした政治家だ。しかし、EUからの脱退を主張してきたUKIPは長い間泡沫政党と見られており、下院議員は一人しかいない。

欧州議会議員のファラージ氏自身は下院選挙で何度も落選している。だが、トランプ氏とは親しい関係を築いてきた。トランプ氏の選挙運動に参加したことさえある。

「外国の政治家としては初」の会合を首尾よく達成してしまったファラージ氏。「メイ政権はファラージ氏に頼んで、トランプ氏との『仲介役』になってもらったらどうだろう?」-そんな声が出てきた。「ファラージ氏を駐米大使にしてもいいのでは?」とも。

ファラージ氏に「先を越された」ことで悔しさいっぱいの政権が繰り出してきたのが、王室である。エリザベス女王は英国のヒエラルキーのトップにいる。この人以上に高い存在はなく、国内外の人気も抜群だ。ファラージ氏の上昇を止められるのはエリザベス女王しかいなったのである。

英国民と王室の関係を振り返ってみたい。(以下、「EUマグ」に掲載された筆者の記事「英国で新王子が誕生」から一部を抜粋した) 

1000年近く続く王室制度

イングランド王国(現在の英国の中心部分を占めるイングランド地方にあった)がフランスのノルマンディー公によって征服されたのが1066年。それから1千年近くにわたり、英国では王室制度が続いてきた。

例外はクロムウェル父子が護国卿として実権を握った共和制(1649-59年)のみだ。

英国は現在、立憲君主制を取る。「君臨すれども統治せず」の原則は、国王の権限を制限したマグナ・カルタ(1215年)、権利の章典(1689年)などを経てこの形となった。

エリザベス女王(90歳、在位1952年ー)は英国の元首であるほかに、16カ国の主権国家(英連邦王国)の君主であり、54の加盟国からなる英連邦および王室属領と海外領土の元首、英国会の首長でもある。

在位は64年となり、ウィンザー朝(1917年ー)の第4代君主。ウインザー家の家系をたどると、18世紀にドイツからやってきたハノーバー朝で、ドイツ系の王族が現在まで続いている。

皇室との違いは

立憲君主制の英国と、天皇陛下が国の象徴となる皇室とでは政治に干渉しない点で共通しているが、異なる点も多い。例えば日本の場合は皇統に属する男系の男子が継承するが、英国では女性も王位を継承できる。

英国では1960年代以降、より自由で柔軟な価値観が浸透し、親、会社の上司、そのほか社会のエスタブリッシュメント(支配者層)への敬意の念が薄れて行った。

社会通念や価値観がより自由化、柔軟化した英国では王室批判のドキュメンタリー、新聞記事、ジョークは日常茶飯事だ。

欧州のほかの国の王室ではほとんどが立憲君主制をとり、男女にかかわらず最初に出生した子供に次の元首となる権利が与えられるようになっている。

エリザベス女王の公務の代表的なものとして、下院の会期オープニングの儀礼がある。毎回、女王が施政方針を読み上げる。

実際にはこれは官邸が書き、女王が読む形をとっている。

週に一度、首相との会合を持つ。この中で話された内容は一切外に漏らしてはいけないことになっている。

政権交代の際には辞任する首相がバッキンガム宮殿に向かい、政権終了を報告する。入れ替わりに入ってくるのが次の首相候補だ。女王は「女王陛下の政府」を形成するよう、依頼する。

人気度は?

複数の世論調査で王室への支持率はおおむね、高い。王室を廃止して共和制にしようと思う国民は「20%ほど」と言われている。唯一、批判が高まったのは、ダイアナ元皇太子妃がチャールズ皇太子との離婚後、自動車事故で亡くなった時(1997年)。エリザベス女王はスコットランドのバルモラル城に滞在しており、しばらくの間、国民の前に姿を現さなかった。

メディアを通じて国民の不満感が伝わると、女王はロンドンに戻った。宮殿の前に積まれた、ダイアナ元妃を追悼する花束やメッセージに王室の家族全員が圧倒された。いかにダイアナ元妃が国民に深く愛されていたかが伝わってきた。

女王はテレビで国民へのメッセージを流した。「女王として、そして一人の祖母として」の追悼の言葉だった。ここでまた、英国民はエリザベス女王の下に一つにまとまったのである。

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エリザベス女王とその人生、「クリスマス・メッセージ」については、こちらをご覧ください。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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