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NBAの超新星、19歳のザイオン・ウィリアムソン

林壮一ノンフィクションライター
23日のウォーリアーズ戦では28得点、7リバウンド、2アシストをマーク(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 ニューオーリンズ・ペリカンズの背番号1、ザイオン・ウィリアムソン。身長198cm、体重129kg。名門DUKE大で1年のみプレーし、今年のNBAドラフト1位となった19歳だ。

撮影:著者
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 5歳でバスケットボールと出会うが、年少時代はアメリカンフットボールやサッカーも楽しんでいたそうだ。9歳から、毎朝午前5時に起床して練習を重ねて来た努力の男である。大学時代にバスケ選手だった継父が、小学生だったザイオンにポイントガードとしての動きを教え込んだ。試合には4歳年上のチームのメンバーとして出場していた。

 

 高校1年次に早くもバスケット推薦で大学から声の掛かるほどの選手となり「ザイオン争奪戦」が起こるが、DUKE大を選択(2018)。プレシーズンマッチから他を寄せ付けない活躍を見せる。

 しかし、2019年2月20日に行われたノースカロライナ大戦のTipoff36秒後にNIKE社製の左足バスケットシューズの底が捲れ上がり、破裂。ザイオンは左膝を負傷する。

 1年生ながら全米大学最優秀選手を獲得。大学生プレーヤーとしては500得点、50スティール、50ブロックを挙げた3人目の選手となり、正に鳴り物入りでNBA選手となった。

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 しかし、開幕直前に右膝半月板を損傷し、デビューを飾ったのは2020年1月22日。初陣では22得点、7リバウンド、3アシストと上々の滑り出しを見せる。

 それから、およそ1カ月。ザイオンを直接目にする機会が訪れた。

撮影:著者
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 2月21日、ポートランド・トレイルブレイザーズのホーム、モダ・センターにニューオーリンズ・ペリカンズがやって来た。同会場は、メディアルーム出口の正面にAWAYチームのロッカールームがあり、そこから通路を40メートル程奥に進むと、トレイルブレイザーズ控室の扉が見えて来る。

 AWAYチームの選手は、2つのドレッシングルーム間の通路を使って体幹トレーニングを行うのが常だ。ザイオンはTipoff105分前にゴムを使った体幹や、背中を壁につけて膝を90度に曲げ、空気椅子のように座って腿を鍛えるメニューをこなしていた。ワイヤレスイヤホンをしており、時折トレーナーと談笑するが、目付きは鋭い。

 どうしても目が行くのは、彼の腹である。ザイオンは過去20年のNBA選手におけるBMI数値で、オリバー・ミラー、シャキール・オニールに継ぎワースト3位となっている。つまり、肥満体に入るのだ。

 30分ほど、通路で汗を流すとザイオンはワイヤレスイヤホンをしたまま、コートに向かった。右膝には2重にサポーターが巻かれている。入場したファンの前でシュート練習を繰り返す。

撮影:著者
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 確かに太目ではあるが、動きは滑らかで軽快だ。コートでもトレーナーからの指摘に注意深く頷きながら、ウォーミングアップを続けた。額には汗が光る。

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 様々な角度からシュートを打つと、ザイオンはベンチに腰掛け、パソコンで自身の画像を見ながらトレーナーのアドバイスを受けた。その様子にだけはルーキーの初々しさが漂う。5分ほどするとザイオンは白い歯を見せ、トレーナーと拳を合わせて控室に移動する。

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 途中で通路脇のファンにサインを求められると、丁寧に左手でペンを走らせた。

撮影:著者
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 ザイオンがドレッシングルームに入った折、メディアはまだ控室で選手からコメントを取っていい時間帯であった。私がザイオンに近寄ろうとすると、ペリカンズの広報に止められた。

 「彼は試合前の取材はダメなんだ。終わった後に囲みをやるから、そこで質問してくれ」

 なるほど、ルーキーながら"KING"レブロンやジェームズ・ハーデンのように、規制されているのだ。NBAもMLSもMLBでもそうだが、BIG NAMEは大抵、控室の端を自らのロッカーとする。ザイオンにも四隅の一角が与えられていた。

 試合は128対115でペリカンズが勝利した。ザイオンはチーム内で3番目に長い29分17秒のプレーで、25得点、3アシスト、1スティールの活躍を見せた。25得点は、この日のペリカンズで最多である。

 私が着目したのは、シュート以上にザイオンのボールの貰い方の巧みさである。腹回りに肉は付いているが、オープンスぺ―スを瞬時に見付け、そこに飛び込んでパスを受ける動きに熟練味を感じさせた。所謂バスケットIQが高い。

 この日のモダ・センターは1万9千946人で埋まったが、「敵ながらあっぱれ!」なるニュアンスで、何度も溜息が聞こえた。そしてトレイルブレイザーズの敗戦が濃厚となり残り時間が5分を切ると、多くの客が席を立った。

 「ペリカンズのバスは22時に出発します」。控室のボードには、そう書かれていた。ザイオンが通路で待ち受けるメディアの前に現れたのは、21時52分。囲み取材は、ほんの数分である。

 まずはペリカンズの全ゲームを放送するTV局が25得点に関して訊ねた。続いてザイオンは、トレイルブレイザーズの印象、ケガの回復状態などについて答えていく。その横をペリカンズの先輩プレーヤーたちが「おい、バスの出発時間に遅れるなよ」などと軽口を叩いて通り過ぎて行く。

 私も質問した。

ーーデビューからおよそ1カ月が経過しましたが、これまでにNBAから学んだものは何でしょうか。

 「チームメイト一人一人のプレーを把握し、パスを出すのはどのタイミングがいいのか、また、チーム内でどういう動きをすべきなのかを学んで来ました」

ーーそれによって、成長を感じ、自信を得ましたか?

 「そうですね。一戦一戦、得るのもがありますから」

 結局、囲みは5分ほどで終了し、取材としては食い足らなさがあったが、ザイオンという新星を直接目に出来た充実感だけは残った。

撮影:著者
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 広報が囲みの終わりを告げた際、通路にはトレイルブレイザーズのスター、カーメロ・アンソニーが佇んでいた。ザイオンはアンソニーに歩み寄り、笑顔でハグを交わした。

 誰もがその存在を認める新星、ザイオン・ウィリアムソン。19歳にして、NBAの顔になりつつある。どこまで己を輝かせられるか。期待大だ。

ノンフィクションライター

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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