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【意外に知らない福島第一】1日に500トン以上も増える汚染水はどこへ行く

木野龍逸フリーランスライター
東電資料より抜粋。「1日約300トンの汚染水が発生」と記載している

みなさんは、福島第一原発の汚染水がどのくらいのペースで増えているか、ご存じだろうか。

よく見る数字では、新聞やテレビの「1日に約300トン(立方メートル)」という説明ではないかと思う。例えば10月15日の福島民友電子版では「建屋に流れ込む1日約300トンの地下水は建屋内の高濃度汚染水と混ざり、約300トンの新たな汚染水となって毎日増え続ける」と伝えている。

この増加量は、東電の発表資料に記載してある数字だ。東電は毎月公表しているロードマップの進捗状況の資料の1ページ目に、大きな文字で、「事故で溶けた燃料を冷やした水と地下水が混ざり、1日約300トンの汚染水が発生しており」と記載している。これを読めば、日本語の読解力のある人なら、「そうか、1日に300トンずつ増えてるんだな」と思うに違いない。(http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/roadmap/images/d151001_05-j.pdf

ところが実際には、ここ1年ほどは、1日に約520トン(立方メートル)というハイペースで増えているのである。

東電が毎週公表している汚染水の週報の数字から計算すると、2014年9月23日から15年9月26日までに、汚染水の総量は19万3100m3増えていることがわかる。これを369日で割ると、増加量は日量520m3になる。300トンの7割増しだ。事故発生後、2011年9月に地下水流入によって汚染水が増えていることを認めた時は、1日に400トンだったから、それよりも増えている。

実は先のロードマップの資料を細かく見ていくと、後ろのほうに出ているグラフの中に小さな字で、8月20日以降の増加量(なんの増加量なのかわかりにくいが、計算すると1日に500トン弱の増加になる)が週単位で記載されている(6ページ)。東電はこの記載や、汚染水の週報をもって、増加量は公表していると主張している(東電はこの数字を8月末から記載しはじめた)。

グラフ中に増加量が記載されている
グラフ中に増加量が記載されている

けれども、ロードマップの資料の1ページ目に大きく「1日約300トンの汚染水が発生」と書いておきながら、実際の増加量はグラフの中の小さな文字だけ(本文にも記載していない)というのは情報のミスリードではないのか。不親切極まりない説明としか言いようがない。

9月の会見でこの増加量の確認を求めると、白井功原子力立地本部長代理から、「そちらは私のほうで計算しているわけではありませんのでお答えしかねます」という答えが返ってきた。10月1日の会見でようやく、「500トン弱」増えていることを認めたが、1年間の平均では500トンを超えている。そもそも増加量を把握しているのなら、きちんと説明すればいいと思うのだけども、なぜそうしないのだろう……?

では、どうしてこんなに増加ペースが上がっているのか。大きな理由が、護岸のウェルポイントという井戸からくみ上げている汚染地下水ではないかと考えられる。2013年に東電が海洋流出を認めてから、護岸の土壌改良工事が行われ、水ガラスの壁で地下水を止めることになった。そうすると、止めた地下水は地表にあふれる。これを防ぐために、ウェルポイントを護岸に多数設置して、くみ上げた汚染地下水を建屋に戻している。

東電はこの、ウェルポイントから建屋への戻し量を、1日に平均50m3程度だと説明している(http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/roadmap/images/l150928_13-j.pdfP69など)。しかし降雨量によっては、1日に400トン近くもくみ上げているのである。

東電はこのことを積極的に説明しないが、原子力規制庁は現場の管理事務所がこの量を把握しているという。把握できる理由は簡単で、東電の現場ではきちんと、この数字を確認しているからだ。これなら、汚染水が大きく増えている理由も腑に落ちる。

このようなことがあるので、会見でウェルポイントの情報公開を求めたこともある。すると東電は、汲み上げ量の公表を拒否した。公表しない理由は、「全体の数字を出している」からなどと説明するが、これでは内訳を出さない理由にはなっていない。何度か押し問答をしたが、らちがあかなかった。

そして地下水流入量と実際の汚染水増加量の差分については、「ウェルポイントやALPSの薬液注入など」が原因で増えていると繰り返すばかり。最後はいつもの、「ご理解を」で終わってしまう。

ところで東電は、前述のロードマップに、こんな説明を記載している。

<建屋への地下水・雨水等流入量>=

<建屋保有水増減量>+<建屋からタンクへの移送量>ー<建屋への移送量(原子炉注水量、ウェルポイント等からの移送量)>

これらの要素のうち、建屋の保有水量、建屋からタンクへの移送量は、毎週、数字が公表されている。原子炉への注水量は、循環注水冷却というシステムの閉鎖空間の中にあるので、純増量にはカウントされない。つまり、ウェルポイントからの移送量がわかれば、1日に増加量の内訳がほぼつかめ、「地下水流入量+雨水の流入」もわかる(増加にはALPSの薬液が寄与しているというわりには、この式の中に入っていないのも奇妙だ)。

雨水の流入量はそれほど多くないだろうから、今は推測に過ぎない地下水の流入量がもう少し的確な数字になって見えてくる可能性もある。でもウェルポイントからの汲み上げ量が不明だと、こうした検証作業もできない。地下水の大量流入が問題になり、凍土遮水壁などの対策が実施されているというのに、流入量の正確な把握につながる情報がきちんと説明されないというのは、いったいどういうわけなのか。

ちなみに8月27日、10月1日のロードマップの資料には、直近のウェルポイントからの汲み上げ量が記載されている。けれどももっと長期のデータがなければ状況の把握はできない。過去に遡って汲み上げ量を公表すれば、より正確に汚染水の情報を伝えることができるのに、東電はなぜこの数字を出さないのだろう。正確に知られると不都合なことでもあるのだろうか。

記者会見では、ぼくだけでなく他の記者からも、データがあるなら公表してほしいという声が出た。東電の説明に対する検証が必要だからというのが、理由だった。

10月1日の定例会見で東電の増田尚宏・福島第一廃炉推進カンパニープレジデントは、汚染水対策が進んでいることから、「これまでに重点配置してきた汚染水対策のところのリソースを、より廃炉作業の方に傾注していくという形にしていきたいと思っている」と述べた。根拠は、地下水流入量を抑えることができているからというものだった。

しかし現実には、汚染水の増加ペースは事故直後に比べて減るどころか増えている。汚染水問題はまだまだ続く。規制庁は解決の糸口を海洋放出に見ている。東電はまだ放出を認めていないが、いずれこのことを説明すべき時期がくるのは、間違いない。原発事故の影響の大きさは、まだ全貌が見えていない。

フリーランスライター

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況等を中心に取材中。ニコニコチャンネルなどでメルマガ配信。連載記事「不思議な裁判官人事」で「PEP(政策起業家プラットフォーム)ジャーナリズム大賞2022 特別賞」受賞。著作に「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)他。

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