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北朝鮮の親たちが激怒した「幼い兵士への執拗な暴行」

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の兵士(デイリーNK)

 慢性的な飢餓、生活環境の劣悪さ、そして暴力――男性は7〜8年、女性は5年という長い兵役を務めるには、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の条件はあまりにも悪い。

 それが殺人事件に発展することもしばしばある。北部の両江道(リャンガンド)に駐屯する第10師団では、上官が部下を殴り殺す事件が起きた。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

 事件が起きたのは、両江道に駐屯する朝鮮人民軍第10軍団の267師団直属大隊だ。朝鮮人民軍は現在、米韓合同軍事演習をきっかけに朝鮮半島の緊張が高まったとして、全軍で常時動員態勢を取っている。

(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

 国境に接する地域に駐屯する部隊では、いつ何が起こるかわからないとして当直の士官を2人から3人に増やし、夜間勤務に臨む兵士には「スパイの策動がいるあるかもしれないので、絶対に居眠りはするな」と命じた。

 今月15日の夜。10代のある兵士が、テントの中で夜間勤務に当たっていたが、ついつい武器を置いたまま居眠りをしてしまった。そこに入ってきたのは、前後不覚になるほど泥酔した軍官(将校)だった。

 すぐに目を覚ました兵士は過ちを侘びたが、軍官は「今はこういうときなのに、なぜ居眠りするのか」と暴言を吐き、銃床で10分以上にわたって兵士を殴り続けた。

 兵士は気を失ってしまったが、軍官は「何を大げさに」と兵士への殴打を止めなかった。やがてやって来た別の兵士が、軍官をなだめたが、兵士はすでに事切れた後だった。現場は兵士の血で染まり、凄惨な光景だったという。軍官は翌朝逮捕され、軍団の検察所に身柄を移された。

 この手の不祥事は、徹底して秘密に付されるものだが、話はあっという間に部隊近隣の地域に広がってしまった。

 兵士は入隊してから1年足らずの18歳の新兵で、朝鮮半島では特に大切にされる一人息子であったことがわかり、加害者の軍官に対する激しい非難の声が湧き上がった。地元にも自分の息子を軍隊に送り出した人は少なくなく、決して他人事ではないのだ。

「良好な軍民関係」を保つことに非常に敏感になっている軍当局だが、軍官にいかなる処罰を下すのか注目される。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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