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「ニュース使用料」MicrosoftとGoogleがののしり合いを激化させる

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
By mk_is_here (CC BY 2.0)

「ジャーナリズムの苦境はグーグルのせい」「あからさまなマイクロソフトのご都合主義」

プラットフォームによる「ニュース使用料」支払いの法制化を巡って、マイクロソフトとグーグルがさらにののしり合いを激化させている。

オーストラリアの「ニュース使用料」法制化論議で口火を切った両社のいさかいは、米国に舞台を移しての応酬となった。

オーストラリアでの新法成立の余勢を駆って、米国でも法制化を求める動きが勢いづく。

同様の動きはEUやカナダなどにも広がっており、法制化を求める「メディア推し」のマイクロソフトと規制の標的となるグーグル、という構図が国境を越えて展開される様相だ。

かつては特許や独占を巡ってグローバルな訴訟合戦を繰り広げた両社の対立が、再び熱を帯びてきた。

●米国に舞台を移す

報道機関がトラフィックを収益化することはますます難しくなっている。利益の大半はグーグルに搾り取られてしまうからだ。グーグルは今や、ニュースの"1面"というべき存在になった。(中略)現在のジャーナリズムの苦境をもたらしている問題は、グーグルが牛耳る検索とアドテク市場における競争の根本的な欠如が原因ともいえる。

米下院司法委員会の反トラスト法・商法・行政法小委員会で3月12日に開かれた公聴会で、証言に立ったマイクロソフト社長のブラッド・スミス氏はこう指摘した。

同小委員会では1年以上にわたってGAFAなどの巨大プラットフォームの市場支配と競争力排除の実態調査を進めており、2020年10月には、民主党議員グループが400ページを超す報告書を作成。分割などの規制強化の必要性を指摘した。

スミス氏が証言に立った公聴会のテーマは「自由で多様な報道の救済」。議論の中心は、公聴会開催の2日前、3月10日に提出された「ジャーナリズム競争・保護法案(JCPA)」だった。

同小委員会委員長で民主党のデビッド・シシリン氏と共和党の筆頭委員、ケン・バック氏らが共同提出者だ。

同じ法案は米上院でも、司法委員会の競争政策・反トラスト・消費者権利小委員会委員長で民主党のエイミー・クロブシャー氏と、共和党のジョン・ケネディー氏が共同で提出している。

同法案は2018年2019年にも提出されているが、議論は進まず、今回の再提出に至る。

法案は、ニュースメディアが共同で、グーグルやフェイスブックなどのプラットフォームに対して、「ニュース使用料」の価格交渉をすることを、4年間の期限付きで認めるという内容だ。

カルテルのような業界内での共同取り決めは違法だ。だが、巨大プラットフォームとニュースメディアの交渉力の不均衡を是正するため、その免責を認め、「ニュース使用料」交渉を前進させる狙いがある。

この法案の再提出が注目を集めるのは、下院公聴会の前月の2月25日、オーストラリア議会で「ニュース使用料」の支払いに強制力を持たせる「ニュースメディア・デジタルプラットフォーム契約義務化法」が成立したためだ。

※参照:Google、Facebook「支払い義務化法」が各国に飛び火する(03/01/2021 新聞紙学的

※参照:Google、Facebookの「ニュース使用料戦争」勝ったのは誰か?(02/19/2021 新聞紙学的

「ニュース使用料」をめぐる議論の舞台が、オーストラリアから、巨大プラットフォームの母国である米国の首都ワシントンに移った、ということになる。

やはり米下院公聴会で証言に立った業界団体「ニュースメディア連合(旧・米新聞協会)」CEOのデビッド・シャーバン氏はこう指摘する。

欧州やオーストラリアで見たように、グーグルとフェイスブックは規制を受けそうになると、①交渉を拒絶②ニュースコンテンツへのアクセスを遮断すると脅す(実際に遮断することもある)③規制回避のために一部のメディアにわずかな対価を提案する、という道筋をたどることになる。それこそがまさに、市場支配の表明そのものであることを、我々みんなが理解すべきだ。

つまり、オーストラリアの次は米国だ、とシャーバン氏は述べているのだ。

マイクロソフトのスミス氏の証言も、メディア業界と足並みを揃える。

ただし、5,500語を超える長尺の証言の中で、実に75回にわたって「グーグル」の名前が連呼されていることを除けば(シャーバン氏の証言で「グーグル」に言及しているのは4回)。

スミス氏の証言の中で、「フェイスブック」への言及は3回、「アマゾン」は1回、「アップル」への言及はゼロだ。

銃口は、明らかにグーグルに向いている。

●グーグルの反論

報道機関に対するサービス提供と資金提供によって、グーグルは世界最大のジャーナリズム支援団体の一つに数えられます。

今回の下院公聴会で証言はしていないものの、同小委員会に提出した声明文の中で、グーグルはこう述べている

この声明文にはマイクロソフトへの言及は一言もない。

だが、同日付で公式ブログで公開された国際問題担当の同社上級副社長、ケント・ウォーカー氏の声明は、怒気を含んだマイクロソフトへの反論だった。

この重要な議論は、問題の本質についてなされるべきだ。企業のあからさまなご都合主義で、議論を脱線させてはならない。

ウォーカー氏は、グーグルがクラウドや検索など、様々な分野でマイクロソフトと競争関係にあるとし、こう述べる。

残念ながら、これらの分野で競争が激化するにつれ、マイクロソフトは同社のお馴染みの戦略へと向かっている。競合社を攻撃し、自社の利益にかなうような規制策を求めてロビイングにいそしむわけだ。(中略)今回の攻撃は、マイクロソフトの長年のやり口への先祖返りと言える。この攻撃が、ソーラーウィンズの事件の直後、そしてマイクロソフト自身の深刻な脆弱性が原因で、数万にも上る顧客が次々にサイバー攻撃を受けることになってしまった、そのタイミングであることは、偶然ではないだろう。サイバー攻撃の被害者には、米政府機関、NATO加盟国、銀行、NPO、通信会社、公益事業、警察、消防救助部門、病院、そしておそらくは、報道機関も含まれる。

「ソーラーウィンズの事件」とは、セキュリティ会社「ファイア・アイ」が2020年12月に明らかにした、ソーラーウィンズ社のネットワーク監視ソフト「オリオン」の脆弱性を突いたサイバー攻撃により、大規模な被害が報告された事件だ。ロシア政府系によるサイバー攻撃と見られている。

さらに2021年3月には、マイクロソフト自身の「エクスチェンジサーバー」の脆弱性を突くサイバー攻撃が判明

公聴会が開かれた3月12日は、中国系と見られるこのサイバー攻撃に対し、マイクロソフトが対応に追われている最中だった。

グーグルのウォーカー氏は、マイクロソフトがこれらの事件への注目と責任追及の矛先をそらすために、グーグル批判を持ち出したのではないか、と述べているわけだ。

●訴訟合戦と休戦、そして再燃

グーグルとマイクロソフトはそもそも、特許や反トラストをめぐって各国で訴訟合戦を繰り広げることで知られた関係だった。

だが、好戦的ともいわれたマイクロソフト前COEのスティーブ・バルマー氏が2014年に退任し、後任に現在のサティア・ナデラ氏が就任。グーグルも2015年、CEOがラリー・ペイジ氏からスンダー・ピチャイ氏に交代し、会長だったエリック・シュミット氏も持ち株会社のアルファベット会長になるなど経営体制が変わった。

そして2016年には両社の「休戦合意」に至る。

そんな両社の新たないさかいの口火になったのが、オーストラリアの「契約義務化法」の議論だった。

この中で、新法の標的とされたグーグルは1月22日、議会の公聴会でオーストラリアからのサービス撤退の可能性を表明する。

※参照:Googleがメディアに報酬、「陽動作戦」が明暗を分ける(01/23/2021 新聞紙学的

これに対してマイクロソフトのスミス氏は2月3日、「契約義務化法」の全面支持を打ち出して、自社の検索サービス「ビング」への乗り換えを掲げ、公式ブログでこう表明した

明言しましょう:他のIT企業がオーストラリアから撤退すると脅すことがあったとしても、マイクロソフトはそんな脅迫めいたことは決してしません。

グーグルのウォーカー氏は2月11日、やはり公式ブログでやり返す

マイクロソフトがオーストラリアの法案論議に口をはさんできたことは、驚くには当たらない。もちろんマイクロソフトとしては、競合企業に実行不能な徴税負担を押し付けて、自社のマーケットシェアを増やしたいのだろう。

その第2ラウンドが、3月12日の米国での「ジャーナリズム競争・保護法案」をめぐる非難の応酬だ。

●法制化への懸念

「ニュース使用料」法制化には懸念の声があることも事実だ。

公聴会に声明を提出したニューヨーク市立大学教授のジェフ・ジャービス氏は、法規制が想定外の結果を招く危険性を挙げる。

オーストラリアの「契約義務化法」では、ニューズ・コーポレーションなどの大手とグーグルの巨額契約が次々と明らかになっている一方、中小メディアが置き去りにされている、とジャービス氏。

さらに、米国のローカルメディアは大半がヘッジファンド所有していると指摘し、こう述べる。

オーストラリア型の法律を米国で施行しようとしても、(中略)それによって発生する金額はすべて、ヘッジファンドのオーナーの帳簿に飲み込まれ、旧来型のローカル報道機関がジャーナリズムやイノベーションに取り組むために使われることはないだろう。

プラットフォームからメディアへの、補助金のような支払いではなく、メディアのイノベーションにつながる取り組みに資金を使うべきだ、というのはジャービス氏の以前からの持論だ。

ジャービス氏自身が2017年に立ち上げた「ニュース・インテグリティ・プロジェクト」は、まさにイノベーションなどを通してジャーナリズムへの信頼回復を目指しており、資金提供団体には、フォード財団、クレイグ・ニューマーク慈善財団などとともにフェイスブックが名を連ねている。

ワールド・ワイド・ウェブの開発者、ティム・バーナーズリー氏は2021年1月、オーストラリアの「契約義務化法」審議の過程で議会に提出した意見書の中で、「この法律がネット上の特定のコンテンツをつなぐリンクに支払いを要求することで、ウェブの根本的な仕組みが破壊されてしまう危険がある」と述べていた。

「ニュース使用料」があくまで"カンフル剤"であり、メディアの長期的な地盤沈下への解決策でないことは明らかだ。

それでも、オーストラリアでの「契約義務化法」のインパクトは大きく、その波紋はグローバルに広がっている。

●「ニュース使用料」で対立拡大

マイクロソフトはすでに2月22日、欧州のメディア4団体とともに、オーストラリア型の「ニュース使用料」法規制推進の共同声明を公表している。

カナダでもオーストラリア型の「ニュース使用料」法規制の動きが急だ。

「ニュース使用料」を軸に、マイクロソフトとグーグルの対立は、さらに拡大しそうな雲行きだ。

(※2021年3月15日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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