営業はスキルだ!誰もが無敗営業になれる、3つの質問と4つの力【高橋浩一×倉重公太朗】第3回
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
8年間、自らがプレゼンしたコンペの勝率は100%を誇るという高橋浩一さん。「お客様から選ばれる構造」に焦点を当てた再現性の高いノウハウは、日経や東洋経済が主催する300人規模の講演が毎回満席になるほど好評を博しています。高橋さんの編み出した「3つの質問」と「4つの力」を身につければ、仕事の無駄を省きつつ、顧客の心を動かす提案ができるようになるはずです。
<ポイント>
・オンライン営業で苦戦している人は電話を活用する
・プレゼンでは「突っ込まれビリティ」を意識する
・在宅勤務だからこそできる営業のアプローチ
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
■裏にある背景を問う
高橋:3番目の質問は、「裏にある背景を問う」ということです。お客様のセリフの裏側には、自分が見えていない背景が絶対にあります。
倉重:決断の背景を探るのですね。
高橋:そうです。枕ことばでデリケートな部分に切り込んでいきます。例えば今だったら、お客様の断り文句として、「コロナの影響」などがあります。「では、もしコロナがなかったら、この商品を個人的にどう思われますか?」と質問すると、結構デリケートなことが聞けるのです。
倉重:聞いてしまっていいのですね。
高橋:あとは返答に対して、「それは具体的にどういうことなのでしょうか」と深掘りしていくと、お客様の話す割合が増えます。
倉重:営業トークをしまくるのではなく、お客様に話してもらうということですね。
高橋:そうです。いざ自分が提案するときに関わってくる重要な情報については、具体的な切り口からピンポイントで聞いていきます。
倉重:具体的な切り口というのは、例えば「AとBの課題の、どちらから取り組みましょうか」という話ですね。
高橋:これが「質問力」の代表的な3つの質問です。なぜこれを出したかというと、お客様は、ズレによるガッカリから営業につらく当たることがあります。多分営業したことのある方の多くが経験されていると思うのですが、一生懸命提考えて資料を作成したのに、いきなり最後の見積もりのページからめくるお客様がいらっしゃるのです。
倉重:値段しか見ていないのですね。
高橋:でも、それは提案が悪いからそうしているわけではなく、単純に今までのガッカリ営業が影響しています。「営業がつらい」という若い人が多いのですが、単純にこの構造を自分に対する否定と勘違いしてしまうことが原因ではないかと思います。私もテレアポの時に何度もガチャギリされました。それは自分が否定されたのではなく、相手が営業電話でいい思いをしたことがないから、切られているのです。せっかく初回訪問をしても全然話をさせてもらえないときは、自分の前の営業がろくな話をしなかったので期待値が低いせいなのです。
■顧客とのズレを解消する4つの力
高橋:そういうお客様の地雷がいくつあるかを知るために調査してみたら4つの項目が現れました。これに当てはまらないのは1割しかいなかったのです。
倉重:営業に対して、皆さんは何かしら不満だということですね。
高橋:これが大きなお客様とのズレに関わるポイントだと考えたので、『無敗営業』の中で4つの力について書きました。それが「質問力」「価値訴求力」「提案ロジック構築力」「提案行動力」です。
倉重:その 4つが、ガッカリ営業にならないために必要な力ということですね。
高橋:そうです。質問するばかりではさすがに嫌がられるので、お客様に貸しをつくる「価値訴求力」があると、もう少し話を聞いてもらえます。
例えば今だったら、お客様が困っていたら、「コロナの助成金をもらうにはこのようにしたらいいですよ」とアドバイスします。そうしたらお客様も少し話してくださいます。「質問力」と「価値訴求力」がうまく機能すると、お客様からいい情報がいただけます。お客様が判断しやすいように、きちんと提案をまとめるのが「提案ロジック構築力」です。それらの活動を行い、なるべく生産性を高く回すのが「提案行動力」ということになります。
倉重:クライアントに先に価値を提供し、そこで得た情報をもとに、すぐ提案に移る。この4つはきちんと回していけば鍛えられる話ですよね。天賦の才のある人でなくても、きちんと提案する力を身につけることができるとご著書に書いてありました。
■オンライン重視の世の中で営業はどう変わる?
倉重:いよいよここからが本題です。コロナの影響で、リアルな対面での商談が極めて減っています。もちろんフェイストゥフェイスの価値がなくなったとは言いませんが、オンライン重視の世界観に変わっているわけですね。今でも営業職に従事している方々は、今後どうしていったらいいのでしょうか。
高橋:オンラインは確かに効率的で便利なのですが、相手の熱意、感情、反応、リアクション、雰囲気などが掴みづらいです。一番悩まれるのがリアクションの薄さです。
倉重:「何か質問はありますか」と聞くと、「大丈夫です」で終わってしまいますよね。
高橋:画面の向こう側で内職をしているかもしれないし、分からないことがあるけれども、「後で聞けばいい」と思っているかもしれません。
倉重:「質問はありませんか」と聞いてはダメなのですね。どういうふうに聞くのが効果的ですか。
高橋:具体的に問い掛ける観点を決めておくといいです。例えば、「他のお客様からは、『どのように社内に巻き込んでいったらいいのか』と聞かれるのですが、御社ではいかがですか」という感じで、お客様が考える観点を具体的にします。一方的に話し過ぎないように適度に質問を差し込んでいくのです。
倉重:ほぼ「こういう点を考えてください」と言っているような質問ですね。
高橋:そうです。「特定質問」といって、ピンポイントで具体的に考える観点を提示して聞いていきます。オンラインだと、対面型と違い、非言語よりも言語の情報が大きくなります。
倉重:オンラインだと、聴覚情報が8割という感じですからね。
高橋:オンライン営業が苦手な方に等しくおすすめしているのは、「電話とメールの力を上げる」ということです。
倉重:オンラインとは真逆な感じがしますが。
高橋:みんな非言語情報に頼り過ぎているからオンラインをやりづらく感じるのです。例えば、対面ではちょっとしたニュアンスや表情などを相手の間近で見ています。電話とメールは、そもそも顔が見えないではないですか。
倉重:確かにそうですね。
高橋:お客様から評価されていない段階の電話は敬遠されるかもしれませんが、きちんと検討段階に入ったら、むしろコミュニケーションをきめ細かく取ったほうがいいというのは、先ほどのデータでもわかります。連絡が少ないほうが不満は大きくなりますから、小まめに電話とメールでやりとりをしたほうがお客様満足度は上がるのです。
倉重:今の時代はZoomやTeamsの会議でするのかと思いきや、意外と電話も効果的だという話ですね。
高橋:電話だけではなく、いくつかを組み合わせていくのが効果的です。オンライン商談は、基本的に分解と二人三脚の世界観になると考えています。
倉重:例えばTeamsやZoomで話をした後に10分電話をかけるだけでも全然違うということですか。
高橋:そうです。オンライン商談の前に電話で確認することもありますし、倉重さんがおっしゃったように、商談をした後に電話をかけることもあります。
倉重:そうしてきめ細やかな対応を電話で差し込んでいくのですね。
高橋:そうです。オンラインではお客様との関係性や熱量などがつかみづらいと皆さんおっしゃっています。その場合は接点を増やして、なるべく相手の参加率を上げていくと成約につながりやすいです。
倉重:オンライン会議で、役員の方と担当の方とが一緒に出られているときがありますよね。役員の方の前ではあまり発言できなかったように見受けられたら、担当の方に「実際にどうですか」と後で電話をしてみるのも良さそうですね。
高橋:はい。商談を分解して、「今はどこまで行っているのか」ということをある程度細かい段階に分けて、少しずつ進めていきます。
倉重:単に提案するだけではなく、商談の見極め、課題の特定、メリット訴求、意思決定者の賛同、リスク排除、契約合意、受注という非常に幅広い流れがあるということですね。
高橋:そうです。分解しておけば、「今ここまできているから、次はこうしよう」というステップが定まります。今までリアルの勢いで受注していた方は、オンラインになってから苦しんでいるようです。きちんと細かくステップを区切って、一緒に進めていくことが大切です。あとは突っ込みどころがないような完璧なプレゼンよりも、相手に突っ込む余地を残してあげるのも良いです。私は「突っ込まれビリティ」と言っているのですが。
倉重:「突っ込まれビリティ」とは何ですか?
高橋:一方的に「私のプレゼンはどうですか」「非の打ちどころがない完璧な提案です」というよりは、8割くらいの感じで出しておいて、あえてお客様から意見をもらうのです。8割は自分で考えるけれども、2割は一緒に作れば、お客様も自分事が増えてきます。相手に参加してもらうことを折り込んでいくような商談の進め方を考えるといいですね。
■オンラインだからこそできる距離の縮め方
高橋:オンラインの場合だと、プレゼンの資料はあえて編集モードにしています。
倉重:その場で編集をしていくということですね。
高橋:そうです。一見ゴチャッとした資料になるのですが、お客様と議論をして、反応やコメントを入れていくと、熱量が資料の中に反映されていきます。
倉重:オンラインでも熱量が伝えられるということですか。
高橋:そうです。対面型で勢いやノリ、雰囲気を重視していた人たちが苦戦しているのは、オンラインの世界は、「お客様と共同で進めていく」という色が強くなっているからです。
倉重:オンラインだからこそできることや、距離の縮め方はありますか?
高橋:「物理的に会えないと関係が作りづらい」というお客様が結構いらっしゃるのですが、例えば、Zoomの背景にもいろいろな個性がありますし、家の様子を映されていると、距離が縮まるということもあります。オンラインになると、お客様とSNSでつながったりLINEでやりとりをしたりすることも増えてくるので、顔が見えない中でも距離を縮めることはできると思います。
例えば、法人営業の場合、会社に電話をすると上司がそばにいるので雑談はしづらいです。リモート環境なら直接担当者の携帯に電話をかけられます。上司が隣にいないので、商談の本題とは違った話もしやすくなりますよね。
今コロナで世の中が大変な状況ですから、ビジネスとは関係なく「最近はどうされているか心配でお電話をしました」と言っても問題ありません。世の中的に皆さんストレスや寂しさを抱えているので、その気持ちにきちんと寄り添うことができるのです。
倉重:「個人としてあなたのことを考えています」ということが伝えられるのですね。そこまで考えている人はなかなかいないでしょうからね。
高橋:これまで通り、対面の勢いで受注をもらうとか、通っているうちに仲良くなろうと考えていると、オンラインではなかなか難しいのです。物理的に離れていても、心の住所で寄り添うことはできるのではないかと思っています。
倉重:これは随分大きな発想の転換で、これからの営業につながる話ではないかと思います。ウィズコロナ、ポストコロナがどれほど続くか分かりませんが、営業はあるものを売るだけの仕事ではなくなってきているということですね。
高橋:雰囲気やノリで売るというよりは、お客様と一緒に考え、デジタルも含めて関係性の引き出しを広くつくること、商談を細かく分解して着実に進められることが求められてきます。ここ数カ月で営業のデジタル化も進んできました。営業はITがあまり好きでない方も多いのですが、そうも言っていられません。相手とどう付き合って、人間力を生かしていくかが大切です。
倉重:人間力は意外とオンラインでも出せるのだなと思っています。私もお客様とFacebookでつながって、日々シェアした記事などを見てもらっています。次の面談時にその話が出たりして、オンラインでもお互いのことを知り合うことができました。
高橋:これからの営業は、お客様と伴走して一緒に何かを作り上げていくというスタイルになると思います。お客様がズレた営業の人と出会った経験が多いと、少しきつい当たりをしてきます。そうすると、若手の方は「営業がつらい」と感じてしまうのです。ですが、これからは若手の人が戦いやすいフィールドになってくると思います。
倉重:確かに状況が一変しましたから、ゼロからスタートするには若い人のほうが有利ということは言えますね。
高橋:そうです。コロナでオンライン営業が増えましたが、みんなコツも分からないし、たくさん失敗するのが当たり前になっています。ある種失敗が許される環境で、楽しみながら創意工夫をし、量をこなすという世界に入ってきているのです。
倉重:今はいろいろなことがリセットされたから、試行錯誤をしてみるというフェーズですね。
高橋:従来の枠にとらわれず、たくさんトライができる若手の人は、むしろ営業の世界で生き生きと輝けるようになるのではないかと個人的に思っています。
(つづく)
対談協力:高橋浩一(たかはし こういち)
TORiX株式会社代表取締役CEO
東京大学経済学部卒業。ジェミニ・コンサルティング(後にブーズ・アンド・カンパニーと経営統合)を経て25歳で起業、企業研修のアルー株式会社に創業参画(取締役副社長に就任)。 商品なし・実績なしの状態から、業界トップレベルの受注率で自ら従業員1000名以上の大企業を50件以上、新規開拓。
その後、創業者が自分で営業するだけでは組織の成長が伸び悩むという課題に直面し、「営業経験なし」「社会人経験なし」のメンバーが毎年入社してくる中で、経営メンバーが現場に行かずとも、自律的にPDCAが回る組織体制と仕組みを構築。売上・利益とも大きく向上させ、3名でスタートした会社は6年で70名規模に。同社上場への成長プロセスにあたり、事業と組織の基盤を作り上げる。
2011年にTORiX株式会社を設立し、代表取締役に就任。 これまで、上場企業を中心に50業種3万人以上の営業強化を支援。行動変容を促す構造的アプローチに基づき、年間200本の研修、800件のコンサルティングを実施。8年間、自らがプレゼンしたコンペの勝率は100%を誇る。2019年10月、『無敗営業 「3つの質問」と「4つの力」』を出版 (発売半年で4万部)。