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人生を変える7つのスキル【豊田圭一×倉重公太朗】第2回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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今回のゲストである株式会社スパイスアップ・ジャパン 代表取締役の豊田圭一さんは、2018年にスペインの大学院 IEで世界最先端と呼ばれる“リーダーシップ”のエグゼクティブ修士号を取得しました。世界で活躍する彼が考える、「リーダーの資質」とはどんなものでしょうか? ビジネスパーソンに必須のセルフブランディングについても聞いてみました。

<ポイント>

・フォロワーがいて初めてリーダーになれる

・時代は「ストリートスマート」を求めている

・何の経験もなければ自己肯定感は育たない

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■今一番求められている力は「自分を知る」こと

倉重:では、2つ目に行きます。

「自分を知ることが、今一番求められている力だ」と書いてありました。

豊田:そうです。

僕はおととしスペインの大学院で世界最先端のリーダーシップ修士プログラムを学びました。

そこでリーダーに必要な能力として挙げられていたのが、「セルフアウェアネス」「自己認知」「自己認識」です。

それらが意味するところは、結局「スーパーマンは世の中にいない」ということです。

一人で全部できないから、誰かに委ねなければいけません。

自分を知らない人は「俺がリーダーだからおまえがやれ」と強がります。

倉重:自分は何が得意で、何が苦手かを把握しておかなければいけないのですね。

豊田:それを知らないで「俺は部長なんだから」と偉ぶっている人がいますよね。

部下に「あなたは部長だけど、何もできませんよね?」と言われたら、「うるさい、黙って俺の言うことを聞いていればいいんだ」と抑えつける。

それはダメですよね。

倉重:そうですね。

豊田:フォロワーがいて初めてリーダーと言われます。

どのような人にフォロワーがついていくかといったら、「あの人は一生懸命している」「ビジョンもすごくある」「だけどここが弱いんだよね」という人です。

自分の弱いところを開示して、「ここがダメなんだよね」とオープンマインドで接することができれば、「私が得意だからやります」というフォロワーが出てきます。

そういう意味では、自分を知らなければいけません。

スペインの大学院の授業でも、リーダーとして最初にやることは、ストレングスファインダーなどを使って、自分の強み・弱みを調べることです。

組織に多大な悪影響を及ぼすような弱点であれば修正しなければいけませんが、そうでなければ強みのほうを生かしたほうがいいのです。

倉重:では、自分の長所や短所はどのように知ればいいのでしょうか。

豊田:ストレングスファインダーもそうですし、人事の360度評価もそれです。

ジョハリの窓のことも少し書きました。

「自分が知らなくて、他人が知っている自分」や、「自分が知らなくて他人も知らない自分」などを知ることができる有名なツールです。

360度的に周囲の人から聞くという方法もあります。

倉重:豊田さんの「自分の知らない自分」はどんなふうでしたか。

豊田:30歳ぐらいの時に経営していた会社で、社員が一斉に辞めてしまったことがあるのです。

小さな会社でしたから、5人辞めただけで誰もいなくなってしまいました。

後から「あなたには誰もついていきたいとは思いません」と言われたのです。

他人は僕のことをそんなふうに見ていたのだと初めて知った瞬間でした。

倉重:それまでは自分のことをあまり知らなかったのですか?

豊田:「俺はリーダーだから、おまえは言うことを聞いていればいいんだ」と思ってしまっていたのかもしれません。

倉重:そんな感じだったのですね。

豊田:「すごく嫌なやつだった」と言われます。

暗黒時代の時です。もう「近づいてくるやつは全て切る」みたいな感じでした。

倉重:もともと清水建設にいらっしゃって、独立して10年ぐらいは、飲みにも結婚式にも行かなかったと話されていましたね。

豊田:自分がダメだから、幸せそうな人を見るのが嫌だったのかもしれません。

世の中全部をそういう目で見ていました。

倉重:ダークなオーラが出まくっていたんですね。

豊田:「あの頃の豊田さんは、本当に嫌な人だったよね」としみじみ言われて、「そうなの?」自分で驚くぐらいです。

倉重:よく変われましたね。

豊田:社員が全員辞めてしまった後、それまで6人でしていた仕事を1人でしていたんです。

新しく雇った2人も初心者でした。

でも、彼らは汗をかきながら一生懸命会社のためにがんばってくれたのです。

それを見て、初めて「ありがとう」という気持ちが出てきました。

彼らがいなければ、今この場に僕はいません。

今でも嫌なやつだったと思います。

倉重:「小さなプライドを捨てる」という話も、そこにありますね。

先ほどのスキルの話とも関連しますが、自分のプライドが邪魔して「恥ずかしい」とか「ダメだったらどうしよう」と考える人はすごく多いですよね。

「プライドを捨てよう」と言うのは簡単ですけれども、実際に一歩踏み出すにはどうしたらいいですか。

豊田:分かりません。

倉重:いいですね。分からないことは分からないときちんと言う。

豊田:少なくとも私は、20代30代の暗黒時代には2度と戻りたくありません。

40代だって戻りたくないと思っているぐらいです。

倉重:今が最高ですか?

豊田:今が最高です。

戻りたくはないけど、過去のつらさがあって良かったなとは思います。

「すぐやる」とか「小さなプライドを捨てる」というのは、その時代があったからできるようになったことです。

もしそれがなくて、すぐ成功していたら、絶対に嫌なやつだったと思います。

「おい、ワイン持ってこい」「おまえらは従っていればいいんだ」と部下をはべらせていたかもしれません。

倉重:その後、すぐ破産方向に行きそうですね。

豊田:本当に「暗黒時代ありがとう」という感じです。

倉重:やはり豊田さんは、誰とも会わずにダークサイドに落ちていた時間があるから、今が輝くのだなと毎回思います。

表面だけのパリピではなく、地に足がついています。

■自分のことを判断するのは常に他人

倉重:セルフブランディングの話も書いてありました。

セルフブランディングという言葉は、よく聞く時代になってきましたし、私もついこの間、弁護士向けのセルフブランディング本を書きました。

その本の中で、ブランディングを小手先のスキルだと思っている人もたくさんいます。

実際どうですか?

豊田:ブランディングは、結局相手がどう思うかです。

例えばまったく同じ内容で、無名のブランドと有名なブランドの商品が並んでいたら、後者を買うのではないでしょうか。

最終判断をするのは相手です。

僕らはビジネスパーソンですから、「あの人と飲みたい」「仲良くなりたい」「いっしょに仕事をしたい」と思われなければなりません。

実際に仕事のスキルがあるかどうかではなくて、「他人がどう見るか」が重要です。

ですから、ブランディングは誰にとっても必要なものだと思っています。

倉重:サラリーマンでもそうですね。

豊田:僕はサラリーマンの時から、仕事を終えるのは早かったのです。

さっさと終わって帰りたいし、「飲み会に行きたい」と思っていました。

倉重:合コンですね。

豊田:簡単に言うと合コンです。

毎晩合コンに行くためには、仕事を効率良く片付けなければなりません。

女の子と連絡するのも大変なんです。

当時はスマホがない時代ですから、会社に電話していました。

倉重:え、会社ですか?

豊田:そうですよ。「今日の19時に銀座ね、よろしく」みたいな電話を入れるわけです。

合コンに行く時間をつくるためには、さっさと仕事を進めておかなければいけません。

そうすると隣の部署の課長から、「おまえ仕事が早いから、これを手伝ってくれないか?」と頼まれるようになります。

合コンにもいけるし、隣の課の課長からも好かれます。

これこそブランディングですよね。

全ては「相手がどう思うか」が重要です。

倉重:そこにまたストーリーが加わってくるのがいいですよね。

今だって、豊田圭一にはすごいストーリーがあるじゃないですか。

豊田:どんなストーリーがあるんですか?

倉重:世界を楽しんで回るというような。

豊田:そうそう。よく「グローバルでご活躍ですね」と言われます。

ただ、そうやって褒めてくれる人たちも、僕が本当にグローバルで活躍しているかどうかは知らないはずです。

ただ「活躍している風」に見せているので、そう受け取ってくれています。

それがすごく重要で、「今度海外の案件があるんですけれども、ご相談させてもらっていいですか」という依頼が来るわけです。

そのようなイメージは、まさにブランディングの賜物なのです。

倉重:なるほど。

そこだけを切り取ると、表面的なブランディングの話のようにも感じますが、他の章で「実力をつけろ」ということも書いてあります。

両方書いてあるのがさすがだと思いました。

■経験を重ねることで実力がついてくる

倉重:では、続いて3つ目、「経験を稼ぐ」です。

経験は結局、自信になるということですか。

豊田:力は経験を重ねることでついてくると思います。

例えば、運転免許証を持っていたとしても、1回も運転したことがない人のタクシーには乗りたくないですよね。

倉重:そうですね。

豊田:あと「私は医師免許を持っていますが、まだ執刀をしたことはございません」という外科医に、お母さんの手術を任せたいですか?

倉重:任せません。

豊田:自分や親が病気になった時、どの先生がいいのか探しますよね。

これまでに多くの手術してきた人にお願いしたくなるのは、経験が豊富だからでしょう。

やはり力は資格ではなくて経験から身につくものです。

今時代は「ストリートスマート」を求めているといわれています。

倉重:アカデミックではなくということですね。

豊田:もちろんアカデミック、ブックスマートも必要ですが、やはり実践を重ねてきた人は強いです。

今は何が起こるか分からない、VUCAな時代ですから。

予測不可能な時代でスピードが速いこの時代に、正解はありません。

まずは試して、PDCAを回してみることが必要です。

「まだマニュアルを読んでいません」「そのやり方を知りません」という人には「いいから、やってみろ」と言っています。

最近思うことは、子どもも大人も自己肯定感の低い人が増えているということです。

倉重:日本人は多いですね。

豊田:自己肯定感が育つためには、「できた!」という成功体験が必要です。

「できた」という結果は、「やった」という過程がなければ生まれません。

何の経験もなければ自己肯定感は育たないのです。

ここですごく重要なのは、経験を身につけるだけではなくて、経験をどう評価するかです。

例えば子どもが50点を取って帰ってきたとします。

どうしますか?

「すごいじゃん! 50点も取れたんだ。半分も分かったらすごいね」とほめるんです。

そうすると子どもは喜びますよね。

その上で「本当はどれくらいを目指したかったの?」と聞いて、「70点は取りたかった」と言ったら、「じゃあプラス20点取るためにはどうしたらいいか考えよう」と提案します。

まずはできたことを褒めるのが重要で、それが自己肯定感につながります。

「おまえ何で50点しか取れなかったの?」と責めてはいけません。

コップの水を見て「もう半分しかない」とネガティヴにとらえるのか、「まだ半分もある」とポジティブに感じるのか。どちらの見方をするかで全然違ってきます。

しかし、経験そのものがなかったら、どちらのジャッジもできないのです。

倉重:なるほど。

その経験というのは、サラリーマンだったら、どのようなことをしたらいいですか?

豊田:チャレンジする経験であれば何でもいいと思います。

サラリーマンだって最初は何も知らないわけです。

経験を積んで、主任になったり、課長になったりしますよね。

倉重:大事なのは「背を伸ばせば届くかもしれない」というときにストレッチする経験ですね。

豊田:そうです。人材育成的には「コンフォートゾーン」と言われていますが、そこだと思います。

(つづく)

対談協力:豊田圭一(とよだ けいいち)

1969年埼玉県生まれ。幼少時の5年間をアルゼンチンで過ごす。92年、上智大学経済学部を卒業後、清水建設に入社。海外事業部での約3年間の勤務を経て、留学コンサルティング事業で起業。約17年間、留学コンサルタントとして留学・海外インターンシップ事業に従事する他、SNS開発事業や国際通信事業でも起業。2011年にスパイスアップ・ジャパンを立ち上げ、主にアジア新興国で日系企業向けのグローバル人材育成(海外研修)を行なっている。その他、グループ会社を通じて、7ヶ国(インド、シンガポール、ベトナム、カンボジア、スリランカ、タイ、スペイン)でも様々な事業を運営。18年、スペインの大学院 IEで世界最先端と呼ばれる “リーダーシップ” のエグゼクティブ修士号を取得した。最新作「人生を変える単純なスキル」など著作多数。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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