SLBM型ATACMSと北朝鮮新型SLBMの類似性
アメリカ軍は過去に陸軍の短距離弾道ミサイルであるATACMS(陸軍戦術ミサイルシステム)を海軍の艦船に搭載しようと計画していたことがありました。この計画は中止されていますが、その中に潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に改造されたATACMS、「SL-ATACMS」がありました。SLとは潜水艦発射の略になります。
以下はアメリカ国防技術情報センター(DITC)に収録された1996年の資料「陸軍戦術ミサイルシステムの海中作戦への適応」からです。
元のATACMSからのSLATACMSの改良点は以下の通りです。
- ボートテール部分(尻すぼみ部分)を延長し操舵翼を更に小さく折り畳む。
- 水中推進時の安定性を高めるためにボートテールの後ろにフィンモジュールを追加。
- フィンモジュールはミサイルのロケットモーター点火前に切り離す。
- SLATACMSは全長199インチ、フィンモジュール切り離し後は170.13インチ。
- ATACMSブロックIAは全長156.5インチ。
SLATACMSは潜水艦の垂直SLBM発射筒からコールドランチを行います。最大の改良点は水中推進時の安定性を高めるために追加された安定翼のフィンモジュールになります。
当初はミサイル本体に元から付いている操舵翼を水中展開しようとしていましたが、水中抵抗が大き過ぎて構造が耐えられないと判明し、別個に水中推進時専用の頑丈な安定翼を追加しています。
SLBM型ATACMSと北朝鮮新型SLBMの類似性
このアメリカのSLATACMSが持つ特徴の「水中推進時に展開する水中安定翼」というコンセプトは、北朝鮮のSLBMと同じではないでしょうか?
北朝鮮のSLBMは投棄する底部キャップにグリッドフィン付き。その役割の推定(2021/10/23)
北朝鮮のSLBM北極星1の最後部
北朝鮮のSLBMは底部キャップに水中安定翼とみられるグリッドフィンが付いています。北朝鮮のSLBMの底部キャップはガス発生器を兼ねているのに対し、アメリカのSLATACMSのフィンモジュールはガス発生器とは別々の部品になっていますが、投棄する底部キャップに安定翼となるフィンが付いているという点では同じです。
水中推進時の安定化と翼の役割
また北朝鮮の新型SLBMは先端が尖った形状ですがミサイル上部の保護キャップ(カバー)がありません。水中推進時では尖った形状では不安定になってしまうので、魚雷などでは先端が丸い形状をしています。各国のSLBMでも先端が鋭い形状の場合は、上部に丸い形状の保護キャップを付ける例は多くあります。
韓国軍が潜水艦からのSLBM水中発射に成功(2021/9/15)
ここで仮説になりますが、ミサイル底部に水中推進時の安定用のフィンが展開できるのであれば、ミサイル先端が鋭い形状でも上部保護キャップは必要が無いのではないでしょうか?
SLBMのミサイル先端が鋭い形状の場合、上部保護キャップか底部キャップに水中安定翼のどちらかがあれば良いとするならば、水中安定翼を持つ北朝鮮の新型SLBMは上部保護キャップは無い可能性があります。(ただし、北朝鮮が公表した連続写真に写っていないだけで上部保護キャップは装着されている可能性は残ります。)
北朝鮮の新型SLBM
※底部キャップの上部に果物の皮を剥いたように広がっている部品は、おそらくはミサイル本体側の通常型式の操舵翼(折り畳み式)を覆っていた保護カバーであり、噴射煙が邪魔で水中安定用グリッドフィンは見えていません。