北朝鮮のSLBMは投棄する底部キャップにグリッドフィン付き。その役割の推定
10月19日に北朝鮮が試射した新型SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)は、平壌で11日から開幕した兵器展示会「自衛2021」で登場した謎の小型SLBMと同一だろうと推測されています。
しかし試射時の新型SLBMは通常型式の操舵翼を装備していたのに対し、展示会の小型SLBMはグリッドフィン(格子状の翼)を装備していました。
新型SLBM(試験時)と展示品の比較
そこで注目すべきなのは新型SLBMの大きな底部キャップです。この底部キャップにグリッドフィンが装着されていて、地上展示では本体側の操舵翼は折り畳まれた上でカバーに覆われていたと推定することができます。
つまりミサイル本体の操舵翼と、ロケットモーター点火時に投棄される底部キャップ(下面カバー)のグリッドフィンの両方が付いているので、地上展示状態と空中上昇時で見えている翼が異なるという構造です。
新型SLBMの底部キャップ
北朝鮮の新型SLBMの公開写真には投棄された大きな底部キャップが映っています。ただし噴射煙が邪魔で残念ながらグリッドフィンは見えていません。
底部キャップの上部に果物の皮を剥いたように広がっている部品は、おそらくはミサイル本体側の通常型式の操舵翼(折り畳み式)を覆っていた保護カバーでしょう。
この新型SLBMと既存の北朝鮮のSLBMについて構造を確認し推定を重ねていくと、次の結論が導き出せます。
「北朝鮮のSLBMは投棄する底部キャップにグリッドフィンが付いている」「底部キャップ付きグリッドフィンの役割は水中推進時の安定翼」
底部キャップは発射筒からの打ち出し用コールドガス発生器でもあり、空中に飛び出てからミサイル本体のロケットモーターに点火する前に投棄され、側面に噴射する小型ロケットで横に飛ばされます。
新型SLBMの公開写真からでは底部キャップにグリッドフィンが付いているかどうか確認できなかったので、次に既存の北極星SLBMの構造を確認していきます。
北極星1の底部キャップ側グリッドフィンは4枚
北極星1号の底部キャップ(コールドガス発生器を兼ねる)は黒い塗り分けよりも後方の部分です。この底部キャップに小さめのグリッドフィンが装着されているのが確認できます。この底部キャップ側グリッドフィンは装着の間隔から4枚です。
なお兵器展示会「自衛2021」に登場した謎の小型SLBMもグリッドフィンは4枚でした。
北極星1の上昇時に見える本体側グリッドフィンは8枚
上昇中の北極星1に付いているグリッドフィンは装着の間隔から8枚あります。つまり4枚しかない底部キャップ側グリッドフィンとは別に本体側グリッドフィンが存在することが確定します。グリッドフィン1枚あたりの大きさも本体側の方が大きなものとなっています。
北極星1のミサイル本体側グリッドフィンはカバー付き
北極星1のパレード登場時を横から見ると、本体側の最後部に長方形のパネルが見えます。おそらく此処にカバーで覆われた本体側グリッドフィンが収納されていると推定できます。
なお底部キャップ側と本体側を繋ぐ4つの穴がある部品には、おそらく切り離し用の爆破ボルトが仕込まれています。
グリッドフィンが本体側(カバー付き)と底部キャップ側(剥き出し)で装着方式が違う理由の推定
ここから推定の連続になりますが、本体側グリッドフィンは水中推進時に展開せず収納したまま保護する必要があったのでカバー付きであると考えられます。
これに対して底部キャップ側グリッドフィンは水中推進時の時点で直ぐに展開するため、保護カバーが必要無かったのでしょう。
つまり底部キャップ側グリッドフィンはコールドランチから水中推進時の安定翼としての役割です。あまり大きなものを付けると水中では大きな抵抗になるので、小さくして枚数も少なくしたのではないでしょうか。そして海中から空中に出て本体ロケットモーター点火するまでの間の空中での姿勢安定の役割もあります。
本体側グリッドフィンは上昇時の空中での安定翼としての役割だと考えられます。北極星1は初期実験の公開写真ではグリッドフィンが付いておらず後から改良で装着されているので、操縦は噴射孔に装着されているジェットベーンで行われていると推定されます。
北極星2の底部キャップ側グリッドフィンの推定
北極星2はSLBMを地上発射式に転用したものなので、地上発射式には本来必要のない装備も付いています。
北極星2の上昇時に見える本体側グリッドフィンは8枚
北極星2の投棄された底部キャップ側グリッドフィンは8枚
北極星1では底部キャップ側グリッドフィンは小さめのものが4枚でしたが、北極星2では大きめのものが8枚付いているように見えます。5枚確認できますが、間隔的に3枚が噴射炎で吹き飛んで脱落しているように見えます。
地上発射型の北極星2では水中通過時を考慮しなくてよいので、大型のグリッドフィンで数を増やしても問題ないと判断されたのかもしれません。
しかしそもそも水中通過時を考慮しなくてよいならば、底部キャップ側のグリッドフィンを装着せず、本体側グリッドフィンを直ぐ展開しても構わないようにも思えます。それを行っていないということは、底部キャップ投棄とロケットモーター点火時に発生する破片で本体側グリッドフィンが損傷したりしないように、暫くはカバーで覆ったままにして直ぐには展開したくないのかもしれません。
そして北極星2の底部キャップ側グリッドフィンが8枚に増やされたということは、北極星1ではそうできなかった理由があるわけで、その差異は水中推進という点にあるのだと推定できます。つまり北極星1が水中推進時に底部キャップ側グリッドフィンを展開するために水中抵抗が過大にならないように枚数を4枚に少なくしたという推定を、補強することができます。
【追記:水中安定翼の前例】SLBM型ATACMSと北朝鮮新型SLBMの類似性(2021/11/10)