高校年代のサッカーリーグが開幕、選手はコロナ禍をどう過ごしたのか
ようやく始まった、久しぶりの公式戦は、高校生に気持ちの良い笑顔を与えていた。高校年代の年間リーグの一つである「高円宮杯U-18サッカープレミアリーグ2020関東」が9月5、6日に開幕。昨年度に昇格を決めて初参戦となった横浜FCユースは、流通経済大学付属柏高校とスコアレスドローで引き分けた。主将を務める田畑麟(3年)は「本当は(昨季王者の)青森山田とも戦いたかったし、プレミア残留という目標をかけてやりたかったです。今年は昇格も降格もないので、それで公式戦感あるのかなと思っていたんですけど、いや、試合が始まったら、本当に楽しかったです」と笑った。
思いの強い最高学年のシーズンは、コロナ禍によって多くの試合が中止や延期となり、ここまで公式戦を行うことができずにいた。だから、久々に緊張感の伴う真剣勝負に触れた喜びが溢れていた。流経大柏高の主将、藤井海和(3年)も「いつも(練習試合では好機を)はずしても2、3点入るけど、それが入らないのがプレミアリーグ。久しぶりの緊張感を味わい、プレーできるありがたみが一層分かり、サッカーができる楽しさ、喜びを感じています」と練習試合とは異なる雰囲気を喜んでいた。
地域毎にリーグを特別編成
新型コロナウイルスまん延の影響は、高校年代のサッカー選手にも大きな影響を与えた。プレミアリーグ関東というのは、今季限定のリーグだ。本来、プレミアリーグは4月に開幕し、全国をEASTとWESTに分け、各10チームが総当たり2回戦でしのぎを削る舞台だ。優勝チームは日本一をかけてチャンピオンシップを行い、下位チームは、地域リーグへ降格する仕組みだ。
しかし、今季は新型コロナウイルスのまん延防止策として、長距離移動を避けるため、プレミアリーグは参加チームの多い関東に限定し、試合数も総当たり1回戦となった。他地域では、本来であれば一つ下のカテゴリーである、9地域のプリンスリーグの名称を一部変更し、昨年度のEAST王者である青森山田高校が、スーパープリンス東北に、WEST王者である名古屋グランパスU-18は、スーパープリンス東海に参加するなど、今季に限った地域毎のリーグ編成を行った。そのため、今季は、チャンピオンシップ、昇格、降格のいずれもない形での開催となっている。
公式戦がない時期の苦しみ
また、これらのリーグ開催は7月末に発表されたが、それ以前は、いつになれば公式戦が行えるようになるのかも分からなかった。練習ができるようになっても、それを発揮する場がない。緊張感を持って臨むのは、難しくなる。横浜FCユースの田畑は、首都圏の緊急事態宣言が解かれて練習が再開しても、チームの雰囲気に緩みを感じたという。
「雰囲気を良くして練習をやろうという気持ちはあるのに、身体が動かないというか、気持ちが追いつかない感じがありました。活動自粛期間が明けて練習ができるようになったときも、サッカーができるようになったのに、選手間の温度差を感じて、楽しくないなと思いました。だから、話し合いをして、僕からは『こんなんで、やっていて、楽しいか? 本気でやるからサッカーは楽しいんだよ』と伝えさせてもらいました」(田畑)
3年生は夏の大舞台が消滅、進路問題も
活動に身が入らなくなる理由は、確実に存在した。サッカー選手としてプロや強豪大学に進もうと考える場合、夏の高校総体(インターハイ)や日本クラブユース選手権(今季は冬に延期)が進路決定の目安になる。この段階で行く先が決まらないなら、勉強での進学も決意しやすい。
しかし、今季はこれらの大会がなくなった。多くのチームの指導者の話によれば、各チームとも3年生はアピールの場を失っただけでなく、進路決定の判断材料も乏しくなり、焦る気持ちを抱いていたという。
流経大柏高の榎本雅大監督も「練習ばかりやっていると、悶々として、大人でも焦れてきます。また試合がなくなった、遠征がなくなった……って。でも、選手はよくやっていると思いますよ。3年生は、プロや大学の練習参加も移動制限などがあって難しいので、かわいそう。ようやく練習に参加できるようになっても、志望大学から『昨年末の評価でもう(推薦する)選手をほかで決めてしまいました』と言われてしまうこともあります。大学側も早く決めなければいけないので、仕方がないですけど」と例年通りにはいかない進路問題を抱える3年生の気持ちを慮っていた。
苦しみを共有し、乗り越える
活動に制限がかかり、公式戦も行えない半年近い期間が、選手にとって苦しみであったことは間違いない。プレミアリーグ関東とほぼ時期を同じくして、9地域のスーパープリンスリーグ、プリンスリーグも開幕。地域やカテゴリーに関係なく、共通の思いがあるだろう。その中には、苦しいのは自分だけではない、という思いが力になった部分もあったはずだ。
9月6日に開幕したプリンスリーグ関東の初戦を白星で飾った昌平高校のFW須藤直輝(3年)は、複数のプロチームが獲得を目指す注目選手だが、プロクラブに向けてアピールできる場として考えていた夏の大会が中止になったショックは大きかったという。しかし「インターハイにかけていたので、すごく悔しかったです。でも、全国の高校サッカーをやっている人たちが、ツイッターなどで前を向いてやっていこうという気持ちを見せていましたし(高校サッカーは冬の高校選手権が最後の大会だが)他競技でインターハイが最後の大会だった人たちが、それでも頑張ろうと言っているメッセージも見て、ここでなよなよしていられないなと思いました」と刺激を受けて気持ちを切り替えていた。
チーム活動自粛期間も個々で強化
思い入れのあるチームで主力となる最高学年は、かけがえのない1年。チーム活動を制限され、大会がなくなり、エネルギーをぶつける場所を失った選手がどう過ごしているのかは、気になるところだった。しかし、複数の選手に聞いてみると、杞憂だった。
須藤と並んでプロクラブの注目を集めているFW小見洋太(3年)は「自分のプレーの映像を見直して、どういうシーンのシュートが多いのか分析して、そのシーンのシュート練習をひたすらしていました」と話した。
2人に負けじとプロ入りを狙い、開幕戦でPK獲得や決勝点を挙げる活躍を見せた昌平高の左DF小澤亮太(3年)は今季に入って右サイドからコンバートされた選手だが「毎日、左足の練習をしていたので、精度は上がってきたと思います」と自主練習期間の手ごたえを語った。
昌平高に敗れたが1点を返して存在感を示した三菱養和SCユースのFW町田悠(3年)は、片道10~15キロの距離を走り込むなど、得意とする走力の強化に取り組んでいた。「自分のポジションは、攻撃で裏に抜けて、守備で相手を追いかける。とにかく走り切ることに注力しました。タイムとか心拍数も計って、なるべく最大心拍数に近付けようとやっていました。2カ月くらい続けて、以前とは走っているときのきつさが違って、足に疲労感が出なくなりました」と、こちらも個人で新たな力を身につけていた。コロナ禍で多くの機会を失ったのは事実だが、チーム単位で、あるいは個人で苦しみながらも、若者はその中でたくましく前進していた。
昇格・降格はなくても真剣勝負
まだ、クラブや学校で感染者や濃厚接触者が出て活動を制限されているチームもあるのが実情だが、大会は始まった。三菱養和SCユースの生方修司監督は「今年は昇・降格はないですけど、あるつもりでやっています。周りの人は(気を遣って)『今年は(成績がどうでも)しょうがないよね』と言ってきたりするんですけど、それはやめてよって。小6、中3、高3というのは(思い入れが強いシーズンなのに)かわいそうなところ。真剣にやろうぜ」と話し、昌平高の藤島崇之監督も「昇・降格がないのは残念ですけど、そういうのがないから……という雰囲気は、お互いに作っていないと思いました」と話すなど、大人も環境作りを大きく手助けしている。高校生選手にとって、心技体を本気でぶつけ合える場がようやく開かれた。
現在も新型コロナウイルスに対する警戒は欠かせず、対策をしながらの運営になる。それでも、横浜FCユースの田畑が「練習試合から公式戦のつもりでやれと言われてやってきたけど、公式戦は相手の雰囲気も違うし、すごく楽しかった。試合があると準備期間も楽しい。また早くやりたいです」と話した表情が物語っていたように、公式戦が彼らに与えるエネルギーは大きい。開幕したと言っても、すでに9月。一気に駆け抜けるシーズンになるが、全国の高校生サッカー選手の、短くも濃厚なシーズンが、ようやく始まった。
※プレミアリーグ関東は開幕から当面、無観客で開催されるが、TVやネットでLIVE配信が行われる。
http://www.jfa.jp/match/takamado_jfa_u18_super2020/premierkanto/tv.html