Yahoo!ニュース

カーリング平昌五輪代表決定戦展望その4、スキップ編。藤沢五月と松村千秋、軽井沢で共有した4年を経て。

竹田聡一郎スポーツライター
かつてはチームメイトとして共に五輪を目指したが、今回はライバルとして対峙する。

 五輪代表をかけた初戦が、いよいよ始まる。

 午前中、チームはそれぞれ40分の公式練習の時間が与えられ、最終調整をこなした。

 ロコ・ソラーレ北見(以下LS北見)の藤沢五月と中部電力の松村千秋、両スキップはいずれもリラックスした様子で、時折、笑顔を見せながらもアイスの感触を確かめた。

 このふたり、かつてはチームメイトだった。

 中部電力カーリング部は、09年に創部。清水絵美らがオリジナルメンバーだ。そしてその清水らがエースとして迎えたのが藤沢五月だった。

 翌年に日本選手権で初優勝を果たし、11-12年シーズンには松村千秋も加入。柔軟性のあるショットと力強い強いスウィープでレギュラーに抜擢され、日本選手権連覇にも貢献した。

 しかし、松村本人は「お姉さんたちの足を引っ張らないようにするだけで精一杯で、特に戦術面でチームのプラスになっていたかどうかは分からない」と振り返る。

 そして13年秋にソチ五輪のトライアルで敗れるとそのシーズン終了後に、当時の主将だった市川美余(現在は解説者・タレント)が結婚、出産のためにチームを離れ、翌季には藤沢五月もLS北見に移籍した。

 主将とエースが抜け、中部電力は苦しいシーズンが続いたが、松村ら新チームのメンバーは五輪への道を諦めることなく強化を続けた。最年少選手として入部した松村だったが、数年で石郷岡葉純や北澤育恵、中嶋星奈らを率いる立場となる。「いつの間にか引っ張る立場になっちゃった」と本人は笑っているが、悩みやプレッシャーが常時、あったことは想像に難くない。

 それでも松村にとって藤沢と過ごした4シーズンは彼女の財産になっていることも間違いないだろう。リードとして常勝軍団を支えたこと、世界選手権のアイスを踏めた経験はカーラーとして彼女を飛躍的に成長させた。

 ただ、本人は「私はスキップとしての経験がない」と語り、自身の技術を誇るようなコメントを出したことは一度もない。「まだまだ」「これから」そう言い続けながら、それでも日本選手権を新チームで制した。そのポテンシャルと、現在地を知っているという強みは藤沢にはないものだ。

 同時に藤沢五月が軽井沢のアイスで投げ込んで得た技術は、他のカーラーの追随を許さないものでもある。フィニッシュの精度では日本でトップクラスのスキップであり、その決定力で幾度となく中部電力を勝利に導き、移籍後は日本カーリング界に世界の舞台での初のメダル、という快挙をもたらした。これもまた、彼女だけが持っている武器だ。

 そのふたりがそれぞれ輝きを放った日本選手権決勝、特に第9エンドは圧巻だった。

 松村が完璧なカマーで強いNo.1を作れば、藤沢はランバックトリプルという、ウルトラショットで返し、チャンスを作る。しかし、そこに松村は狭いパスを完璧なウェイトで通すダブルで危機を脱すという大会ハイライトを演出してくれた。

 それぞれは「相手のことは意識していない」と言うが、日本選手権のような息詰まる攻防が今回、再び観られるに違いない。

 神経戦であり消耗戦であり、モダンジャズとも言える、五輪トライアル。その中心にいるのは間違いなく、藤沢五月と松村千秋のふたりだ

 全試合、NHK-BS1では生中継の予定だ。好ゲームを期待したい。

スポーツライター

1979年神奈川県出身。2004年にフリーランスのライターとなりサッカーを中心にスポーツ全般の取材と執筆を重ね、著書には『BBB ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅』『日々是蹴球』(講談社)がある。 カーリングは2010年バンクーバー五輪に挑む「チーム青森」をきっかけに、歴代の日本代表チームを追い、取材歴も10年を超えた。

竹田聡一郎の最近の記事