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台風2号 「黒潮ルート」で大雨か

森田正光気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ会長
台風2号の衛星画像と26日9時現在の進路予想(出典ウェザーマップ)

台風2号と「黒潮ルート」

 その昔、筆者が若いころ、気象庁OBの方から「台湾坊主(低気圧)は、黒潮に乗ってやって来るから急発達する」という話を聞いたことがあります。いま思うと、昔の気象関係者は直観的に自然界の法則を理解していたのではと思います。

 また先日、山岳気象で有名な気象予報士の大矢康裕さんが、今回の台風2号に関連して、「諸外国の計算結果が黒潮ルートを予想しているので心配だ」とツイッターでつぶやいていました。

海流図(出典気象庁 スタッフ加工)
海流図(出典気象庁 スタッフ加工)

「黒潮ルート」というのは文字通り黒潮に沿って台風がやって来るコースのことで、通常の台風に比べて水蒸気の補給量が多くなり、その分大雨になりやすいことが心配されます。

 2021年、九州大学大学院理学研究院の藤原圭太氏と川村隆一教授の研究によると、日本付近に接近する台風には黒潮から蒸発する水蒸気が多量に流入し、台風強度に遠隔的な影響を与えるとのことです。これまで台風というと、台風直下の海面水温だけが注目されがちでしたが、実は黒潮も台風の発達に関係しているというのです。

 前述した気象庁OBの方の発言は、台風ではなく「低気圧」に関するものですが、黒潮が雨雲の発達に寄与することを感覚的にとらえていたのでしょう。

アンサンブル(合奏)予報

 今回の台風2号は、気象庁の予想では5日後の5月31日に沖縄近海に達し、その後の進路は不確定です。

 気象庁では台風の進路予想を5日先までを予報円にして発表しています。その先になると誤差が大きくなり、その予想によってかえって間違った判断をしかねないからです。またコンピュータ予想の場合、一通りの計算では無く、条件を変えて何通りも計算させます。そしてその中で一番確率の高いものを“予想”として発表します。

 人間の世界では意見が分かれた時や決めかねた時には、多数決という方法を用います。実は気象予測の場合でもこの多数決と言う方法は有効で、何通りかのコンピュータの計算結果から答えを導き出す方法があります。いわばコンピュータの合奏なので、アンサンブル(合奏)予報と名付けられています。

台風マルチモデル(出典weather-models)
台風マルチモデル(出典weather-models)

 そこで図をご覧ください。これは「Grand Ensemble」と書かれている通り、まさに世界の気象機関がそれぞれのモデルで計算した台風の進路予想です。つまり、台風予測を世界の気象機関がアンサンブル(合奏)したものとも読み取れます。

 〇や×が台風の予想位置を表し、左は5月30日、右は6月2日の予想です。(なお

2日には日本の予想は入っていません。)これをみると、2日はメンバーの1割程度が本州の南への接近を予想していたり、黒潮ルートを通っているものがあります。

 いずれにしても、先にいくほどバラつきが大きいので現時点では気象庁の予報円以上のことは言えませんが、今年の黒潮が流れている付近の水温は平年より1度ほど高く、今後台風が北上するようなことがあれば大雨をもたらす一因になることも考えられます。

 勢力は日本に近づくほど衰えてくると思いますが、来週後半、本州付近に接近してくるとの計算結果もあることは、頭の隅に入れておいた方が良いでしょう。

参考

大矢康裕氏 Twitter

2021年11月24日九州大学プレスリリース「台風の発達をもたらす黒潮の遠隔影響のメカニズムを解明 」

気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ会長

1950年名古屋市生まれ。日本気象協会に入り、東海本部、東京本部勤務を経て41歳で独立、フリーのお天気キャスターとなる。1992年、民間気象会社ウェザーマップを設立。テレビやラジオでの気象解説のほか講演活動、執筆などを行っている。天気と社会現象の関わりについて、見聞きしたこと、思うことを述べていきたい。2017年8月『天気のしくみ ―雲のでき方からオーロラの正体まで― 』(共立出版)という本を出版しました。

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