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元阪神・藤井宏政コーチも笑顔の胴上げ!カナフレックスが3年ぶりにつかんだ全国切符

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター
日本選手権出場を決め、藤井コーチ(中央)を胴上げするカナフレックスの選手たち。

 6月29日から始まる『第46回社会人野球日本選手権』に向け、JABA対象大会で11の代表が決定したあと、5月下旬からは各地区の最終予選で代表チームが決まっています。6月7日には、前回優勝の大阪ガスと5月末の全日本クラブ選手権で優勝した全足利クラブを加えた、32の出場チームが出揃いました。

 近畿地区は5月28日から舞洲の大阪シティ信用金庫スタジアムで最終予選が行われ、元阪神タイガース・藤井宏政さん(31)がコーチを務めるカナフレックスは左から2つ目、第2代表をかけた“やまがた”に2回戦から登場。まずニチダイに勝って次はもう代表決定戦でしたが、残念ながらここで日本生命に敗れたため敗者復活の第4代表決定戦へ。

 そして翌日の最終戦で神戸ビルダーズに勝ち、最後の1枠をつかみました!昨年は開催されなかったので2大会ぶり、2018年以来3回目の日本選手権出場です。ちなみに近畿の第1代表は日本新薬(13大会連続23回目)、第2代表は日本生命(9大会連続37回目)、第3代表はNTT西日本(9大会ぶり21回目)と常連チームがずらり。

 同じく元阪神阪口哲也コーチ(28)が所属するパナソニックは、対象のJABA九州大会で優勝したため一足先に26大会連続40回目の出場が決定。近畿では他に日本製鉄広畑と三菱重工Westも対象大会で優勝。また大阪ガスは前回優勝で出場が確定しているので、この最終予選は13チームから上記4チームを除いた9チームで争ったわけです。同じ代表4枠の関東地区は22チームの参加だったので、かなり確率が違いますね。

6月2日、近畿地区第4代表として日本選手権出場を決めたカナフレックス。試合後に全員で記念撮影。
6月2日、近畿地区第4代表として日本選手権出場を決めたカナフレックス。試合後に全員で記念撮影。

【2回戦】ニチダイに昨秋のリベンジ!

 では、カナフレックスが戦った3試合の結果とコメントをご紹介しましょう。まず5月28日の2回戦はニチダイが相手で、ことし入部したルーキー以外は“リベンジ”の思いがあったはずです。

 昨秋の都市対抗近畿2次予選で快進撃を見せたカナフレックスは、あと2勝で代表決定というところで大阪ガスに敗れて敗者復活戦へ。そして最後の1枠である第5代表決定戦トーナメントの準決勝で1点及ばずに負けた相手がニチダイでした。その時と同じ大西健太投手(28)が先発しています。

<5月28日 2回戦>

カナフレックス-ニチダイ

 カナ 000 105 011 = 8

 ニチ 000 011 000 = 2

◆バッテリー

 [カナ]大西/福田

 [ニチ]吹本-蔭地野-原-山下-西原/池田

◆本塁打 カナ:吉田3ラン ニチ:森ソロ

◆三塁打 カナ:新宅

◆二塁打 カナ:森田、山崎、北川、吉田、米倉 ニチ:前田

◆盗塁 カナ:山崎 ニチ:多田

《試合経過》 ※敬称略

 打線は4回に3番・山崎、4番・北川が連続二塁打を放って1点を先取します。先発の大西は4回まで散発3安打で0点に抑えていましたが、5回に6番・多田のヒットと二盗などで2死二塁として9番・前田にタイムリー二塁打を浴び同点。

 すると直後の6回、打線が打者11人攻撃で勝ち越します。まず先頭の2番・新宅が三塁打、山崎の四球と盗塁などで1死二、三塁として5番・吉田が3ラン!さらに代打・江頭と米倉、福田の3連打で1死満塁となり、9番・武田が四球を選んで押し出し。2死後にまた押し出しで計5点です。

 その裏に2死から4番・森のホームランで1点返されたものの、8回の攻撃では米倉が先頭で二塁打を放ち、犠打で三塁へ。2死後に1番・森田がタイムリー!9回にも2死から吉田が二塁打、途中出場の田中がタイムリー!1点ずつ追加して合計8点を取りました。

 なお大西は7回と8回に1安打ずつ許すも無失点。9回は5番・池田を一邪飛に打ち取って、そのあと2者連続の空振り三振で試合終了!119球を投げ、8安打2失点で完投しています。

コメントは投打のヒーロー

 完投した大西投手に、9回の三者凡退はお見事!と告げたら「いや~最後は、そんなつもりなかったんですよ。でも6回にホームランを打たれたことで、ちょっと」という言葉。気持ちを締め直した?「8回まで毎回ランナーを出していて、ダブルプレーで3人で抑えたりしたのもあったけど、やっぱりリズムが悪かったんだなと反省しました」

 それから「実は6回に足がつって」と思い出し笑い。「ほぐしてもらって何とかいけました。福間コーチにも、最後まで投げるつもりでいけよと言われたし、後ろのピッチャーに負担をかけないようにと思って」。失点してからの落ち着きぶりはさすがですね。

2失点完投の大西投手。写真は2日の第4代表決定戦で先発した時のものです。
2失点完投の大西投手。写真は2日の第4代表決定戦で先発した時のものです。

 吉田健悟選手(24)は、追いつかれた直後の6回に放った勝ち越し3ランだけでなく、4回は中前打、9回にも左中間二塁打。他の2打席は四球を選んだので3打数3安打3打点という内容です。素晴らしい活躍でしたねと言ったら「久しぶりだったんですよ~」という返事でした。

 久しぶり?「1月にケガをして出遅れて…。その間に田中(慧樹選手・24)が好調で僕は復帰してからも控えに回ることが多かった」と苦笑い。そういえば4月25日にあった阪神との練習試合も出ていなかったですね。

 「(5月の)ベーブルース杯くらいから出始めたんですけど、そのあとまたオープン戦も出ていなくて。本当に久々だったんで、何としてもチャンスをものにしたい!という強い気持ちで打席に入れたかなと思います」

 しかもチャンスで試合を決める3ラン!「珍しいと思います(笑)。ことしは得点圏に弱かったので」。次の第2代表決定戦ではノーヒットでしたが、第4代表決定戦ではまた貴重なタイムリーを放ちました。得点圏に弱い吉田選手はもういませんね。

【第2代表決定戦】日生に完封負け…

 次の試合は中3日おいて6月1日、第2代表決定戦。昨秋の都市対抗近畿2次予選1回戦で、カナフレックスが延長戦の末に11対10で破った日本生命との対戦でした。この敗戦で日本生命は苦境に立ち、結局は第5代表でぎりぎり本大会出場を決めたんですよね。

 ちなみに敗者復活戦で再び対戦した時は3対0で完封負けしたカナフレックス。日本生命を本気にさせてしまったかなと、あれからもよく話します。

 そんな日本生命と第2代表決定戦で顔を合わせたのですが、今回は8対0の完封負け。先発して5回5失点だったルーキーの迫勇飛投手(21)は試合後、悔し涙を流しました。打線にチャンスはあったものの、あと1本が出ず…。なお黒岩龍成投手(25)が約1か月ぶりに登板しています。

<6月1日 第2代表決定戦>

カナフレックス-日本生命

 日生 020 030 300 = 8

 カナ 000 000 000 = 0

◆バッテリー

 [日生] 高橋-舩越-本田-吉高/古川

 [カナ] 迫-高瀬-黒岩-青山/福田

◆三塁打 日生:古川

◆二塁打 日生:ヴィットル、上西

◆盗塁 日生:上西

《試合経過》 ※敬称略

 迫は1回、先頭に左前打されるも、後続をしっかり断ち無失点!2回にヒットと犠打で1死一、三塁として8番・古川に右前タイムリー、続く船山のスクイズで計2点を失いますが、3回と4回は走者を出しながら追加点を与えません。

 しかし5回、死球と二塁打で無死二、三塁となり4番・皆川に2点タイムリー、2死後にも7番・越智のタイムリーで計3点。迫は5回9安打5失点で交代しました。

6回から登板した高瀬翔悟投手(22)もルーキーです。3点を失いますが自責点はありません。
6回から登板した高瀬翔悟投手(22)もルーキーです。3点を失いますが自責点はありません。

 ついで同じくルーキーの高瀬が登板。6回は0点でしたが、7回にヒットと犠打失策、2死後に死球を与えて2死満塁とし、1番・ヴィットルに走者一掃のタイムリー二塁打を浴びます(自責は0)。7回で8点差が付きましたが、代表決定戦なのでコールドはなく、試合継続です。

 8回は故障明けの黒岩が、5月25日の練習試合・阪神戦以来のマウンドへ。ヒットと四球、暴投でピンチを作るも0点に抑えました。9回は青山が三塁打と四球で1死一、三塁としますが、最後はヴィットルの投ゴロで併殺を取って終了。

最終予選に「ギリギリ間に合った」と話す黒岩投手。この日も翌日も最速は150キロ超えでした。
最終予選に「ギリギリ間に合った」と話す黒岩投手。この日も翌日も最速は150キロ超えでした。

9回は青山将太投手(25)が三塁打を浴びながら無失点。この投球フォームもおなじみですね。
9回は青山将太投手(25)が三塁打を浴びながら無失点。この投球フォームもおなじみですね。

 一方、カナフレックスの攻撃は1回に山崎の内野安打があったものの2回は三者凡退。3回は1死後に福田の右前打、武田と森田が連続でバントヒットを決めて満塁のチャンス!しかし…連続三振で得点できませんでした。4回からは7イニング続けて三者凡退に抑えられます。

 ようやく8回に田中と福田が中前打し、この予選初出場の代打・李が打った瞬間に「よっしゃー!」と雄叫びを上げる右前打。3連打で無死満塁と攻めた打線!続く森田が中犠飛で1点、と思いきやセンターからのバックホームでタッチアウト。新宅も二ゴロで無得点…。9回は三者凡退で終わり、完封負けを喫しました。

反省の北川キャプテン

 北川倫太郎選手(27)は日本生命との戦いについて「自分たちはまだ若いチームなので、ああいう歴史あるチームに勝てたことで去年は成長できた」と言い、そのあと「ただ相手が向かってきた時に自分たちはどうすることもできないっていうのは去年から、ことしのJABA大会でも感じた。強いチームにまだ飲まれているところがあるんじゃないかなと正直思います」と続けました。

 この日の試合について「立ち上がりはどんなピッチャーでも不安だろうし、そこで何とかできればよかった。むこうの高橋投手も、中盤に比べれば最初あまり本調子じゃないような感じがしていたのに、その早いイニングでチャンスを作れず点を取れなかった自分たちが、(彼を)乗せてしまったのかも」と反省する北川選手。

 「やっぱり上位打線のつながりのなさというか、淡白さというか。そこの差じゃないですかね。むこうは上位で(チャンスを)作って、クリーンナップで還してという理想的な野球。こっちは逆に上位がやられて、下位で作ってもつながりや勢いは出てこない。いいところを打つバッターの差が出たんじゃないかなと思う」と打線に関しても課題を挙げています。

3回にサードへのバントヒットを決めた武田勇樹選手(27)。彼は常にユニホームが泥んこです。
3回にサードへのバントヒットを決めた武田勇樹選手(27)。彼は常にユニホームが泥んこです。

 キャプテンとして投手陣のことも聞きました。点を取られながらも5回まで投げてくれた迫投手には「彼も若いですし、力の差や経験の差っていうのは絶対あると思う中で、ああやって初回から声を出すくらい思いきり腕を振って投げてくれたのが、チームにとっても勇気づけられることだった」と評価。

 「すごく緊張していたけどマウンドに立ったらそんな素振りも見せず、初球からしっかり腕が振れていたので、たいしたもんやなあと(笑)。打たれることはしょうがない。しっかり勝負しにいった中で打たれたのなら自分が力をつけていけばいいことなので、彼の今後がすごく楽しみです。チームにいい影響を与えてくれるんじゃないですかね」と期待は大きいようです。

 次は勝って、最後の1枠をもぎ取ってください!「ここまで来たら、第1代表とか第2代表とか関係ないですね。出るか出ないかの問題なので。しっかり反省して、切り替えて、あす臨んでいきたいと思います」

3回、武田選手に続いて森田選手もバント。相手が見守った三塁線の打球が切れず、ヒットになりました。
3回、武田選手に続いて森田選手もバント。相手が見守った三塁線の打球が切れず、ヒットになりました。

悔し涙が止まらない迫投手

 続いて迫投手です。2回と5回に連打があって計5点を取られてしまったけれど、1回と3回のラストバッターから奪った見逃し三振は気迫を感じました。投げた瞬間に“よし!打ち取った”というような。「あそこはもう自分でもギアを上げていました。ここは絶対に三振で抑えようと狙って」

 大事な試合、代表決定戦というプレッシャーはあった?「恥ずかしい話、夜も寝られないくらい緊張していました。やる前はもう早く終わってくれと、いい結果で早く終わってほしいと思っていたんですけど、こういう結果で…。緊張は関係なく、もっと…もっと力をつけて…」

 急に涙があふれてきてビックリしました。何か悲しいことを聞いちゃったのかな。大丈夫?そう尋ねたら「すみません、僕すぐ泣いちゃうんです」と言いながら、また涙がポロポロこぼれる迫投手。悔しかったんですね。チームに迷惑をかけたと、自分自身に腹が立って仕方がないんでしょう。

 でもまだ次があります。もし取り返すチャンスがあったら?「もし出していただけるなら全力を尽くして、スコアボードに0をつけられるように投げたい。きょうの悔しさとかを全部ぶつけて、このチームで本戦に出たいです。最後の1枠で!」。力強く締めてくれました。

先発した迫投手。この日の試合後は悔しくて泣いたけれど、翌日は最高の笑顔でした!
先発した迫投手。この日の試合後は悔しくて泣いたけれど、翌日は最高の笑顔でした!

【第4代表決定戦】つかんだ最後の1枠!

 6月2日に行われた第4代表決定戦の相手は神戸ビルダーズでした。神戸ビルダーズは2020年1月創設の若いチームで、オリックスや阪神などでプレーした斎藤秀光さん(46)が監督。2回戦でNTT西日本に敗れて敗者復活選へ回り、そこでルネス紅葉スポーツ柔整専門学校に勝ち、ミキハウスにも勝って決定戦へ進んでいます。

 カナフレックスもまだ創部8シーズン目なので、若いチーム同士の戦いと言えますね。なおカナフレックスはこの日、2戦目までと打順を入れ替えて臨みました。予選前のように山崎壱征選手(26)が1番へ戻り、米倉凌平選手(22)が2番、1番を打っていた森田皓介選手(22)は3番です。

<6月2日 第4代表決定戦>

神戸ビルダーズ-カナフレックス

 カナ 200 001 000 = 3

 神戸 001 100 000 = 2

◆バッテリー

 [カナ] 大西-黒岩/福田

 [神戸] 鶴井/村井

◆三塁打 カナ:森田

◆盗塁 カナ:山崎

1回にタイムリー三塁打を放った森田選手。これは次の打席での写真です。
1回にタイムリー三塁打を放った森田選手。これは次の打席での写真です。

6回2死で三塁に米倉選手を置いて(その左が藤井コーチ)、吉田選手が中前タイムリー!
6回2死で三塁に米倉選手を置いて(その左が藤井コーチ)、吉田選手が中前タイムリー!

《試合経過》 ※敬称略

 カナフレックスは1回、内野安打の山崎を米倉が送って1死二塁、続く森田がタイムリー三塁打で先制!さらに4番・北川の一ゴロで森田も還り2点を取りました。しかし大西は3回にヒットと犠打などで2死三塁として2番・西田の中前タイムリー。4回にも2安打と四球などで1死満塁となり、8番・増田の犠飛で追いつかれます。

 2対2で迎えた6回、先頭の米倉が中前打を放ち、森田の犠打と北川の一ゴロで2死三塁となって5番・吉田が中前タイムリー!その後は7回に2死二、三塁のチャンスを作り、9回には1死二、三塁と攻めたものの追加点はありませんでした。

 一方、ほぼ毎回ランナーを出しながら5回以降は0点に抑えた先発の大西。8回は三者凡退で、ニチダイ戦に続く完投かと思われましたが、9回は先頭の7番・福田に右前打され、犠打で二塁へ進めたところで福間投手コーチがマウンドへ。黒岩に交代です。

 復帰して即連投となった黒岩は、まず9番の代打・片野を空振り三振に切って取ると、続く後藤は二ゴロで片付けて試合終了!1点差を守りきってガッツポーズをした黒岩のもとに、みんなが次々と集まって歓喜の輪ができました。

試合終了と同時にバッテリーのもとへ集まってきた選手たち。左端は迫投手?ナイスジャンプです。
試合終了と同時にバッテリーのもとへ集まってきた選手たち。左端は迫投手?ナイスジャンプです。

笑顔はじける記念撮影と胴上げ

 整列、挨拶のあとカナフレックスの選手たちは外野のセンター付近に集合。代表決定戦で勝って日本選手権出場が決まったチームは、試合後にここで記念撮影をするのが通例です。カナフレックスコーポレーション株式会社の金尾茂樹代表取締役社長も加わって写真を撮り、続けて胴上げ!

 日本選手権は3回目の出場ですけど、これまで胴上げなんてしていなかったような…。3回とも経験している藤井コーチも「初めてですよ!」と言います。まず山田勉監督(62)はこわごわ、北川主将はニコニコ、藤井コーチは今まで見たことがないような笑顔で、順に宙を舞いました。藤井コーチの際は「重い!」「あかん!」と選手が。そのしか回数は少なめです。

 逆に最後の高橋二三男コーチ(73)は、軽すぎて放り投げるのは危険と迫投手がお姫様だっこをしての胴上げ。高橋コーチもすごく嬉しそうでした。

 ところで、試合終了時にマウンド付近で集まって喜び合った時、嬉し泣きした人がいると聞いたんですけど。福田選手ですか?と尋ねたら「僕じゃないですよ、彼です」と北川選手を指差し、北川選手は「泣いてないですよ~」と繰り返すばかり。でも、写真に証拠がありました!北川選手、しっかり目元を押さえていますよ。

しっかり写っていました!北川選手(前列左)が目元に手をやるところ!もしかして福田優人選手(同右)も?
しっかり写っていました!北川選手(前列左)が目元に手をやるところ!もしかして福田優人選手(同右)も?

これまでも、これからも“一丸野球”

 では山田監督の談話をご紹介します。打順の入れ替えについては「ランナーを置いて打てるバッターをということで、森田を3番にした。それでつながったんじゃないかと思います」とのこと。その森田選手が初回に三塁打!「とりあえず先取点が欲しかった。バントで送って1点でも先に取って、うちのペースに持っていこうというのは最初から決めていました」

 6回のチャンスに1点取れたのは大きかったですね。「吉田がよく打ってくれた!2回戦はホームランも打ったし」

 大西投手は粘投でした。「よかったと思います。丁寧に投げてくれて。9回も最後まで投げられると言うたんやけど、黒岩がいきたい、いけると」。志願したんですか?「そう。福間コーチもランナーが二塁まで行ったら黒岩しかないな、抑えてくれるだろうと言うので送り出した。とにかく2アウト目を取ることが目的、次を三振に取れたら一番ってとこで、しっかり三振だった」

 今回の予選で勝ち上がれた要因は何でしょう?「みんなの気持ちがひとつになるってこと。1人でも2人でもダラッと流れたら、そっちに行ってしまうんで。とりあえず目標を立てて、全員が声を出す、ボールを追いかけるという野球をやっています。ベンチもそう、守っていてもそう。みんながひとつになって、と今までも言ってきました」

 この1か月、どこを重点的に?「セーフティーバントとか、うちは足を使える選手が多いので走塁面にも力を入れていって、武器にしたい。それと攻撃的でなく守りの守備をしていたかなと。左バッターのゴロを待って捕ったらセーフになってしまうんで、それを本大会までに修正して練習からプレッシャーかけて取り組んでいきます」

(上)最初はこわごわ持ち上げられた山田監督。(下)大事にお姫様だっこで胴上げの高橋コーチ。
(上)最初はこわごわ持ち上げられた山田監督。(下)大事にお姫様だっこで胴上げの高橋コーチ。

下からの突き上げを期待する大西投手

 次に大西投手です。試合後、今の気持ちを聞かれ「いやもう最後まで投げられなかったっていうのが…。黒岩を信用していないわけではないんですけど、やっぱり自分が投げて決めるのが一番いいかなと思って。8回くらいから、先頭を出してピンチになったら代わると言われていたので何とか抑えたかったと、個人的な気持ちとしては悔しい」とコメント。

 続けて「でもチームとしては勝ったので、それはよかった」と言っていましたが、コーチも兼任する投手最年長の立場での責任感もあり、完投できなかった悔しさはぬぐえないのでしょう。

 調子は?「ストレートが結構よくて、キャッチャーの福田も“使いたい”と言ったんですけど、そこで欲を出して自分のスタイルを崩したら調子が悪くなるんじゃないかと思って。相手どうこうより自分の投球をすればと考えました。でも結果的に打たれたのは変化球が多かったんで、そこはキャッチャーの意見を信じたらよかったなというのもあります(笑)」

9回1死でランナーが二塁へ進んだところで福間納投手コーチ(左)がマウンドへ。ここで交代となりました。
9回1死でランナーが二塁へ進んだところで福間納投手コーチ(左)がマウンドへ。ここで交代となりました。

 代わる黒岩投手には何と声をかけたんですか?「自分が残したランナーなので、最悪は同点と余裕を持っていけばいいと。ケガ明けで不安もあったと思いますが、やっぱり投げてもらわないといけないピッチャー。持っている力はいいものがあるので自信を持って投げることだけと伝えました」

 本大会は自分が投げてチーム初勝利を、という思いですか?「そうですね。あとは若手の奮起というか。そうなってくれたら自分も負けないようにと思うし、逆に燃えるんで。(下から)脅かしてくれたらいいですね」。まさに投手陣の主柱、頼もしい言葉です。

 大西投手は2015年のチーム初出場の際にルーキーながら先発を任され、1回戦の西濃運輸相手に3失点(自責1)で9回を投げ切りました。またNTT西日本の補強選手として出場した2016年の都市対抗も、2018年の日本選手権も登板がなかったので、ことし投げれば自身6年ぶりの全国大会登板となります。

5月28日の初戦は完投勝利、6月2日の代表決定戦でも9回1死まで投げた大西投手。
5月28日の初戦は完投勝利、6月2日の代表決定戦でも9回1死まで投げた大西投手。

吉田選手が教えてくれたジンクスは…

 初戦でも大活躍した吉田選手。この日は6回の勝ち越し打が勝利打点で「みんながつないで、つないでくれたので、何とか打ちたいという気持ちでした。結果が出てよかったです」と言います。「ファウルの感じは悪かったんですけど、間を抜ければ1点入る場面だったので、何としてもフライは上げないようにと思って」

 1点リードのままで迎えた8回は2死ランナーなしで右飛。いいスイングだったけど、もしかしてホームランを?「はい、あれは完全に狙っていました!もう1点欲しいところだし、ツーアウトでランナーもいなかったし」。やっぱり。

 なかなか突き放すことができなくて、最後まで気の抜けない展開でした。「めちゃくちゃしんどかったです。流れも悪くて、いつ点を取られてしまうか、という試合だった。神戸ビルダーズも、その前にミキハウスを倒して勢いがありましたもんね」

 そんな試合を1点差で逃げ切っての代表決定ですよ。「ほんと、よかったです!僕ら、大事な決定戦とかの時はいつも、ここ(大阪シティ信用金庫スタジアム)の三塁側で、いつも負けているんです。去年のニチダイも同じ、ここの三塁側でホームランを打たれて負けた」

 そういえば昨年の都市対抗の近畿2次予選はわかさスタジアム京都で始まり、最後の第5代表決定トーナメントから大阪シティ信用金庫スタジアムに移ったんですよね。終盤に追い上げたけど1点及ばずに敗退したもの。でも大阪シティ信用金庫スタジアムの三塁側が鬼門というジンクスが、これで消えました!

 初めての全国大会、吉田選手の目標を尋ねたら「ケガだけは避けたい!」という返事。あ、そこですか。チームとしては?「まず初戦突破ですね。それと近畿以外のチームと試合をやりたい。それも楽しみです」。近畿勢が8チームも出るから当たる可能性はありますが、組み合わせ抽選会で大塩マネージャーのくじ運に期待しましょう。

6回に勝ち越し打を放った吉田選手。一塁に到達すると三塁ベンチに向かって雄叫び!
6回に勝ち越し打を放った吉田選手。一塁に到達すると三塁ベンチに向かって雄叫び!

「いいメンバーで戦えた」と北川選手

 キャプテンの北川選手は今の気持ちを聞かれ「嬉しい、しか出てこないですね」と笑顔でした。初回からいい形で先制し、いけるぞという雰囲気だったのでは?「この試合は先取点が勝負を分けると思って、神戸ビルダーズさんも勢いよく勝ってきているので何とか先に点を取って、むこうに流れを渡さないつもりでやっていこうと野手と話していました。いい立ち上がりだったんじゃないかなと思います」

 北川選手の一ゴロでの1点も大きいですよ。1点で終わるのと2点入るのは全然違うでしょう?「あそこは三塁ランナーの森田もギャンブルスタートで、何としてもバットに当てようと。森田は足もある、いい選手なので転がしたらセーフになってくれるだろうと思って。バットに当てました(笑)」

 6回に勝ち越したものの、楽な試合ではなかったかと。ベンチの雰囲気は?「苦しい時こそ声が出るのは、うちのチームのいいとことでもあると思います。そういう時に声を出してくれる澤田や青山あたりが、きょうも盛り上げてくれていたので、苦しい展開ではありましたけどベンチは暗くなかったです」

 決まった瞬間は?「みんなベンチから飛び出して、すぐ行っていました(笑)」。記念撮影後には胴上げもありましたね。「初めてです。僕自身、キャプテンをやって3年目で初めて」。どんな気分?「いやもう本当に感謝しかないですね。嬉しかったですし。いいメンバーでできたなという気がします」

 前回出場の2018年は北川選手が入部した年で、今回はキャプテンとして臨む初の日本選手権。この1か月で上げていくのは?「いいピッチャーに当たった時の対応力がまだまだ弱いのと、守る方もピッチャー中心にもっとレベルアップしていける部分がいっぱい。レベルアップするところだらけなので(笑)。1か月後には、もっといいチームを作って戦えればいいと思います」

日本選手権出場の“認定証”を手にした北川キャプテン(右)と、ガッツポーズの福田選手(左)。
日本選手権出場の“認定証”を手にした北川キャプテン(右)と、ガッツポーズの福田選手(左)。

藤井コーチのこんな顔は初めてです!

 最後に藤井コーチのコメントをご紹介します。試合を振り返って「6回に吉田で勝負してくれたのが大きかった。次の新宅が当たっていなかったので、新宅と勝負するかと。あそこが大きかったですね」と、やはり6回がポイントだったと言います。 

 ちなみに新宅選手、9回に意地の内野安打が出て心底嬉しそうでした。「そうですね。最後にヒットが出てよかったです」。ホッとしたように、ちょっと笑顔が見えた藤井コーチ。

 1点差というギリギリの展開。しんどかったでしょう?と聞くと、隣で山田監督が「しんどかった~!胃が痛かった~」と苦笑いでした。藤井コーチは「よく踏ん張ってくれたと思います」としみじみした口調です。

 ところで胴上げは?「初めてですよ(笑)」。誰かが言い出したのかと思っていたんですけど、どうやらカメラマンの方に「胴上げしませんか」と提案されたみたいです。なるほどね。でも本当に、皆さんのいい表情が見られて最高でした!今月末に開幕の本大会でも、ぜひ1回戦を突破して飛び切りの笑顔をお願いします。

藤井コーチの胴上げ、ちょっと拡大版でどうぞ。こんな顔で笑うところは初めて見ました!
藤井コーチの胴上げ、ちょっと拡大版でどうぞ。こんな顔で笑うところは初めて見ました!

   <掲載写真はチーム提供>

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

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