「ミニスカ女王」ツイッギーさん叙勲「小枝」のような女性が英国から姿を消したのはなぜ?
人生を変えたメイフェアのヘアサロン
[ロンドン発]「ミニスカートの女王」ツイッギーさんをご存じですか――。
ポキっと折れてしまいそうな、か細い体から「ツイッギー(小枝)」と呼ばれ、世界中にミニスカート旋風を巻き起こした1960年代のファッションアイコン、レスリー・ローソンさん(69)が新年に合わせて、エリザベス女王から「デイム(男性のナイトに相当)」の勲位に叙せられることになりました。
ツイッギーは1949年9月、ロンドン郊外で生まれました。66年1月、まだ16歳だったツイッギーは高級街メイフェアのヘアサロンに入ったことで人生が大きく変わります。スタイリストや大衆紙デーリー・エクスプレスの服飾ジャーナリストの目に留まり、「66年の顔」としてツイッギーの写真がエクスプレス紙に掲載されたのです。
「身長168センチメートル、体重41キログラム」。ボーイッシュのようで可愛さを秘めたツイッギーは瞬く間にファッション界のスターダムを駆け上ります。60年代後半、ロンドンはミニスカートやビートルズに代表されるように「スウィンギング・シックスティーズ」の活気にあふれていました。
日本流に言えば「団塊の世代」、世界中で戦後生まれのベビーブーマーたちが時代の原動力になろうとしていました。戦前・戦中派の堅苦しさを打ち破り、次々と新しい流行や風俗を生み出していったのです。ツイッギーさんとミニスカートは見事に60年代後半の空気に合っていたのです。
天ぷらのエビがはねて気を失ったツイッギー
ツイッギーが日本にもミニスカート旋風を巻き起こしたのは67(昭和42)年10月。東京・羽田空港に舞い降りたショートカットでそばかすだらけの少女は日本を魅了します。この時、ツイッギーは毛皮のハーフコートと黒色のキュロットスカートを着ていました。
翌日、東京ヒルトンホテル(当時)の記者会見に姿を現したツイッギーは、ショッキングピンクの超ミニドレス。「ひざ上30センチ」は当時の日本には衝撃的でした。ひざ上15センチのミニスカートがわが国でも大流行します。
ツイッギーを日本に招待した合成繊維メーカーの東洋レーヨン(現・東レ)宣伝部長だった遠入(えんにゅう)昇氏は産経新聞の戦後50年企画『戦後史開封』に次のようなエピソードを披露しています。
〈遠入がツイッギーとマネジャーで恋人のジュスタン(・デ・ヴィルヌーヴ)を東京ヒルトンホテルに招き、歓迎パーティーを開いたときのことだ。てんぷらの材料が運ばれ、生きのいいエビがぴょんとはねた。「キャーッ」、悲鳴とともにツイッギーが気絶したため、歓迎会は台なしになった。
遠入は「つめをかんだり泣いたりと、13歳ぐらいにしか見えないことが多かったから、このときの様子が何とも頼りなくてね。だがこの没個性、無色透明さこそが、シンボルになり得る最大の条件だと見抜いたんです」と話す。〉
ツイッギー来日から2年後の69(昭和44)年11月には沖縄返還交渉のため訪米する佐藤栄作首相(当時)にひざ上5センチのミニスカートの寛子夫人が同行して羽田空港から飛び立ち、話題をまきました。皇室にもミニスカートが浸透していきます。
女性の平均体重は70キログラム
ツイッギーは2011年にアルバム『ロマンティカリー・ユアーズ』を発表したり、大手スーパーチェーン、マークス・アンド・スペンサーのモデルを務めたりとまだまだ健在です。動物愛護運動や乳がん患者の支援にも取り組んでいます。
しかし最近、英国ではツイッギーや、人気ミュージシャンのジョージ・ハリスンやエリック・クラプトンと結婚したスーパーモデル、パティ・ボイドさん(74)のような可愛いタイプの女性は流行らなくなりました。どうしてでしょう。
ツイッギーの体重は日本では「41キログラム」とされていますが、「51キログラム」という説もあります。2010年当時のデータでは、英イングランド地方の女性は平均身長161.1センチメートルで、平均体重70.2キログラム。これではスウィングしようと思っても、とてもスウィングできそうにありません。
英国では第二次大戦から戦後の1954年まで食糧配給制度が敷かれ、ツイッギーの時代の女性は大半が痩せていました。今はファストフードの普及や糖分、乳製品の取りすぎで、英国女性の27%は肥満、30%が太り過ぎだそうです。
ミニスカートの流行には新しい女性の生き方を提案するという意味のほかに、女性のチラリズムに対する男性の下心も影響していたのでしょう。しかし今やジェンダー・ギャップ(男女格差)の解消が時代のテーマです。ことさら女性を強調するファッションはもう流行らないのかもしれません。
映画の世界でもリアリティーが重視されるようになり、美男美女の俳優が姿を消す一方で、どこにでもいるような男女が名演技で見せる作品が増えているような気がします。
(おわり)