『入籍します』とは言えません! 結婚記事のニュースでは何て書く?【記者的言葉解説】
5月16日に、俳優の高橋一生さんと飯豊まりえさんが結婚を発表しました。SNS上でも祝福の声がたくさんあがっています。
結婚というワードが出てくる時に、「入籍しました」「来月、入籍するよ」といった言葉をよく耳にしませんか?
はるか昔に結婚された方も、新婚ホヤホヤの方も、一度は使ったことがある言葉かもしれません。またニュース記事でも、例えば芸能人や著名人の結婚報告で、「入籍しました」というコメントを聞いたことがある方も多いと思います。しかしこの『入籍』という言葉、実はニュース記事の地の文(会話以外の説明や叙述の部分)ではあまり使われていないのです。
この記事では、執筆記事1万本以上、取材経験5000回以上の元テレビ局芸能記者で現・フリー記者のコティマムが、『ニュース記事に使われている何気ない言葉』を解説。今回は『入籍』という言葉についてご説明します。
知ればニュースを読むのが「ちょ~っとだけ楽しくなるかも」……しれません。(構成・文=コティマム)
『結婚』=『籍を入れること』ではない
芸能記者がよく書く記事として、芸能人や著名人の結婚報告があります。実は、芸能人が「この度、○○さんと入籍しました」と報告していたとしても、ニュース記事では『入籍』という言葉は使いません。
今回の高橋さんと飯豊さんも、コメントでは「入籍致しました」と報告されているのですが、各ニュース媒体の記事をチェックしてみてください。実はほとんどの媒体が『入籍』という言葉を使っていません。「入籍を報告した」ではなく「結婚を報告した」と書いています。なぜ、『入籍』という言葉を使わないのでしょうか。
実は結婚というは、誰かの『戸籍に入る』わけではなく、2人で『新しい戸籍を作る』ことなのです。これまでそれぞれ違う戸籍に入っていた2人が、「新しく自分達の籍を作る」。そのため、誰かの籍に入る『入籍』とは、少しニュアンスが違ってきます。結婚する時に役所に提出するのは、『入籍届』ではなく『婚姻届』ですね。
記者ハンドブックでも注意書きがある
記者たちは原稿を書く際、正確な文章表記や表記揺れ防止のために、記者ハンドブックや用事用語辞典を使います(各媒体によって独自の表記ルールもあり)。筆者が普段使用している記者ハンドブック(共同通信社)にも、『入籍』について注意書きがあります。
“にゅうせき:入籍〔戸籍に籍を入れること〕〔注〕男女とも初婚だと多くは新たに戸籍を作るので、なるべく「婚姻届を提出、結婚した」とする”
この通り、初婚の場合は2人で新しい戸籍を作るため、「入籍する」「入籍した」という書き方ではなく、「婚姻届を提出した」「結婚した」と書きます。
もちろん、結婚を発表した芸能人や著名人が、コメントで「入籍しました」と報告した場合、発言内容そのものを変えることはできません。そんな時は、「タレントの○○が■日、『△△さんと入籍しました』と結婚を報告した」など、コメントはいかしたまま、地の文で「結婚を報告した」という書き方に変えています。
『籍を入れる場合』はどんな時?
結婚という意味では『入籍』という言葉を使わないことは説明しました。では、どんな場合の時を『入籍』というのでしょうか。
例えば、離婚した後に自分がもとの戸籍(実家など)に戻る、または自分の新たな戸籍を作り、その戸籍に自分の子どもを入れる場合、これは『入籍』になります。また再婚して、「再婚相手が戸籍筆頭者となる戸籍」に自分の子どもを入れる場合、これも『入籍』になります。ここで提出するのは『入籍届』です。
まとめ
普段何気なく読んでいるニュース記事は、多くの“言葉のルール”にのっとって書かれています(この『のっとって』も漢字表記ではなく、平仮名書きという表記ルールがあります)。
テレビや新聞、ネットなどのニュースで結婚関連の記事を見かけた際は、ナレーションや地の文で『入籍』という言葉が使われているかどうか、チェックしてみてくださいね(ほとんど、使われていないです)。
今後も記者目線で、「ちょ~っとだけタメになる(?)」言葉解説をつづっていきます。