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ポゼッションは二度死ぬ? CLアトレティコ対バイエルン、第2戦のキーポイントとは?

清水英斗サッカーライター
CL準決勝1st アトレティコ・マドリードMFサウル・ニゲスの先制ゴール(写真:ロイター/アフロ)

ポゼッションは二度死ぬのか。

2015-16シーズンのチャンピオンズリーグ準決勝アトレティコ・マドリード対バイエルン・ミュンヘンの第1戦は、1-0でホームのアトレティコが勝利した。

この試合のアトレティコのポゼッション率は31%。準々決勝のバルセロナ戦も、第1戦が32%、第2戦が28%と、かなりの低水準に留まる。しかし、結果を手にしたのは、ボールを持たないアトレティコだった。ポゼッション型のチームを震え上がらせる戦いを見せている。

「性能の劣るエンジンしか持ち得ないチームはどうすればいいか。相手のタイヤをパンクさせて走りの質を落とし、少しでも対等な状況に近づけて勝負する。それしか勝つ手段はない」(ディエゴ・シメオネ)

出典:ワールドサッカーダイジェスト2014年5月15日号インタビュー

アトレティコはどのようにバイエルンのタイヤをパンクさせ、1-0の勝利を手にしたのか。

重要なポイントは、両ウイング潰しだ。バイエルンのポゼッションは、タッチライン際に広がった両ウイングの突破力が肝になる。

両ウイングが広がることで、相手の陣形を横に伸ばして中盤にスペースを作る。これはポゼッションのセオリーだ。また、両サイドを1対1で突破すれば、バイエルンはロベルト・レヴァンドフスキなど中央で合わせるFWが充実しており、選手の個性にも合う。

チームを指揮するペップ・グアルディオラは、対戦相手によってシステムを使い分けるが、突破力のある両ウイングの起用だけは、どんなシステムでも保証してきた。

そこでアトレティコは、この両ウイングを潰しにかかった。両サイドバックのフェリペ・ルイスとフアンフランが、守備ブロックから抜けてマンマーク気味に早い段階からプレスをかけ、激しい球際の当たりで、ボールが入っても前を向かせない。

バイエルンの配置は、左利きのドウグラス・コスタが左サイド、右利きのキングスレイ・コマンが右サイドで、縦にドリブル突破しやすい形だが、マンマークで背中に付かれると、タッチライン際では利き足でコントロールしづらくなる。アトレティコのマンマーク守備が、バイエルンの前輪をパンクさせた。

ただし、このとき両サイドバックがマンマークでサイドに出るアトレティコは、センターバックとの間に空くスペースが弱点となる。

バイエルンはハーフタイムを経て、後半は右サイドバックのフィリップ・ラーム、右インサイドハーフのアルトゥーロ・ビダルらが、このすき間のスペースへ飛び出し、アトレティコのマンマークを混乱させ、何度か状況を打開するに至った。しかし、ペナルティーエリア内の守備も堅いアトレティコは、最後まで身体を張って凌ぎ切った。

「第2戦はもっと知的に戦わなければならない」と語ったグアルディオラだが、このような相手のねらいを逆手に取る、自主的な攻撃判断が足りなかったことを不満に思っているのではないか。

ゲーム戦術から見る、第2戦のキーワード

アトレティコはゲーム戦術も特徴的だった。

試合開始と同時にハイプレスを仕掛け、全力プレーで相手のビルドアップを壊し、ボールを奪ったら素早くカウンターへ。バルセロナとバイエルンとの直近3戦では、すべて前半のうちに先制に成功した。

しかし、さすがに90分間、それを続けるのは難しい。先制した後は重心を下げて、自陣で守備を固める。先行逃げ切り型のゲームプランが、アトレティコの持ち味だ。

第2戦でも同じことをやられてしまえば、バイエルンに勝機はないだろう。第1戦でアウェーゴールを取れなかったバイエルンは、第2戦のホームで失点すると、逆転するために3点が必要になる。先行逃げ切りを得意とするアトレティコに対し、0-1を3-1にひっくり返すのは、不可能に近い。

アトレティコに強い風が吹いているが、第2戦はバイエルンにも勝機がある。そのポイントは2つだ。

ひとつはホームの芝。アトレティコのホームでは、あまりボールが走らないピッチ状態だったが、第2戦でホームに戻ってくれば、バイエルン有利のピッチ状態に整えられるだろう。

もうひとつは、延長戦だ。

試合後、グアルディオラは「私たちには忍耐が必要だ。延長戦に持ち込むために、ひとつのゴールさえ取ればいい」と語った。

グアルディオラは、第2戦を1-0で延長に持ち込めば、自分たちが勝てると思っている。

それは確かだろう。先行逃げ切り型のアトレティコにとって、90分で決着を付けるのは重要なポイントに違いない。

思い返されるのは、2013-14シーズンのチャンピオンズリーグ決勝、レアル・マドリードとのマドリードダービーだ。前半に先制しながらも、アトレティコは後半アディショナルタイムにまさかの同点ゴールを許し、延長に持ち込まれると、怒涛の3失点を食らって1-4で大敗した。

相手のポゼッションに振り回され続けると、いかに強靭なアトレティコとはいえ、体力の消耗は避けられない。今回のバイエルン戦も、走行距離はバイエルンが112.19kmに対し、アトレティコは118.43kmと、約6kmも多く走った。90分ならば辛うじて逃げ切れたとしても、延長戦まで行けば、この疲労度の差が大きな問題になる。

これらを踏まえると、5月3日に行われる第2戦のキーワードは『先制ゴール』だ。

アトレティコが先制すれば、先行逃げ切り型のアウェーチームの勝利はほぼ決まり。

一方、アトレティコが先制できなければ、延長でも構わないと考えるバイエルンが有利になってくる。仮に0-0のまま終盤を迎えれば、本来は有利な立場にいるはずのアトレティコが、いつ、2013-2014決勝の再現に遭うものかと恐怖に苛まれるだろう。

ロースコアのサッカーにおいて、先制ゴールが重要なことは当たり前だが、第2戦はその意味がさらに大きくなる。注目の一戦だ。

サッカーライター

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合を切り取るサッカーライター。新著『サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点』『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』。既刊は「サッカーDF&GK練習メニュー100」「居酒屋サッカー論」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材に出かけた際には現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが最大の楽しみとなっている。

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