ポケモン社の“分散型台帳/NFT関連特許”について:ポケポケとの関係は?
「株式会社ポケモン、分散型台帳やNFT関連の特許を取得」というニュース(CoinPost)がありました。ポケモン社からの発表に基づく記事ではなく、特許情報プラットフォームでそのような特許が発見されたという記事です。
問題の特許は、特許7510475号、発明の名称は「プログラム、方法、情報処理装置、システム」(こういうタイトルを付けられると検索性が悪くなるので困りますねえw)、登録日は2024年6月25日、出願日は2022年10月27日、出願人は株式会社ポケモンの単独出願です。分割出願(特願2022-172295)があります(出願審査未請求)。PCT/JP2023/037797として国際出願もされています。
この特許の目的は、デジタルカードを使ったゲームにおいて「カードに対する思い入れ」を残せるようにすることです。通常のカードゲームとは異なり、デジタルカードは物理的な存在ではなく、単なるデータに過ぎないためカードに愛着が湧きにくいという問題があります。そこで、カードの使用履歴等に基づいてカードの表示方法を変えるようにするというのがこの特許のポイントです。
審査過程では拒絶理由通知が2回出ていますが、2回ともクレームの補正なしに意見書だけで克服しています(何と言いますか、”剛腕“ですね)。結果的にきわめて広い範囲で権利化できています。
請求項1の内容は以下のとおりです。
実質的に、デジタルカードの使用履歴に基づいてカードの表示方法を変えるということだけで権利化できています。タイトル画像を例にすると、そのカードを使った過去の対戦履歴に関する情報(1415)が表示されています。これが、この特許によりカバーされる発明です。特にゲーム関係の特許で言えることですが、カテゴリ初期に出願することで、カテゴリを丸ごとカバーするようなびっくりするほど広範囲の特許が成立することがあります(任天堂の特許でもよくあるパターンです)。この特許もそのような例と言えるでしょう。
ところで、分散型台帳という言葉は請求項6以降にならないと出てきません。それも、「カード関連情報の記録先が分散型台帳である」といった限定が加えられているだけです。要は、分散型台帳の使用はオプショナルで、たとえば、カード使用履歴をRDBMSに保存していてもこの特許のカバー範囲です。
また、NFT(非代替性トークン)は請求の範囲ではまったく言及されていません。明細書の中で実施例としてデジタルカードが、NFTとしてブロックチェーン上で取引されることが記載されているだけです。要するに、NFT特有の話で特許を取ろうとは意図されていないということです(後で分割出願で権利化される可能性はありますが)。
ということで、この特許を「分散型台帳/NFT関連特許」と呼んでしまうのはちょっと無理がある気がします(なお、冒頭にも書いたようにポケモン社がそう呼んでいるわけではないので念のため)。と言いつつ、デジタルトレーディングカードに関するかなり強力な特許であることは確かであり、(ブロックチェーン/NFTを使うかどうかにかかわらず)類似のゲームを提供しようとする他社は結構苦労するのではという気はします。
ところで、冒頭の引用記事では、この特許が、10月30日にリリース予定の“Pokémon Trading Card Game Pocket” (通称、ポケポケ)というスマホゲームに関係しているものであると推測されており、かつ、「ポケポケ」でのNFT実装についてポケモン社が否定したとの未確認情報があるとされています。
そもそも、ポケモン社(および、開発会社であるDeNAやその他の任天堂関連会社)が”運営”として管理するオンラインカードゲームであれば、カード関連情報は、自社サーバ上のRDBMSなど自社が管理する場所に保存すれば済む話です。わざわざ、NFTとパブリックチェーンを使って、処理のたびにGAS代を支払うようにする意味はありません。NFTを使うことで、任天堂等の特定の企業に縛られることなく、“運営レス“で自由に取引を行うことが可能になりますが、少なくとも現時点で、任天堂にとってそうすることにビジネス上のメリットがあるとは思えません。
ということで、「ポケポケ」がこの特許で守られる可能性は高そうですが、それは、分散型台帳(ブロックチェーン)ともNFTとも関係ない領域での話ということと思います。