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妊活を始めるなら、まず男性が検査しよう

おおたとしまさ育児・教育ジャーナリスト
写真はイメージ(写真:アフロ)

男性不妊治療の認知が広がっている!?

子供がほしいのになかなか授かれない。そんな悩みを抱える男女は、意外に多い。自然に性交渉をもっているにもかかわらず1年以上妊娠の兆候が見られない状態を一般に「不妊」という。WHOによれば、1年以上妊娠できず、医療的なサポートが必要なカップルはおよそ15%、医療的なサポートを受けても妊娠できないカップルが5%いる。

妊娠に関する医療的なサポートというと、女性が受けるものというイメージがいまだ強い。しかし不妊の原因が女性側にある確率と男性側にある確率はほぼ同率。男性は射精ができれば「問題ない」と考えている人もいるかもしれない。しかし本当の問題は、精液が出るかどうかではなく、その中に健康な精子がどれだけ含まれているのかである。

男性の不妊治療を専門に行うクリニックが、東京の恵比寿にある。恵比寿つじクリニック。看護師長の阿部典子さんは、2009年から現在に至るまで、受診者のデータを集めている。その結果を、2014年の日本生殖医学会と2015年の日本受精着床学会で発表した。少しずつではあるが、男性不妊治療に関する認知が広まっていると言う。

学会で発表したデータに最新のデータを追加したものが下図。2009年から2016年で年間の精液検査受診者数は約4倍に増えている。クリニックの認知度が上がったことも考えられるが、男性不妊治療自体の認知が広がったことも背景にはあるのではないかと阿部さん。

さらに注目すべきは子供を授かろうとしてからクリニックを訪れるまでの期間。2009年の時点ではいわゆる「妊活」を始めて3年近くたってようやく男性が治療を始めるような状態だった。それが2015年には1年を切っている。WHOの定義する「不妊」の状態になる前に、男性も不妊検査を受けるようになってきているのだ。

来院者が精液検査を希望する主な理由は以下の通り。

・妻が婦人科を受診して異常がなかった。

・他院で精液検査が不良であった。

・精液検査を婦人科で受けることが恥ずかしい。

・2人目がなかなかできない。

・不妊検査は男性のほうが負担が少ない

・不妊の原因は男女半々であるから

原因がわかれば時間を節約できる

「実は男性側に問題があるのに、それに気付かず、女性だけがつらい不妊治療を何年も続けているケースというのは本当によくあります。男性の精液検査は女性が受ける検査に比べれば簡単です。痛みも伴いません。不妊治療を始めるなら、女性だけでなく、最初から男性も検査を受けてほしいと思います。そうすれば女性が少しでも若いうちに妊娠できる可能性も広がるわけですから」(阿部さん)

排卵日に合わせてセックスするいわゆる「タイミング療法」、精子を人工的に女性の体内に届ける「人工授精」、女性の体内から卵子を取り出し受精させ培養してから体内に戻す「体外受精」、取り出した卵子に直接精子を注入して受精させる「顕微授精」というのが不妊治療の一般的な段階だ。もし精液の中に健康な精子が非常に少ないことがわかれば顕微授精になるが,早めの治療で精子を改善できれば,妻と生まれてくる子供によりやさしい治療で妊娠することができる。そのぶん、時間も費用も節約できる。

精液検査により何がわかるのかについては、つじクリニックのこちらのページを参照のこと。健康な精子とそうでない精子の動きが動画で見られる(※1)。

女性が不妊治療のために通う婦人科でも精子検査はできるが、「できれば男性不妊専門のクリニックや泌尿器科での検査をおすすめする」と阿部さん。より専門的な検査やアドバイスが可能になる。

結果によっては強いショックを受けるだろう。しかし最悪、健康な精子が1個でも見つかれば、顕微授精による妊娠の道が開けている。

だとすれば逆に、男性が若いころに精液検査を受けて異常がないことが認められており、女性が若いころに卵子を採取し凍結しておけば、いくつになっても顕微授精が可能で、妊娠に関して年齢を気にする必要はなくなるのか。

「そんなことはありません。まず、若いころの質の良い卵子があっても必ず妊娠できるというものではないですよね。それは体外受精の妊娠率が30歳でも30%ないことをみればわかるでしょう(参照:日本産婦人科学会発表のデータ ※2)。受精ができたとしても、着床するか、順調に育つか、さまざまな条件が揃わないといけません。年をとればとるほど条件が揃いにくくなることは、前述データの流産率に表れています。さらに、当然ながら精子の質も年齢とともに低下します」(辻祐治院長)

なるほど……。卵子のこと、精子のこと、私たちは実はあまり知らない。まずは知ることから始めよう。

※1 恵比寿つじクリニックホームページ

http://e-dansei.com/inspection-meaning/semen-analysis.html

※2 日本産婦人科学会発表データ

https://plaza.umin.ac.jp/~jsog-art/2014data_201701.pdf

(補足)ART=生殖補助医療 SET=単胚移植

育児・教育ジャーナリスト

1973年東京生まれ。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。リクルートから独立後、数々の育児・教育誌のデスクや監修を歴任。男性の育児、夫婦関係、学校や塾の現状などに関し、各種メディアへの寄稿、コメント掲載、出演多数。中高教員免許をもつほか、小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての活動経験あり。著書は『ルポ名門校』『ルポ塾歴社会』『ルポ教育虐待』『受験と進学の新常識』『中学受験「必笑法」』『なぜ中学受験するのか?』『ルポ父親たちの葛藤』『<喧嘩とセックス>夫婦のお作法』など70冊以上。

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