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目黒川よりも青森県でお花見をするほうが自慢になる? 中国人が“一番乗り”にこだわるワケ

中島恵ジャーナリスト
青森県・弘前公園の名物、夜桜(写真:rei125/イメージマート)

 昨日(3月27日)、東京地方では晴天に恵まれたため、桜の名所の一つである目黒川沿いにも大勢の人々が押し寄せて大混雑となりました。

 目黒川沿いは、千鳥ヶ淵や新宿御苑のような広大な場所ではなく、全国区のお花見スポットとまではいえませんが、川を挟んで左右から折り重なるように咲き乱れる桜がとても美しく、周辺にはオシャレな飲食店も多いことから、近年では、都内在住の中国人も「ここがいちばんきれい」といって写真撮影に訪れ、中国のSNSに投稿しています。

 しかし、中国でも今、ちょうど北京や上海などでは桜が満開で、日中両国でSNSにお花見の写真を投稿する人が相次いでいるので、一見すると、どっちの国の桜かわからないこともよくあります。

中国の桜は幹の下部が白いのが特徴

 中国の桜の場合、木の幹の下のほうが防虫などのために白い塗料で塗られていることが多いので、少し引いて撮ると、すぐに「これは中国の桜だ」とわかるのですが、クローズアップした花の写真だけでは、見極めるのが難しい。中国に住む中国人の間でも桜の人気が沸騰していて、中国国内でも皆、工夫して撮影しているからです。

 なので、お花見のインスタ映えを狙い、数多くの「いいね」を獲得する写真を撮ることは至難の業となっていますが、ここ数年、中国人の間で人気急上昇となっているのが青森県弘前市の弘前公園の桜です。

 昨年以降、新型コロナの影響で訪日中国人観光客はほぼ皆無。今年も弘前公園を訪れることができる外国人は、在日中国人など日本に住む人に限られますが、中国のサイトを見ると、以下の記事にも書いた通り、弘前公園は「世界三大お花見スポット」と紹介されているため、かなり注目度が高いのです。

「日本の桜と中国の桜、どっちがきれい?」しばし沈黙した後、中国人から返ってきた答えは……

 青森県弘前市の関連サイトなどを見ると、弘前公園(別名は鷹揚(おうよう)公園)の桜は、弘前藩の藩士が京都から桜の苗木を持ち帰ったことが始まりだといわれています。現在は約50種、2600本の桜が植えられていますが、日本最古のソメイヨシノを始め、樹齢100年を超えるソメイヨシノが300本以上もあることで知られ、日本の都市公園100選や日本さくら名所100選などにも選定されています。

 日本人の中にも「いつか弘前城の桜を見たい」と思っている人が大勢いると思いますが、それは「弘前の桜も有名だから、ぜひ一度は」という純粋な動機からくるものが多いと思います。

 しかし、中国人の場合、そこの桜が有名だからというだけでなく、「他の中国人がまだあまり行っていないところだから、そこに行って自慢したい!」、「できるなら、自分がそこに一番乗りして、皆から羨ましがられたい!」といった動機があります。

“一番乗り”に快感を覚える理由

 中国のSNSで「弘前」と検索すると、すぐに「桜花」(桜)が関連ワードでヒットします。以前、中国人の女性ブロガーが投稿していた文章を見ると、弘前公園の桜がおススメの理由について、こう書いてありました。

「ここは北海道を除くと本州の最北端で、春はかなり遅いです。青森県は東京や大阪などに比べると、人が少なくて穴場。『五一(ウーイー)』(5月1日の祝日のことで、中国でも、この前後が大型連休になる)のときを利用して日本旅行に行けば、この時期でもお花見ができます。弘前は日本三大桜の名所の一つで、日本人にとっても憧れのお花見スポットとなっています」

 こうした説明に加えて、中国人ブロガーは東京から弘前までの交通情報や、弘前市の他の観光スポット(藤田記念庭園や弘前天満宮、岩木山など)も数々の美しい写真とともに紹介していました。弘前について、まだほとんど何の知識もない中国人にとって、実際に行ったことのある人の生の情報はありがたく、羨ましく、そして、興味を引く内容だと思います。

 お花見に限りませんが、中国のSNSやサイトでは、他の人に自慢したいために、その地への“一番乗り”にこだわる人をよく見かけます。

最初の投稿者になりたいという願望

 いちばんよく見かけるのは「大衆点評」という飲食や娯楽関係の総合アプリ。このアプリは中国国内だけでなく、日本など海外の飲食店の情報もたくさん検索できるようになっており、日本を訪れた中国人が、日本人が『食べログ』や『ぐるなび』などに料理の感想を投稿するのと同じように、日本の飲食店について写真や感想を中国語で投稿できるようになっています。

 それを見ると、たとえば弘前に桜を見に行った中国人が、「桜を見た後は、弘前市内にある〇〇レストランに行った。ここは個人経営の小さな店で席数は〇席しかないが、〇〇料理が絶品!他に〇〇もおススメ」などと写真とともに投稿しています。

 地方都市の小さな飲食店ですから、当然ながら、中国人で訪れたことのある人はまだほとんどいません。このように書いた投稿者が、すべての中国人の中で“一番乗り”となるわけで、いちばん上にコメントが載ります。それが、投稿者の「誰よりも、自分がいちばん情報通で、この店を発見したんだ。自分がいちばん早かったんだ!」という快感や喜びにつながっています。

 投稿には日付も載りますので、一目瞭然。それが後々まで残ることで、自分の足跡を残すことができ、自尊心も満足させられます。

 こうしたことは、中国国内でも頻繁に行われており、知られざる名所や絶景などに旅行に行く人の中には、“一番乗り”を目指す人が少なくありません。これは、SNSだけでなく、さまざまなサイトへの投稿意欲や情報の拡散、拡充にもつながっており、皆の役にも立っていますが、そこに、一般的には知られていない、行った人だけが知る“ウンチク”やワンポイント情報も書いてあれば、尚更、他人に自慢することができます。

 お花見でいえば、近年、急速に有名になった目黒川沿いも、中国に住む友人たちに対して、上野公園よりは、はるかに自慢できるスポットなのですが、中国にも桜の名所が増えている昨今では、さらに希少価値を求めてしまうという傾向があります。だからこそ、弘前公園が注目されている、ということなのでしょう。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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