北朝鮮「いとこ同士」を待っていた残酷な運命
極端なゼロコロナ政策として、実質的な「鎖国」を行ってきた北朝鮮。人の出入りはもちろん、貿易まで止められてしまい、経済の中国依存度が高いため、国内は著しい物不足に陥った。
しかし最近になって、当局は中国との貿易を再開する動きを顕著に見せ始めた。そしてその裏では、国境の川が凍る冬を待ち、命がけで川を渡って脱北する人が増えている。
慈江道(チャガンド)の中江(チュンガン)では今月初め、20代の男性2人が川を超えて脱北を図った。2人はいとこ同士で、年下の男性は兵役に就いているが、食糧配給があまりにも少なく飢えに苦しみ、年上のいとこを説得して川を渡ろうとした。しかし、その瞬間に国境警備隊によて逮捕された。
年上のいとこは教化所(刑務所)へ、そして脱北を持ちかけた男性は、軍人であるにもかかわらず脱北を図ったとして、管理所(政治犯収容所)送りとなった。それぞれ刑期は不明だが、生きて帰る可能性は非常に低いだろう。
(参考記事:若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態)
一方で、両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)では、女性が脱北に成功した。
中国の情報筋によると、ある40代女性は先月末、恵山から川を渡り脱北しようとしたところで、国境警備隊に見つかってしまった。しかし、ワイロを渡して見逃してもらい、対岸の中国吉林省の長白朝鮮族自治県に無事たどり着いた。
当局は依然として脱北や密輸を厳しく取り締まっており、一時は銃撃され死亡する人が後を絶たなかったが、経済的に苦しいのは国境警備隊員とて同じだ。以前のようにワイロを受け取って脱北を見逃すケースが頻繁に起きている。なお現在、越境を見逃すワイロの相場は5000元(約9万5000円)だとのことだ。
北朝鮮の国境沿いの地域ではコロナ前、地域住民が国境警備隊や保衛部(秘密警察)にワイロを掴ませ、脱北や密輸を見逃してもらったり、見張りをしてもらったり、ハナからグルになって密輸を行ったりと、違法行為によって地域経済が回っていた。
当局は、新型コロナウイルスの侵入を防ぐとの名目で国境警備を強化。地元とのしがらみのない「暴風軍団」こと朝鮮人民軍(北朝鮮軍)第11軍団を派遣して国境警備に当たらせ、また反社会主義・非社会主義連合指揮部(82連合指揮部)に違法行為を取り締まらせるなど、大々的な違法行為掃討作戦を繰り広げた。
しかし、当局が貿易再開の動きを見せ、少したがが緩んだだけで、あっという間に元の木阿弥である。今後、正式に国境が再び開かれて貿易が再開されれば、密輸と脱北はさらに増えるだろう。