〝火遊びで魅せる〟ミシュラン大阪1つ星! 鶏懐石を思わせる焼鳥コースは繊細かつ豪快【市松/大阪】
今回、冒険するのは大阪府大阪市北区堂島の焼鳥屋「市松」。通称「キタ」と呼ばれるこのエリアは、和洋問わず高級店やクラブ、バーがひしめき合う歓楽街で、東京でいえばまさに銀座といったところ。ここほど飲食店が密に集まっている街も珍しい。なかでも「市松」はミシュラン大阪1つ星を5年連続で獲得。国内はもとより、世界から数多くの食通が訪れている。
鶏懐石を思わせる焼鳥フルコース
薄暗がりの店内を進むと、焼き場がよく見える下手に通された。すっと降りる照明、鶏の鎖骨を使った箸置き。無駄がなく洗練された造りは高級焼鳥ならではの醍醐味でもある。こういう店はビールグラス一つとっても、映えるんだよなぁ。
焼き場では店主・竹田さんが真剣な眼差しで準備を進めていた。「市松」が主に扱うのは日本三大地鶏の一つ、比内地鶏。それを多角的にアプローチした鶏懐石ともいえるフルコースが味わえる。いってみれば、「ケ」ではなく「ハレ」の焼鳥だ。
リコッタチーズが、まさかのおでんに
さぁ、コースの1品目にして、度肝を抜かれたのがリコッタチーズのおでん。比内地鶏から取ったスープに浮かべたリコッタチーズは、まるで木綿豆腐のように、ほろり、ほろり……。しみじみ、うまい。なんという豊かな発想、なんという滋味深さだろう。
ホエイ(乳清)から作られるリコッタチーズはさっぱりとしてミルキー。その良さが欠けることなく、おでんという料理として成立している。これ一つで、きっと誰もが「市松」の世界観に引き込まれてしまうはず。
比内地鶏のかた、ねぎまに心掴まれて
だんだんと高まりゆく期待。待ちに待った焼鳥の1本目は、かただ。肉にまわった比内地鶏の甘い脂が艶めく。地鶏を扱う店だからこそ、火入れが繊細なむね肉やかた肉は名刺代わりになる。むちっとして、吸い付くようにしっとりと。これだ、これこれ。最高の出だし。
続いては、もも肉のねぎま。もも肉は地鶏の主役とも言えるネタだ。噛めばジュワッと甘みが溢れて、噛むほどにうまみが追いかけてくる。んん。まだ2本目だというのに、もうクライマックスを迎えたような高揚感。この一気に心を鷲掴みにされる感覚、嫌いじゃない。
うずらの玉子一つとっても完成度高
緩急を付けるように、うずらの玉子の紹興酒漬け。たれは紹興酒といっても特有の「くせ」は感じられず、コクがありながらさらり。玉子の白身は地に漬け過ぎるとかたくなってしまうものだけど、これはふっくらとして黄身はとろり。
うーん、秀逸。たかがうずらの玉子、されどうずらの玉子だ。地鶏の串と比べても見劣りしない完成度!
手羽は炭火ではなく、薪火で
「手羽先の薪焼きです」と差し出されたのは、串に打たれたものではなく、手羽そのもの。炭火と薪火は質がまったく違う。薪に含まれる水分が水蒸気となって手羽を包み込み、香りが移されるわけだ。
炭火のようなパリッ! とした風合いとも異なる、独特のしっとりとしたテクスチャー。噛めばほのかに杉の香りが鼻をくすぐっていくよう……。これがまた、コク深い黒ビールに合うんだ。いや、ほんと。
チキンパテサンドという変化球
さぁ、コースも中盤。現れたのはまさかのチキンパテサンド! 炭火でさっと焼いたパンに挟まれているのは、厚みのあるチキンパテとピクルス。頬張った瞬間、小麦の香ばしさと鶏肉のうまみ、ピクルスの酸味が三位一体となってこの口を喜ばせる。んん。これは、ずるいなぁ。どうしたってうまい。
宮崎県名物・鶏の籠焼きを昇華
ふと焼き場に目をやると、竹田さんが金網を豪快に振るっていた。滴る鶏脂。ゴオッと燃え盛る火柱。おお。まるで、宮崎県名物の籠焼きのようじゃないか! まさか「市松」のような高級店で見られるとは思わなかったなぁ。
「名古屋コーチンの鶏ぽん酢です」と差し出された小鉢には、籠焼きらしくうっすらと黒がかった地鶏の姿。噛めばぐぐっと豊かな弾力とともに濃いうまみが飛び込んでくる。
一般にこの料理は親鶏が使われることもあり、そうするとかたさが気になることがあるのだけど、この一品はむしろ、しなやか。籠焼きを「市松」流に昇華させていると思う。
口直しに焼きシャインマスカット?
口直しは、まさかのシャインマスカットの炭火焼きだ。確かに焼いた果物はうまいけれど、それでもシャインマスカットは想定外……。
しかも、うまいんだ、これが。シャインマスカットのやわらかな皮がパリッ! と弾けそうなほど香ばしく仕上がり、噛めば甘みの大洪水。うーん。新食感。
河内鴨の山椒あんかけが逸品
先ほどから寝かせてあった河内鴨のむね肉が、ようやく出番を迎えた(すっかり忘れていた)。しかも、そのままローストとして出すのではなく、山椒あんかけに仕立てるというひと手間がニクい。
噛めばどこまでもしっとりとして、河内鴨の濃いうまみがじわり伝わってくる。そのうまみを引き立てるかのような、ほのかな山椒の風味。もう、完璧。これは、日本酒でもワインでもビールでも、どれもピタリときそうだ。
追加のネタ、一品も魅力的
まだもう少し焼鳥を食べたいな、と。そこで、選んだのは白レバーにぼんじり。白レバーはこっくりと脂がのった比内地鶏のレバーだ。歯がいらないくらいにとろりとやわらかく、濃厚な甘みが舌を伝っていく。やっぱり、長期飼育で肥えた地鶏のレバーはうまいなぁ。
そして、ぼんじり。ぼんじりはどうカットして打つかでも表情が変わってくる部位。「市松」では大ぶりに打って、じっくり焼き上げている。表面はパリッとしながら、中はもっちり、ブリッブリ! これはたまらない。串の最後にふさわしい、食べごたえ。
世界を魅了する「市松」の〝火遊び”
比内地鶏のうまい串に気の利いた肴の数々。〆の鶏ごはんも一粒残さず食べて、もう満腹。聞けば「市松」のコンセプトは〝火遊び〟だと竹田さん。焼鳥屋なのだから、当然ながら炭火を操るわけだけど、「市松」のフルコースを振り返ると、さまざまな料理に「火」のアプローチが散りばめられていることに気付く。
炭火を軸として、薪火。さらに酒蒸しや燻製、籠焼きなど、あらゆる方法で火入れ。〝火遊び〟といっても奇をてらうことなく、火を可視化することで見るものを釘付けにしている。
うまいは大前提として、魅せる焼鳥。なにより竹田さんの一挙一動に華があり、それに呼応するようにスタッフもきびきびと動く。うーん、とにかくカッコイイ。海外の食通も多く訪れるのも頷けるというもの。レストランとしての焼鳥にふさわしい、大阪の名店だ。
▼冒険のおさらい
①火遊びがコンセプトのフルコース
②日本三大地鶏・比内地鶏が主役
③店の造りも接客も洗練されている
店舗情報
【店名】市松
【最寄り駅】北新地駅
【住所】大阪府大阪市北区堂島1-5-1
【予約】予約サイト「OMAKASE」
【定休日】日曜、月曜
【串のアラカルト】なし
【コース(セット)】10,450円
【鶏メモ】比内地鶏