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ラグビー日本代表SH齋藤が入団する欧州最強「トゥールーズ」とは? なぜ、最終日に契約に到ったのか

斉藤健仁スポーツライター
昨季、6度目となるラグビーの欧州王者に輝いたトゥールーズ(写真:REX/アフロ)

Yōkoso Naoto Saito

7月10日、日本では「トゥールーズ」という都市名で呼ばれている、ラグビーのフランス1部・TOP14の強豪で昨季、フランスと欧州タイトルの「2冠」に輝いた「スタッド・トゥルーザン(Stade Toulousain)」が公式「X」で、ラグビー日本代表SH齋藤直人(元・東京サントリーサンゴリアス)の入団を発表した。

海外挑戦を決めた理由をSH齋藤は「(昨年のラグビー)ワールドカップに4試合出られたのですが、本当にハイプレッシャーの中で自分の力が出せたかって言われると、全然、そうは思えなかった。ああいった舞台で能力を出すには、常にそういう高いレベル、高いプレッシャー、強度の中でプレーし続ける必要があるかなと思った。ワールドカップ後が一番、そう思いました」と説明した。

さらにトゥールーズに決めた理由を「ポジティブに捉えると(フランス代表のSHアントワーヌ・)デュポンと一緒にやれるっていう捉え方と、あとトゥールーズというチームでプレーできるっていうこの機会は本当に限られている。 それこそ9番でいうと、3人しかいない。その限られたチャンスがあったということで、そこは特に迷わずに、自分の気持ちが、トゥールーズでプレーしたいって思ったのでそうしました」と話した。

◇欧州最強クラブ「トゥールーズ」とは?

トゥールーズでキャプテンを務めている世界的なSHのデュポン
トゥールーズでキャプテンを務めている世界的なSHのデュポン写真:REX/アフロ

齋藤が入団するスタッド・トゥルーザンはフランス南西部、オクシタニー地域圏の首府トゥールーズを本拠地とする、1907年創設のフランスの名門クラブだ。19世紀末ごろにできた2つのクラブが合併し、現在の形となった。

クラブカラーは赤と黒で、これは前身のクラブの一つで、1896年創設のSOET(Stade olympien des étudiants toulousains)という学生で構成されたクラブのカラーだったという。元々はかつての市会議員にあたるカピトゥールが着用していた衣装の色に由来する。クラブロゴはStade Toulousainの頭文字SとTを合わせたもので、中心部にあるサン・セルナン大聖堂の聖トマスの紋章を忠実にコピーしたデザインとなっている。

120年近い歴史の中で、23度のフランス王者、6度の欧州王者とフランス、ヨーロッパでも最多のタイトルを誇っているクラブだ。そのためFLティエリ・デュサトワール、WTBヴァンサン・クレール、SOフレデリック・ミシャラクといったフランス代表を多く輩出しているだけでなく、ニュージーランド代表FLジェローム・カイノ(現FWコーチ)、南アフリカ代表WTBチェスリン・コルビ(現東京サンゴリアス)といった世界的な選手も過去にプレーしている。

現在も、セブンズでパリ五輪に出場するSHアントワーヌ・デュポンや、SOロマン・ヌタマックらフランス代表経験者が16人、ニュージーランド代表PRネポ・ラウララ、オーストラリア代表LOリッチー・アーノルド(元ヤマハ発動機)、スコットランド代表SOブレア・キングホーン、アルゼンチン代表FBファン=クルス・マリア、イタリア代表FBアンジェ・カプオッツォ、イングランド代表FLジャック・ウィリスといった世界的な選手も数多く在籍し、2023-24シーズンは欧州王者を決めるチャンピオンズカップと国内リーグの「TOP14」の2冠を達成している。

◇なぜ齋藤とクラブとの契約が最終日の6月30日となったのか

イングランド代表戦でプレーするSH齋藤(撮影:斉藤健仁)
イングランド代表戦でプレーするSH齋藤(撮影:斉藤健仁)

6月上旬に宮崎合宿で齋藤に取材すると「まだ決まっていない」と話していたように、キッキングゲーム主体のヨーロッパの英仏の4~5チームと交渉する中で、(移籍市場が閉まる)6月30日のギリギリのタイミングで正式にトゥールーズと契約を締結した。

「(トゥールーズから)話をもらってから結構長くて、進展していたのですが、本当に(決まって)ホッとしました。家族をはじめ周りの人の理解、それから代理人の協力があって実現したことだと思っています」と正直に吐露した。

それでは、なぜ齋藤の移籍はマーケットの閉まる6月30日になったのか。代理人が「7月1日から来季の移籍の話が始まっている」と話すように、まず、「ワールドカップから帰って来た後に海外挑戦をしたいと思った」というように齋藤は後発組だったというわけだ。

しかもトゥールーズには絶対的なSHであるフランス代表デュポン以外に、フランスU 20代表経験のある23歳のバプティスト・ジェルマン、26歳のポール・グロウという3人がいた。そのため、齋藤の枠は当初はなかった。

ただジェルマンも移籍期限が迫ってくる中で、今季からバイヨンヌに移籍することが決まり、さらにパリ五輪に出場するデュポンが、オリンピック後、いつからチームに合流するか未知数という状況もあった。そこで齋藤との契約の話が一気に進んだというわけだ。

齋藤は「もともとチームにいたSHの選手が関係していたり、他のチームのSHの移籍が関係したりしていた。市場が閉まる本当にギリギリの日に、正式にサインできた。結構、ギリギリだったかな(苦笑)。初めてだったので、経験になりましたね。トゥールーズの監督とコーチと英語でミーティングさせてもらったのですが、初めての経験だったので、たぶん毎日そういう環境でやらなければならないので、より勉強しなきゃいけないと思いました」と振り返った。

自らの強みをコーチ陣に「やっぱり一番はクイックなパス、テンポっていったところで、トゥールーズのラグビーも本当にアタッキングで、本当にアタックがすごい。テンポも速いし、ボールも動くし、オフロードにも対応するというラグビーなので、そういったところがすごく(自分のプレースタイルと)合うのかなと思っています。あと、プレースキックが自分の強み」と伝えたという。

今後も海外でプレーしたい」と話すが、齋藤とトゥールーズとの契約は1年である。

リーグ戦やチャンピオンズカップなど試合数の多さというところも一つ魅力」と話すように、試合数は多いが、公式戦に出場するためにはSHグロウとの争いになりそうだ。特に、SHデュポンがオリンピックからの休養でいないと予想されているシーズン序盤で、自身の存在価値、能力を見せる必要があろう。

SH齋藤は「チームから信頼を勝ち取って試合に出るというところが第一優先かな。プレーに関しては本当に積極的にいきたいなと思っています。 一選手として、一年目だからとか、日本人だからとか、そういう考えじゃなくて、本当に最初から積極的に、もちろん9番の一番手狙うつもりでいきますし、引いたマインドではなくて、どんどんアグレッシブにいきたい」と言葉に力を込めた。

かねてから「テストマッチの舞台で自分の能力を出して、チームを勝たせる9番になりたい」と話していたSH齋藤直人。ワールドクラスのスクラムハーフになるためにフランスの最強クラブで新たなチャレンジが始まる。

SH齋藤はシーズン序盤で、自身の能力を見せてメンバー争いに絡みたいところだ(撮影:斉藤健仁)
SH齋藤はシーズン序盤で、自身の能力を見せてメンバー争いに絡みたいところだ(撮影:斉藤健仁)

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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