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【30kmの壁を超えるために】知って欲しいレース1ヶ月前の30km走の意味、そしてレース直前の準備

たくや/ランナー医師、ランナー、ランニングコーチ
写真は写真ACより

フルマラソンの終盤で、30kmの壁を感じずにスイスイ走れるランナーは、おそらくほとんどいないと思います。ですが実際にフルマラソンの終盤で失速してしまったランナーを調べてみると、その割合は男性28%、女性17%でした。30kmの壁は高く立ちはだかることもありますが、頑張れば乗り越えられるハードルのような時もあるのです。ではどうすれば壁を小さく、ハードルを低くできるのでしょうか。今回はレース前、そして次週はレース中の対策に分けて書いてみたいと思います。

※この記事を読む前に、できれば前週の記事を読んでください。

【マラソンの「30kmの壁」の正体は?】最近の研究ではエネルギー枯渇説よりも、脳がかけるブレーキ説?

脳のブレーキをゆるめる1ヶ月前の30km走・フルマラソン

写真はunsplashより
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1ヶ月前の30km走、フルマラソンのポイント

レース1ヶ月前の30kmは、もはや定番の練習になりました。その目的はエネルギーを枯渇させるとか、足の持久力をつけるなどと言われています。本当にそんな目的なのでしょうか。一度の練習での体の変化は、1ヶ月も持続しません。持続するとすれば「脳の記憶」です。例えばPTSDの記憶のトラウマは、たった1回でも数週間から数か月持続してしまうと言われています。限界まで走って頑張った30km走の記憶は、PTSDほど強いものではありませんが、脳への刷り込みも一定期間持続するはずです。「エネルギーが減ってきても、呼吸が心拍がきつくなっても無事だった」という経験を脳に刻み込めば、レース中にかかるブレーキを弱く、タイミングを遅くできるのです。そう考えると、30kmで注意する点は自ずとみえてくるのではないでしょうか。

・30kmでもよいが、できればそれ以上の距離がよい。

・回復と障害の問題がなければ、2~3週前でもOK。

・壁を感じたらそこでやめず、減速してもいいから粘ってみる。

・決してネガティブな感覚・感情で終わらない。

まだランニングを始めたばかりのランナーの場合は、30km走れる持久力も回復力もないので30km走でよいと思います。ですが走力のあるランナーの場合はそれ以上の距離、42km走る方が壁に対する効果は高いはずです。さらに回復と障害の問題がクリアできるのであれば、2~3週前でも構いません。

余談ですが2週連続のフルマラソンに出走すると2週目の方が記録がよいことが多いのは、そんな理由があるからかもしれません。

繰り返しのフルマラソンでさらに壁が低くなる

さらに1ヶ月前フルマラソンを数か月にわたり繰り返すと、さらにブレーキがゆんでくる可能性もあります。もともと強度の高い練習を繰り返すと、一般的な限界と言われるラインを突破できたりするものです。

30kmの壁の話ではありませんが、例えば体重の2%の水分が失われると有酸素運動能力が10%低下するという一般論があります。ですが研究によると、フルマラソンをゴールしたあとの体重減少を調べた結果、4時間以上で完走したランナーは平均1.8%、3-4時間のランナーは2.5%、3時間未満のランナーは3.1%でした。さらに別の調査では、大会で優勝するようなエリートランナーの体重減少は9%前後でした。練習を積み重ねることで、世に言われている「2%の壁」を超える力を生み出しているのです。もちろんこれば脳のブレーキだけではありませんが、同じように練習を積み重ねることで30kmの壁、そういう限界を超えていける可能性があるのです。

そして自分の感覚ですが、一回のフルマラソンの効果は1ヶ月ほどしか持ちません。ですがフルマラソンを繰り返して走って強く緩んだ脳のブレーキは、2~3ヶ月くらい効果が持続する印象です。

レース1週間前からの練習の減量・糖質負荷

写真は写真ACより
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練習の減量(テーパリング)

そしておそらく想像している以上に、直前の練習量を落とすことも大事です。ランナーは意外と疲れに鈍感です。それは普段からしっかり練習をしているランナーは、疲労が残っているのが普段の体調だからです。機能性のGPS時計にリカバリー時間が表示されると、「そんなに必要?」と思ったことはありませんか?ですが残念ながら、体を調節している脳は感覚より繊細です。実際に適切なトレーニングの減量ができているのは、ランナーの40%に満たないと発信しているコーチもいますレース直前に体調不良で走れなかったランナーが、時にレースでよい記録が出るのはそんな理由があるのだと思います。

普段の練習をこなせる普段の体調では、30kmの壁は超えられません。壁を超えるためには普段以上の体調が必要なのです。30km走や本番レースまで1週間を切ったら、5~10kmのジョグを2回程度走るだけにしてもいいんです。しっかり疲労を抜いて、30kmの壁に挑んでください。

糖質負荷(カーボローディング)

何度走っても30kmの壁を越えられないランナーのなかに、自分の30kmの壁の原因はエネルギーの枯渇と決めつけて、「もっともっと食べないと」と考えすぎのランナーがいます。ですが、これが逆に壁を高くしていることもあります。マラソンで「スタートについた時点で勝負は決まっている」という有名な言葉がありますが、「スタート前のトイレで結果がわかる」という言葉もあります。足の疲労は抜けていても、食べ過ぎて胃腸に負担をかけ過ぎてはいけません。脳腸相関という言葉もあるように、腸の疲れは脳の疲労を招くのです。特に胃腸の弱いランナーは食べすぎは厳禁です。

確かにレース3~4日前からの糖質負荷について、持久力の向上の効果が証明されています。ですが量を多く摂らなくても、いつも通りの食事を摂りつつ練習量を落とせば、自然に蓄えるエネルギー量は多くなります。なので摂取量は変えずに脂質・タンパク質から糖質主体に変えるだけでもよいのです。30kmの壁に向き合う1ヶ月前の30km走の前や、本場のレースの前は心に留めておいて下さい。

30kmの壁を超えるために~前編のまとめ

写真は写真ACより
写真は写真ACより

今回は30kmの壁を突破するために、一般的に言われているレース前の30km走の意義とその応用、そして多くのランナーと接していて気づいたことを中心に書きました。

・1ヶ月前は30km走にこだわる必要なく、もっと長くてOK。

・その時期は、自信があれば2~3週間前でもOK、1週前でも効果あるかも?

・そして壁が出現したら、減速してもよいからしっかり粘って!

・これを繰り返すとさらに効果アップするかも。

・30km走や本番レースの直前はしっかり休む!暴食をしない。

レース1ヶ月前からの調整法については、それぞれのやり方があると思います。ですがおすすめは、1ヶ月前にフルマラソンを走り、それ以降は普段の練習をして、1週間切ったらジョグだけ。これだけで壁は低くくなります。そしてこれを何度か繰り返すとさらに少しずつ低く、そして超えられる壁となってくるのです。

次回は【30kmの壁を超えるために】の後編、実はイーブンペースが最善ではない?後半失速を抑えるためのレース中の戦術(仮題)について書きます。

医師、ランナー、ランニングコーチ

41歳まで某大学病院の消化器肝臓内科で勤務、現在は都内の一般病院で内科医をしています。また、中学でランニングを始めて走歴は約40年、その経験を活かしてランニングステーションでコーチもしています。総合内科専門医・消化器病専門医・肝臓専門医・抗加齢医学会専門医、JMJA公認ランニングドクター他、資格は多数。フルマラソンの完走は68回でベストタイムは2時間50分31秒(2019湘南)。ランナーからよく聞かれることやランナーに伝えたい事を、科学的なエビデンスと経験をもとに記事を書いています。

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