ニューノーマルの第一人者に聞く、適者生存の技術【豊田圭一×倉重公太朗】第3回
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コロナショックによって、これまでの価値観が大きく変化するパラダイムシフトが起こっています。私たちを取り巻く環境はガラリと変わってしまい、「これまでの普通」とは違う
「新しい普通(ニューノーマル)」が始まりました。豊田さんの著書の『ニューノーマル時代の適者生存』には、逆境をものともせず、自ら変革するマインドセットについて書かれています。その内容について、対談で掘り下げました。
<ポイント>
・人事評価制度の自己評価を0点にした理由
・ポストコロナ時代に持つべき変革マインドセットとは?
・忍者は世界最強のビジネスパーソン
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■オンラインでの空気の作り方
倉重:テレワークになってより感じることですが、信頼できるチームでないと、生産性の高い仕事はできません。私が行っているのは誰かを解雇したりする仕事なので、上司がずっと監視していたり、張り付いて見たり、何かミスがあればすぐ指導するという関係性です。しかし、オンラインでそれはかなりやりづらくなっていました。というか、できません。もちろん24時間監視カメラをつけておけば技術的にはできますが、そんなことをして成果が出るのかという話になります。
豊田:例えば僕が講演に行って壇上で話をするとき、空気をつくったり、最初に笑いを取って場を温めたりしますよね。でも、ウェビナーやオンラインでは、その空気がつくりにくいと言われています。「どうしたら相手に伝わるか」を意識することが必要です。例えば僕は、オンラインでも、手の動きをすごく意識していますし、声も少し大きめにしておきます。
倉重:オンラインでも何かアイスブレイク的なことをするのでしょうか?
豊田:「元気ー?」っていう感じですかね。「こいつは本当に適当だな。大丈夫かな」と思わせちゃったほうがいいんです。
倉重:なんだこいつはと。
豊田:だって僕はすごい人だと思われなくたっていいので。怖い顔をして、「ただ今ご紹介にあずかりました豊田です」と言うのは少し嫌です(笑)。
倉重:それだと相当偉いことを言わなければいけませんよね。
豊田:そうです。だからにこやかにして、画面の中でジェスチャーを大きくしています。
倉重:あとは遅めのジェスチャーがいいみたいです。どうしても拾えるフレームに限界がありますから。うなずきもゆっくりするほうがいいようですね。
豊田:そういうことを意識すると行動が変わります。部下との対話もそうですが、やはり大前提として、相手のことをおもんばかって話しています。一番簡単な例としては、面談ではネガティブなことは一切言いません。
倉重:1on1が注意指導して責める場であってはいけないという話ですね。
豊田:まさにそれだと僕は思います。
倉重:もし上司の愛をコミュニケーションで日々伝えられていたら、多分短いチャットでも怖いとは思わないでしょうね。「短いチャットが怖い」というのは、普段からの関係性があまりよろしくないのだろうなと思います。
豊田:本当ですね。でも、自分が下の立場で、理不尽な上司がいるというシチュエーションになったときに、今言ったことができる自信はありません。
倉重:一人の労働者ができることは限られていますから。6月にパワハラ防止法が施行されているので、通報していただいて、会社側の弁護士のほうにお知らせいただければと思いいます。
豊田:僕はもう速攻で通報します。
倉重:絶対守りますから、言ってください。
豊田:僕は、最初にゼネコンに入ったとき、1年目に自分の人事考課を全部0で出したのです。今は会社によってやり方が違うのかもしれないけれども、まずは自分なりに自己採点をしました。それを課長に渡して、「いや、豊田、お前は8ではなくて5だぞ。ここはもう少し努力してほしいけど7でいいかな」等と話すのが普通です。ところが、僕は全部10段階の0で出したんです。
倉重:どうしてですか?
豊田:仕事をしていなかったからです。会社に行って、大した仕事がないから適当に終わらせて、ずっとたばこを吸っていたのです。それで、18時になったら一番に、「失礼します」と言って合コンに行っていました。よく遅刻もしていたので、もう本当になめ切っていたというか。
倉重:でも、自己評価だけはしっかりされていますね。
豊田:自己評価はしっかりしていますよね。もう全部できていなから0だと。それで出したんです。多分、世の中に対して牙をむくようなところがあったのだと思います。
倉重:でも、そこで他責傾向にならないのはいいですね。
豊田:あの時はもう全てにムカついていましたね。まさにジャックナイフでした。人事評価の紙を課長からもらった瞬間に全部0にして、「できました」と言って渡しました。
倉重:それは思春期ですね。豊田さんも今はしなやかな心を持てと言っているけれども、昔からそうだったわけではないのですね。
豊田:全然ないです。僕は後天的だったと思います。いい大学に行っていい会社に入ったという小さなプライドがあって、「なんでこんな仕事をさせられているんだろう」という気持ちもありました。僕が変わることができたのは、独立して、自分の力や会社の看板が通用しない状況が長く続いたおかげです。小さなプライドはガラガラガラと崩れ去りました。
倉重:どん底で、飲み会や友人の結婚式にも行けなかった時代が豊田さんにもあったんですよね。
豊田:そのときに、「自分はしょせんできない人だ」「できることをやろう」と決めて一生懸命やってきました。何か仕事をいただいたり、自分が何か貢献できたりすると「ありがたい」と思う気持ちは、後天的なものです。
倉重:当時は飲みに行くお金すらない暗黒時代ですが、それがあったから今の光り輝くスターの豊田さんがいるということですね。
豊田:あの時は闇の中でした。
倉重:スティーブ・ジョブズのConnecting the dotsだなと思います。
豊田:もう「こんなんじゃ死なない」「こんなんじゃ死なない」とブツブツ言いながら家に帰っていました。
倉重:本当ですか。それは結構キテますね。
■ポストコロナに必要な変革マインドセット
倉重:豊田さんのの本の核心は、「ニューノーマル時代にどうすればいいのか?」というところかと思います。その話を今日はしたいのですが。
豊田:それは一言で言えます。簡単に言うと、思考を止めないこと。行動を止めないこと、それに尽きると思っています。正解を探すのではなくて、常に「どうしたらいいんだろう」と考えて行動をし続ける。「もう正解がない」という大前提に立った上で考え続けるしかありません。
倉重:いいですね。五つの要素についても少しお話ししたいのですが。一つ目が飽くなき探求心。二つ目が折れない心。三つ目がやる気ドライブ。四つ目が適応力と創造性。五つ目が周囲を巻き込む人間関係力でした。
豊田:もともとコロナは関係なしに、早稲田大学トランスナショナルHRM研究所と組んで、グローバルマインドセットのアセスメントを作っていたのです。ですが、グローバルに興味のない人には「関係がない」と思われていました。
倉重:なるほど。
豊田:そこで、今回は「逆境でも成果を出す人が持っているマインドセット」について研究を始めていました。コロナという逆境が訪れた今、「ポストコロナ時代に必要なマインドセット」とうたってもいいと思います。そして、名付けたのがトランスフォーメーション・マインドセット、変革マインドセットです。どのような状況もしなやかに受け止めながら適応していく。それに合わせて自分たちを変えることができる。そういうマインドセットの要素をいろいろなビジネススクールの学術論文を読み解いて作りました。
以前研究したグローバルマインドセットは少し日本人寄りだったのですが、トランスフォーメーション・マインドセットは、全世界の人たちに共通して必要だと思ったので、最初から多国籍のチームで進めました。早稲田の研究所にいるエルサルバドル人、パキスタン人、中国人、日本人と一緒に、そのほかにもいろいろな外国人に協力してもらいました。
倉重:すごくダイバーシティですね。
豊田:多国籍のチームなので、全部英語で打ち合わせをして、論文を読み解きました。IEというスペインの大学院のアカデミックディレクターとも話をしました。「なぜ今トランスフォーメーションなのか?」「トランスフォームするためには何が必要になるか?」ということを話して、それを全部研究に活かしました。
そこで出てきたのが五つの要素です。一つが飽くなき探求心。これは、常に好奇心を持って学び続けること。本を読んだり、いろいろな人に会ったりして、Connecting the dotsのドットをたくさん増やしている人です。
倉重:ドットを打っているときは気がつかないというのがポイントで、今やっていることがいつか役立つ、というのは実感が湧きにくいんですよね。
豊田:そうです、後になって気がつきます。本を読んだり、人に会ったり、考えて、調べることを続けるのがその要素の一つです。
倉重:ここはとにかく前向きにやってみろということですよね。
豊田:二つ目は折れない心です。英語で言ったらレジリエンス。レジリエンスは最近人材開発でも聞く言葉ですが、日本語だと折れない心という言い方をします。
倉重:それだと鋼鉄のような、少し固いイメージになってしまいますよね。
豊田:そうですね。僕はマッチョな強さではなく、柳のようなしなやかをイメージしました。基本的には何が起こるか分からない世界に突入しています。元々そうだけれども、よりそれが顕著になりました。変わることが大前提になっていれば、少々のことでは折れないかもしれません。
倉重:これは忍者マインドも関係ありますか?
豊田:忍者は世界最強のビジネスパーソンだと僕は思っています。それはもうレジリエンスはかなりあります。いつどこで敵に遭遇するか、いつ主君が殺されるか、いつ敵に囲まれるか分からないという状況は、レジリエンスの塊ではないでしょうか。
倉重:常に死と隣り合わせで、主君もいろいろと代えて生き抜いているわけですよね。
豊田:なのに名前を残さないというのはもうすごい話だなと思います。忍者マインドは大切だと思って、一時期忍者の本を読み漁りました。
倉重:武士道も関係ありますか。
豊田:禅と密接に結び付いているので、武士道はすごく関係あります。あした生きているかどうか分からないから、「今ここ」に集中します。武士道とぶれない心。そして、相手と対峙(たいじ)するのは、まさに、今この瞬間を生きるということです。
倉重:武士道は正にマインドフルネスですね。あと、やる気ドライブの話もお願いいたします。
豊田:これは要素分解すると、パッションやモチベーションです。人を動かすのは理屈ではありません。パッションを持っている人、情熱のある人が変革していきます。やらされ仕事ではなくて自らやりたいという気持ちを持っている人が変えられるのです。
倉重:誰かを責めるのではなく、「今この会社を変えるためにはどうすればいいだろう」と一生懸命パッションを持って動いている人が多い会社は強いですよね。
豊田:それがある人は強いでしょうね。
倉重:そのためには、やはり会社も働く意味や「今この会社でやろうとしていることは何なのか」という意味づけを語れる人でなければいけないですし、人事としてもそうありたいですね。
豊田:本当にそうだと思います。ティール組織もそうですが、リーダーがやるべきなのは、ポジティブな空気をつくることと、方向を示すことです。それに共感して、「このチームでやってみたい」というやる気に火をつけるのは重要な要素だと思います。
(つづく)
対談協力:豊田圭一(とよだ けいいち)
1969年埼玉県生まれ。幼少時の5年間をアルゼンチンで過ごす。92年、上智大学経済学部を卒業後、清水建設に入社。海外事業部での約3年間の勤務を経て、留学コンサルティング事業で起業。約17年間、留学コンサルタントとして留学・海外インターンシップ事業に従事する他、SNS開発事業や国際通信事業でも起業。2011年にスパイスアップ・ジャパンを立ち上げ、主にアジア新興国で日系企業向けのグローバル人材育成(海外研修)を行なっている。その他、グループ会社を通じて、7ヶ国(インド、シンガポール、ベトナム、カンボジア、スリランカ、タイ、スペイン)でも様々な事業を運営。18年、スペインの大学院 IEで世界最先端と呼ばれる “リーダーシップ” のエグゼクティブ修士号を取得した。最新作「人生を変える単純なスキル」、「ニューノーマル時代の適者生存」、「会社がつぶれても生き残る!アフターコロナ33の仕事術」など著作多数。