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ちゃぶ台返しの旧統一教会の会見にあ然 憤る被害者家族たち 被害に向き合わない姿勢に社会との溝は広がる

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

11月7日、同日に行われた田中富広会長による旧統一教会の会見を受けて、立憲民主党を中心とする国対ヒアリングが行われました。

被害者家族の中野容子さん(仮名)は「記者会見を見ていて、久しぶりに深いところから怒りが沸き上がってくるのを感じました」と話し、橋田達夫さんも「自分たちのことだけしか考えてないという会見で、本当に腹立たしい」と憤りの気持ちを吐露します。

会見で田中会長は「今までつらい思いをされてこられた皆様方に率直にお詫びしなければならないと考えております」として「私たちの不足さゆえに心を痛めておられる皆様、そしてつらい思いをしてこられた2世の皆様、国民の皆様方に、改めて心からお詫びいたします」と頭を下げました。さらに「司法での結論が下されるまで、60億から最高100億円の供託金を準備させていただく」との話もします。

これを見た現役信者のなかに、もし田中会長の会見が良かったと思う人がいれば、被害者家族の憤りからもわかるように、社会の人たちとの距離がさらに乖離していくことにもなりかねません。

見せかけだけの謝罪は、被害者にとっては到底納得できるものではない

中野容子さんの母親は信者時代に1億円以上の献金をして、旧統一教会に対して返金を求めて裁判を起こしていますが、母親が教団に「損害賠償請求など、裁判上・裁判外を含め、一切行わない」の念書を書かされたため、 1審、2審で敗訴して、現在、最高裁に上告しています。

中野さんは「(お詫びについて)解散命令請求や財産保全(の立法)を回避しようという、弥縫策(びほうさく:一時しのぎの行動)に思われます。教団は、解散命令請求については徹底的に争う姿勢を示していますから、それとは相容れない態度です。法的な責任を認めない謝罪には意味はありません」と話して、今回の会見は、2009年に教団が出したコンプライアンス(法令遵守)宣言を思い出させるともいいます。

「実際には、2009年以降も霊感商法や高額献金は続けられました。私の母も、同年以降にも被害を受けています。悪質な献金集めは継続して多くの被害が発生し、多くの家庭が崩壊しました。私の裁判は今も続いていますが、統一教会からは謝罪は一度としてありません。統一教会の(現状を)回避したい見せかけだけの謝罪は、被害者にとっては到底納得できるものではありません。2009年のコンプライアンス宣言のような、まやかしに目を奪われないでいただきたい」と訴えます。

彼らの言うことを僕は全く信用しません。

橋田達夫さんは、元妻が信者で、そのもとで育った長男が自殺するという辛い経験をしており、現在、全国統一教会被害対策弁護団の集団交渉にも参加して、家庭が破壊されたことなどの慰謝料として2000万円、財産の損害として2000万円を請求しています。

橋田さんは「会見の目的は、解散命令に行かないように、自分たちの財産をこれ以上減らさないことを必死にやってるように見えました」といいます。

そして教団が「解散命令の裁判が確定するまでは当法人の資金を海外に移転することは考えておりません」といったことに関して、信じられないと話します。

「(昨年の秋の会見で)橋田家に対してはきちんと(教団は)調査、対応をするといっていましたが、向こうからは何も接触はないです。僕は何回も高知教会の人にお会いしたいと連絡を入れてました。(1年以上にわたって)留守番電話に『連絡をください』と、ずっとやってきましたが、連絡はありません。彼らのいうことを僕は全く信用しません。身をもって実感しています」

教団側は言葉だけは綺麗に並べるけれども、そのことを実行せず、何度も裏切られてきた被害者家族にとっては、会見での言葉は表面だけを取り繕った信頼に値しないものにみえています。人々に被害を与えてきたことへの信頼回復は容易なことではなく、自らの行動をもって、しっかりと示す必要があります。

被害者に真摯に向き合う姿勢が見えない、非常に残念な会見との見解

全国統一教会被害対策弁護団の阿部克臣弁護士も「教団の責任を認めて、被害者に対して真摯に向き合う姿勢が見えない、非常に残念な会見だった」としています。教団の提案する供託金については「ピントがずれている対応だと思います。本当に被害者のことを思うのであれば、まずは被害者にきちんと対応すべきです」と話します。

現在、全国統一教会被害対策弁護団は第5次までに124 名の被害者が集団交渉(総額約39 億5600万円)の申し入れをしていますが、いまだに進んでいません。

「会見では、あたかも自分たちは誠実に対応して、弁護団が誠実に対応していないような言い方をしていましたが、事実と異なっています。弁護団は、今年の2月の最初の集団交渉の申し入れから一貫して統一教会側に『まず会って話し合いましょう』と繰り返し申し入れてきました。それに対して教団側は『面談というものは、あくまで世間とかマスコミ向けのパフォーマンスにしかならない』ということで拒否したり、『過去の多数の裁判例については本件とは全く無関係である。全国のどこにも被害なんて見当たらない』という回答を平気で書いてきています」(阿部弁護士)

教団は会見で「当法人の対応に対して不誠実だと訴えていらっしゃいますが、既に調査が完了した方々99人分に関しては、5回に分けて回答をお返ししております」と述べる点についても「その回答は非常に空疎な内容で、例えば物品の被害(教団の商品を買わされた被害)については『当法人では物品の販売を行っていないので、直接販売会社にお問い合わせください』と回答するわけです。そういう対応をしながら、被害者に寄り添うような形を装って、供託の制度を国に提案するというのは、方向性がズレていると思います。まず被害者を束ねている弁護団と、どのような形で過去の責任を取るのかを話し合うのが筋である」といいます。

供託金に関しての文化庁の見解

供託金について、立憲民主党の山井和則議員から「統一教会から要望がありましたが、政府として対応は可能なのでしょうか」と文化庁に質問をしました。

文化庁の宗務課長は「直接申し入れがあったわけでもございませんし、我々がそれを慮(おもんぱか)って制度を作ってあげるという発想は今のところはございません」さらに「もし目的が被害者の安心感を得るためだったら、何ができるかを現行制度でお考えいただくのがまず先決なんじゃないかな、というのが感想でございます」と否定的に答えます。

その後、政府として供託の提案を拒否するとの報道も出てきています。

当然だと思います。被害を自分たちのところでは解決せず「お金を供託するから、やって下さい」と、責任を国に押し付ける状況では、本当の意味での被害回復にはなりません。これを提案する意図は、財産保全の法律を作ってほしくないという思惑ゆえに、提案してきた面は強いと考えています。

ちゃぶ台をひっくりかえされた気持ち

筆者自身も会見を聞きながら、ちゃぶ台をひっくりかえされた思いになりました。

冒頭での「つらい思いをしてこられた2世の皆さま、国民の皆さま方にお詫びします」の会長の言葉は、これまでにないもので、やっと教団が攻撃的な姿勢を改めての謝罪かと思い、涙を浮かべそうになりながら話に聞き入りましたが、その後の会見内容や、記者からの質問への答えなど通じて、一瞬でもそう思った自分を恥じました。

記者からの「お詫びは、被害者への謝罪という認識でしょうか」の問いに対して「謝罪という言葉は、被害者が特定されて初めて謝罪という言葉が使われるのかと思いますが(中略)明確にそこで謝罪という言葉には距離を置かなければいけないと考えております」と答えて、謝罪ではなく「お詫び」の会見だというのです。

文化庁からの解散命令請求の事由になるほどの甚大な被害に対して「教団組織が引き起こしたものではないというご認識でしょうか」との質問に対しても「基本はそういう認識です」と答えています。

すでに集団交渉を行う弁護団への旧統一教会側からの回答には「当法人による『違法行為』や『組織的不法行為』などどこにも見当たりません」というものがありますが、結局のところ、これまでと同じ組織的な加害行為については認めないという、従来の主張を繰り返していることになります。

組織的に加害行為を行ったことへの認識がない形での冒頭のお詫びだったことを知り、ちゃぶ台をひっくりかえされた気持ちになったわけです。

かえって、現役信者らを追いやることになりかねない

社会の人たちは過去の教団の行動と合わせてみます。どんなに言葉をすばらしく整えていても、薄っぺらなお詫びの言葉であったことは容易に見抜いていると思います。

こうした言動を続けていては、教団への信頼回復は難しいといわざるをえません。会見のなかで、信者たちの今、置かれている厳しい現状についての話もありました。しかし、それがなぜ起こっているのか。本気でそれを改善しようとするならば、何をすべきなのか。そのことを真剣に考えていない首を傾げたくなるような会見内容でした。

被害者への謝罪、組織的な加害行為への認識があってこそ、真の信頼回復への一歩が踏み出せるわけです。それをしていない会見は、逆に火に油を注ぎ、教義を信奉して活動し続けようとする信者たちをさらに窮地に陥れてしまうことになりかねません。しっかりと被害を認めて、被害者に真摯に向き合う姿勢こそが、教団が真に改革に向かう一歩となります。しかしながら、その道のりはいまだみえていません。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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