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「プラットフォームは新聞か通信事業者か」米最高裁、憲法判断は保留、2州法巡り差し戻し判決

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

「プラットフォームは新聞か通信事業者か」。米最高裁は、その憲法判断を保留した――。

米最高裁は7月1日、ソーシャルメディアなどのプラットフォームによる「コンテンツ管理(モデレーション)」を規制するフロリダ、テキサスの州法を巡る訴訟で、破棄差し戻しの判決を下した。

控訴審では、フロリダ州法については差し止め、テキサス州法については差し止め請求を退け、判断が分かれていた。最高裁は、いずれも州法の適用範囲の全体についての検討が不十分だとした。

焦点となったのは、偽情報・誤情報対策としてのプラットフォームの「コンテンツ管理(モデレーション)」と「表現の自由」を保障する米国憲法修正第1条との関係だ。

プラットフォーム側は、「コンテンツ管理は、それ自体がプラットフォームの表現の自由」だとし、共和党が主導する両州は「コンテンツ管理は保守派言論に対する検閲」だとして反発を強めてきた。

最高裁はこの点について踏み込まなかったものの、多数派意見では、特にテキサス州法についての控訴審の判断を「重大な誤解」だとし、「コンテンツ管理」規制を求めるテキサス州の主張は「表現の自由の抑圧」だとした。

2021年1月の連邦議会議事堂乱入事件でトランプ前大統領のソーシャルメディアアカウントが相次いで停止されたことを一つのきっかけとして、保守派が「コンテンツ管理」を「検閲」だとして反発。対抗する動きを相次いで見せている。

最高裁はこの前週、共和党が主導するルイジアナ、ミズーリ両州の司法長官らが、「コンテンツ管理」を巡って連邦政府職員がプラットフォームに接触することの禁止を求めた訴訟を、「原告適格なし」との判断で退けていた。

●「表現の自由への重大な誤解」

(業界団体)ネットチョイスが(2州法の)違憲(フェイシャルチャレンジ)を申し立てているため、要するに、これら2つの訴訟について、下級審ではまだ検討すべきことがたくさんある。

米最高裁の7月1日の判決で、多数派の法廷意見を書いたリベラル派のケーガン判事は、そう述べている

この日の破棄差し戻しの判決そのものには、9人の判事全員が同意。ケーガン判事の法廷意見にはロバーツ(保守派)、ソトマイヨール(リベラル派)、カバノー(保守派)、バレット(保守派)の各判事が全面同意、ジャクソン判事(リベラル派)が一部同意。保守派のアリート判事が判決にのみ同意し、多数派意見には異論を述べ、これにトーマス、ゴーサッチ両判事(いずれも保守派)が同意した。

注目が集まったのは、偽・誤情報やヘイトスピーチなどの有害コンテンツへのプラットフォームによる対策「コンテンツ管理」と憲法が保障する「表現の自由」との関係だ。

その点について、多数派意見の中で、ケーガン判事はこう述べている。

憲法修正第1条は、他者の言論をコンパイル(集約)し、キュレーション(監修)して独自の表現物にすることに従事している組織が、排除したいメッセージを受け入れるよう指示された場合に、保護を提供する。

そして、こう続ける。

第5巡回控訴区裁判所は、主要なプラットフォームがホームフィードのために行うコンテンツ選択は「言論ではない」ので、州は憲法修正第1条の拘束を受けずに規制することができると判示した。(中略)しかしその結論は、憲法修正第1条の判例と原則に対する重大な誤解の上に成り立っている。

そして、こう指摘した。

言論市場のバランスを調整するために、政府が言論を禁止することはできない。

●SNSは「新聞」か「通信事業者」か

議論の焦点は、ソーシャルメディアによる有害コンテンツ対策だ。

有害コンテンツの表示制限やその発信ユーザーのアカウントを停止などの対処を行う際の、ソーシャルメディアの権限や責任と、憲法が保障する「表現の自由」との関係を、どう位置付けるかが争われている。そのキーワードは、ソーシャルメディアは「新聞」か「通信事業者」か、だ。

「新聞」には編集権があり、その内容に対して責任を負う一方、「通信事業者」は通信内容に介入できず、その内容に責任も負わない。ソーシャルメディアの権限と責任はどちらか。

※参照:SNSは「新聞」か「電話」か、米最高裁の4時間の議論に広がる「地雷」とは?(03/04/2024 新聞紙学的

裁判のきっかけとされるのは、2021年1月6日の米連邦議会議事堂乱入事件だ。騒動の中心にいた現職(当時)のトランプ大統領に対して、ツイッター(現X)、フェイスブック(現メタ)、ユーチューブなどのソーシャルメディアが相次いでアカウント停止措置を行った(後にいずれも復活)。

これらの動きがソーシャルメディアによる保守派の言論の抑圧と捉えられた。

フロリダでは同年5月に州法が成立。年間収益が1億ドル超か世界のユーザーが1億人以上の大手ソーシャルメディアに対して、選挙候補者のアカウント停止を最大1日25万ドルの罰金付きで禁止し、「検閲、アカウント停止、非表示化(シャドーバン)」の基準の公表などを義務付けた。

テキサスでは同年9月に州法が成立。米国内に5,000万人を超すユーザーがいる大手ソーシャルメディアに対して「ユーザーの視点をもとにした検閲」などを禁じた。

これに対してフェイスブック、ツイッター、グーグルなどが加盟する業界団体「ネットチョイス」と「コンピューター&コミュニケーション産業協会(CCIA)」は、2つの州法が「表現の自由」を保障した憲法修正1条に違反するとして、仮差し止めを申し立てた。

地裁ではフロリダ(同年6月)、テキサス(同年12月)ともに仮差し止めを命じた。

さらにフロリダ州法については、第11巡回区控訴裁判所が2022年5月に「ソーシャルメディアは通信事業者ではない」と地裁判断を支持。だがテキサス州法については、第5巡回区控訴裁判所は同年9月、「プラットフォームは新聞ではない。その検閲は言論ではない」として差し止めを退け、フロリダ州法と判断が分かれた。

最高裁は2024年2月末、フロリダとテキサスの州法が、この訴訟を巡る口頭弁論を開いた。

この中では、特にフロリダ州法が、サービス類型に限定がなく、ウーバーなどの幅広いウェブサービスに適用される可能性が指摘された。

今回の破棄差し戻し判決は、下級審の判断がフェイスブックやユーチューブなどの特定のプラットフォームに限定され、その他のプラットフォームにおける州法適用の可否が十分に検討されていないことを理由として挙げている。

アリート判事の意見では、破棄差し戻しという判決にのみ同意。ケーガン判事の多数派意見については、フェイスブック、ユーチューブなどのソーシャルメディアの「コンテンツ管理」を、「新聞」のようなメディアの編集権とのアナロジーで語ることに、懐疑的な見方を示した。

●連邦政府のプラットフォームへの接触

今回の訴訟とは別に、最高裁は6月23日、ルイジアナ、ミズーリ両州司法長官らが、連邦政府職員が「コンテンツ管理」を巡ってプラットフォームに接触することが「検閲」だとして、禁止を求めた訴訟について、却下する判断をしている。

判決は、原告らが「適格なし」と判断し、この時も「コンテンツ管理」と「表現の自由」に関わる判断には踏み込まなかった。

賛否は6対3で、やはり保守派のアリート、トーマス、ゴーサッチの3判事が反対に回っている。

これらは、プラットフォームの「コンテンツ管理」への、保守派による一連の反発の流れの中にある。

共和党が多数派を握る下院では、偽・誤情報研究に対する追及も続く。

※参照:米大学「偽情報」研究の主要拠点に「閉鎖」報道、相次ぐ圧力受け(06/17/2024 新聞紙学的

11月の米大統領選に向けて、政治のテーマと化した「コンテンツ管理」問題の火種は残る。

(※2024年7月2日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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