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メキシコの名将もベタ褒め。「井上尚弥に勝てるのは唯一、井上自身だ」

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
ファイナルの相手ノニト・ドネアの祝福を受ける井上(写真:WBSS)

KAIBUTSUが浸透中

 ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)バンタム級準決勝で強敵エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)をわずか2ラウンドで粉砕したWBA&IBFバンタム級統一チャンピオン井上尚弥(大橋)への称賛の嵐は海外でも止まらない。「マイク・タイソンの再来」、「(ミドル級の帝王だった)ゲンナジー・ゴロフキンのコンパクト版」、「パウンド・フォー・パウンド最強ワシル・ロマチェンコと遜色ない。あるいは超えた?」などなど。井上は有力メディアも個人ファンもすっかり虜にしている。

 ロドリゲス戦が行われた英国スコットランドのファンからは同地が生んだ元ライト級名王者でガッツ石松とも戦ったケン・ブキャナン以来のグレートな選手がリングに上がった――という最高級の賛辞も寄せられている。

 ファンといえば、ニックネームのMonsterをKaibutsuと書き込むファンも今回の試合前後から目立ってきた。英語ではなく、日本語表記がそのまま受け入れられているのだ。いよいよ井上ブランドが確立されてきた印象。このまま順調にキャリアを進行させれば、ボクシングを超えた存在、ジャパニーズ・スポーツ・カルチャーの一翼を背負って立つ地位に昇華するかもしれない。

 ボクシングそのものの魅力では全盛期のタイソンを彷彿させる暴風雨のような破壊力、“ハイテク”ロマチェンコの精密さや機動性がミックスされた複合体が井上――と表現できるか。一方で井上は唯一無二の男と称されるべきだと主張する人物もいる。

 古くは辰吉丈一郎と対戦したダニエル・サラゴサ、渡辺二郎から王座を奪取したヒルベルト・ローマンを擁して来日。その後マニー・パッキアオと4度対戦し、最後見事なKO勝ちを飾ったフアン・マヌエル・マルケスを英雄に育てたマネジャー兼トレーナー。そして今回、亀田和毅の挑戦を受けるレイ・バルガス(WBCスーパーバンタム級王者)の師匠でもあるイグナシオ“ナチョ”ベリスタイン氏である。8年前に国際ボクシング名誉の殿堂入りしたメキシコの名将を電話で直撃してみた。

スペシャルな天才

――井上の今回のセンセーショナルなKO勝ちをどう見ましたか?

「彼は天才だが、スペシャルな天才だ。とても完璧で、スピード、パンチ力に目を見張った」

――井上に勝つ手段はあるのでしょうか?

「今の段階ではない、というしかないね」

――どんなタイプのボクサーが井上に勝てるチャンスがあるでしょうか?

「もしいるとすれば、もう一人の天才が対立コーナーに登場しなければならない。つまり今、彼に勝てるのは井上自身しかいないだろう」

――それだけ強いと……。

「現時点では比較する者がいない。今はただ井上の強さを鑑賞することに努めるのが賢明ではなかろうか」

――メキシコの伝説のバンタム級王者たちと地位を競合できますか?

「元チャンピオンの中でもトップを争うルーベン・オリバレスやカルロス・サラテと比肩できる力を今でも持っていると思う」

――現役のメキシコ人ルイス・ネリはどうでしょう。

「彼は日本で永久にリングに上がれないから井上と対戦するチャンスは訪れないだろう」

――それでも今後どこかで対戦することになれば……。

「うーん、戦えばやっぱり井上が問題なく勝つと思う」

――過去の選手でも現役でも井上に勝てる可能性があるボクサーを挙げることはできませんか?

「繰り返すけど、現時点で井上と他のどんな選手を比較しても得策ではないというか、ナンセンスだと思うね。我々の前に現在進行形で最高の選手がいるという喜びを共通して持つべきだ。井上というボクサーが同胞だというだけで、日本のファンは胸を張っていい。彼らは世界中で一番、幸せを享受しているよ」

亀田和毅と対戦するレイ・バルガス(右)の師匠のナチョ・ベリスタイン氏(写真:BoxingScene.com)
亀田和毅と対戦するレイ・バルガス(右)の師匠のナチョ・ベリスタイン氏(写真:BoxingScene.com)

日本のファンは幸せだ

 最後は名将から嫉妬にも似た発言が聞かれた。井上がジェイミー・マクドネル、フアン・カルロス・パヤノを初回で撃沈した頃から時空を超えてバンタム級の過去がよみがえった。「黄金のバンタム」と畏怖されたエデル・ジョフレ(ブラジル)、ジョフレに2連勝したファイティング原田。そしてKO勝ちの山を築いたオリバレスとサラテ。ほかにも同級の名選手、強豪は枚挙に暇がない。

 メキシコ人という血からもベリスタイン氏はバンタム級にこだわりを持つ。軽量級では前後の階級の中で「118ポンド(バンタム級)のチャンピオンの価値は違う。別格だ」と明言。その背景から井上を絶賛する同氏の発言には重みがにじみ出る。

 「井上のおかげで日本のファンは幸福だ」。至極の時間が今現在にとどまらず、まだまだ続編がたっぷり残されているところに驚嘆せずにはいられない。井上を追いかける我々の夢は、いったいどこまで到達するのだろう。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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