クラフトワークという名前の充電器を作った企業が本家クラフトワークに訴えられる
ドイツのイーツェレロン(eZelleron)という会社がライターのガス等で動作する燃料電池ベースのモバイル充電器をKraftwerkという商品名でキックスターターに出品(当該サイト(いずれ名称変更になるかもしれません))したところ、著名テクノユニットKraftwerkのリーダーであるラルフ・ヒュッター(Ralph Hutter)氏に訴えられるという事件がありました(参考記事(英文))
ラルフ・ヒュッター氏本人が米国で所有するクラフトワーク関連商標は3件ありますが、そのうちの1件がこちらです。なお、USPTOのサイトもわが国よりはましであるとは言え、一部レガシーが残っており、商標検索データベースであるTESSには固定リンクが(たぶん)張れません。しかし、審査状況データベースであるTSDRには固定リンクが張れますのでこちらを使いました。
ついでに、PACERで裁判情報を検索してみると、さすがに、ラルフ・ヒュッター氏を原告とする裁判は1件しかなくすぐみつかりました。せっかくなので、訴状(COMPLAINT)をアップしておきます。Kraftwerkが世界的に著明な音楽ユニットの名称であることを主張した上で、商標権の侵害、不正競争、商標の希釈化を根拠に差し止め等を請求しています。一般的な内容ですが、商標権侵害については、おそらくKraftwerk側にモバイル充電器での使用実績がないこと(米国では日本等と異なり商標登録があっても商標の使用実績がないと商標権が発生しません)から「音楽プレーヤーの充電にも使用されることから音楽家のKraftwerkとの誤認混同を招く」とちょっと苦しい主張になっています。
これに対して、この商品は一種の発電機なのでKraftwerk(ドイツ語で「発電所」)という名称を付けるのは当たり前(商標権は及ばない)という主張もあるようですが、”power plant”という名称ならまだしも、米国において一般消費者がKraftwerkと聞いて発電所を想起することは想定しがたい(ドイツのテクノユニットを想起する人の方がはるかに多い)ので、ちょっと厳しいのではないかと思われます。
上記のとおり、Kraftwerk側にも苦しい点はあるのですが、イーツェレロン側としては、キックスターターで勝負を賭けている時に、裁判での争いに費用と時間と経営者の体力を使うのはどう考えても得策ではないので、できるだけ良い条件で(できれば無償で)和解して、別の名称を付けてやり直しということになるのではないかと思います。
製品としては(安全性面での課題はあるでしょうが)魅力的なので、別の名前で成功することを期待しています。