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歩行者へのあおり運転。子どもの見守りや立哨活動への理解と快適な交通社会。

大谷亮心理学博士・日本交通心理学会/主幹総合交通心理士
(写真:アフロ)

 平成24年以降、登下校中の児童が被害に遭う交通事故が立て続けに発生したため、国は全国の通学路の緊急合同点検を実施しました。その結果、平成29年度末日時点で、対策必要箇所が74,483件抽出され、その内の72,238件は何らかの対策が講じられました(文部科学省・国土交通省・警察庁(2019)「通学路の交通安全の確保に向けた取組状況」より)。

 この対策の中には、通学路や生活道路の制限速度を30km/hにするゾーン30や路肩のカラー舗装などのハード面の対策とともに、見守りや立哨活動などのソフト面の対策も含まれます。

◆子どもの見守りや立哨活動

子どもの見守りや立哨活動は、交通事故による死者数が1万人を超えた昭和30年代以降の第一次交通戦争の折に、学童擁護員(通称、緑のおばさん)が登場して以来、各所で長年行われています。現在では、有償もしくは無償で活動に参加する人や、地方公共団体などからの依頼を受けて実施する人、さらには、児童の保護者など、幅広い人たちの手によって見守りや立哨活動が遂行されています。また、日本では、防犯目的で構成されるスクールガードリーダーや、リーダーの助言に基づき活動を行うスクールガードと呼ばれるボランティアが、児童の交通安全確保の任務を担う場合もあります。

 日本と同様の取り組みは、諸外国でも行われており、クロッシング・ガードロリポップマン/レディと呼ばれる人々が、ガイドラインにもとづいて、子どもの交通安全確保と、適切な道路の横断方法に関する日常指導を行っています。

出典)National Center for Safe Routes to School:「Adult School Crossing Guard Guidelines」

図 クロッシング・ガードによる安全確保

◆歩行者へのあおり運転、立哨と見守り活動の苦悩

 先だって、子どもが登校する際の見守りや立哨活動時に、「さっさと渡らせろ」といった罵声を浴びせられるといった新聞の記事を目にしました(「朝日新聞」2021年1月22日朝刊 社説 声 「登校指導中 罵声に身がすくむ」)。このような状況がどの程度発生しているか、今後多くのデータを集めなければなりませんが、日常、立哨指導をされているボランティアの方にインタビューを行った際にも、子どもが横断している際に平気で進入するドライバーや、横断待ちしている車の後ろから追い抜くドライバーが存在するといった意見が聴かれました。

 平成29年に東名高速道路で発生した事故をきっかけに、あおり運転が社会問題となり、令和2年6月10日に妨害運転(あおり運転)に対する罰則が創設されました。あおり運転はドライバー同士のことのように思われがちですが、上記の例は歩行者に対するあおり運転と考えることもできます。ドライバーだけではなく、歩行者や自転車といった他の交通参加者に対しても、通行を妨害するような行為などは許されるものではありません。また、立哨活動などが実施される場所は横断歩道が一般的ですので、歩行者優先が基本になります。

◆快適な交通社会の実現をめざして

 子どもの安全確保とともに、ドライバーの皆さん、見守りや立哨をされている方が道路上で快適に過ごせるように、お互いがお互いのために実践できるいくつかの対策を考える必要があります。

◯見守りや立哨活動を行う人と学校でできること

 日常の見守りや立哨活動を通して、ドライバーからの苦情や危険な状況に遭遇することがあれば、その状況を踏まえ、通学路や通学時間の見直しを行うことが対策の一つとして求められます。

 また、通学路や通学時間帯の変更が不可能な場合には、見守りや立哨活動を行う人の数を増やして、車を止める人、ドライバーにお礼を言う人、さらには、子どもの列をコントロールする人といったように役割を分担し、見守りや立哨活動を遂行することをおすすめします。ドライバーの心理を考えると、延々と続く子どもの列を見ることで、長時間待たされることへの不満が生じますので、子どもの列を一定期間で区切り、ドライバーに先に道を譲るなどの配慮ができるように、組織的な見守りや立哨活動ができるようにするとよいでしょう。さらに、道を譲ってもらったドライバ―には、必ずお礼をいうなどの心がけも忘れてはいけません。

交通の方法に関する教則には、「車が止まってくれたときは、ほかの車の動きに注意し、安全を確認してから横断を始めましよう。この場合、道路を斜めに横断したり走ったりしてはいけません。」と記されています。子どもが、道路上を走るような状況を生み出さないように、見守りおよび立哨活動を実施することが安全上重要になります。

◯ドライバー皆さんができること

 「A man drives as he lives(人はその生き方のように運転する)」という言葉があります。荒れた人生を送っている人は運転も荒々しくなるといったように、その人の生き方が運転にあらわれることを意味します。日々生活していると、時間に追われることは多々ありますが、ドライバーの皆さんは、考え方を少し変えてみて、意識的に余裕をもって行動してはいかがでしょうか。例えば、通学路を利用する場合には、余裕をもって出かけることや、通勤のルートを変更するなどの計画的な移動ができるように心がけることで、逆に、良い生活のリズムができるかもしれません。

 怒りが生じるような状況に陥らないように、考え方や環境を変えるといったアンガーマネージメントがありますが、さらに先に進んで、子どもに憧れられるカッコいいスマートな運転ができるように行動したいものです。

 交通社会と呼ばれるように道路は多くの人が介在する場ですので、他者への配慮をお互いが忘れずに行動すること、これが快適な交通社会の実現につながります。

心理学博士・日本交通心理学会/主幹総合交通心理士

心理学の観点から、交通事故防止に関する研究に従事。特に、交通社会における子どもの発達や、交通参加者(ドライバーや歩行者など)に対する安全教育プログラムの開発と評価に関する研究が専門。最近では、道路上の保護者の監視や見守りを対象にした研究に勤しんでいる。共著に「子どものための交通安全教育入門:心理学からのアプローチ」等がある。小さい頃からの愛読書は、「星の王子様」。

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