Nintendo Switch後継機種の品薄は考えにくい?株主総会での質疑応答を読み解く
任天堂は今月初め、第84回定時株主総会の質疑応答(要旨)を公開しました。
一般的に株主総会といえば無難なやり取りが交わされがちですが、任天堂の場合は質疑応答をするために株主になったゲーマーが少なくないためか、中身の詰まったものになり、毎回のように注目を集めています
今回もタイムリーな話題がいくつか飛び出していますが、任天堂の回答で興味深いのは「正面から答えつつ、具体的な情報を出さない」という傾向があること。決してはぐらかさないが、細心の注意を払っているようです。
どの会社であれ企業秘密があるのは当然ですが、ことゲーム関連企業の場合は「サプライズ」が販売戦略に大きなウェイトを占めている。小売店に出荷もない、在庫を持たないデジタルゲーム(ダウンロード販売)なら、Nintendo Directなどネット番組での発表直後に発売もあるほど。
が、実体あるゲームハードであれば、部品を調達したり組み立てて完成品を作るサプライチェーンに「モノ」が動き回るため、完全には隠しきれない。勝手に情報をリークされる前に自ら情報を小出しにして、ある程度は話題性を制御しよう。そんな思惑が、「Nintendo Switch後継機種に関するアナウンスを今期中(筆者注:2025年3月までに)に出す」という不思議な発表に繋がったのでしょう。
ともあれ、それぞれの質疑応答を掘り下げていきましょう。
スイッチ後継機種は転売屋のエジキにはなりにくそう
まず、公開直後にネットでもバズっていたのが、Nintendo Switch後継機種の転売対策です。
古川社長いわく「お客様の需要を満たせる数をしっかりと生産することが最重要」「各地域の事情を踏まえて、法令の許す範囲で何らかの対策ができないか検討を進めています」とのこと。
このうち後者は、おそらく現行スイッチが品不足だった頃にも行っていたはず。より重要なのが前者の「しっかりと生産」ですが、古川氏も「昨年や一昨年において、半導体部品の不足のために十分な数量の Nintendo Switch のハードウェア生産ができないことがございましたが、現在はそうした状況は解消されています」と述べています。
具体的には2020年~2022年に、なぜスイッチが転売屋の餌食になっていたのか。今では「生産量が足りなかったから」と結論が出ています。当時の新聞記事でも、新型コロナ禍による「巣ごもり需要」×「サプライチェーンの混乱」=中国の工場などが操業停止したこと、と正確な見立てをしていました。
スイッチ後継機種、通称スイッチ2のチップ性能が控えめになることは、ほぼ確実視されています。
現行モデルを大成功させた「携帯ゲーム機と据え置き機のハイブリッド」を引き継ぐなら、携帯できる小さな本体に大きな演算能力を持たせることは「発熱」と「バッテリー持ちの悪さ」から考えにくいため。それを補完すべく、超解像など「演算の負荷を減らしつつ、グラフィックの見た目を盛る」最新技術を投入すると見られているわけです。
よってチップも最新プロセスではない7nm~8nmで製造するとみられ、最新版PS5の6nmチップとも製造キャパシティを食い合う可能性は低い。Xbox Series X|Sは7nmチップですが、スイッチ2の脅威となるほどのニーズはすでにありません。
発売直後の品薄を避けるために、2025年3月ギリギリに発表、年末に発売……という識者の予想もあるようですが、すでに現行モデルの売れ行きも陰りを見せている。もしも年末まで引っ張れば、売上を全体的に押し下げかねないでしょう。
さらには昨年3月の決算説明会で、現行スイッチの発表から発売まで時間がかかったことを批判されて「少し特殊な情報発信のケースであった」と答えていることから、もっとスピーディな展開になるのではないでしょうか。
生成AI活用をめぐる任天堂とマイクロソフトのスタンス
次に「任天堂のAIを活用した取り組み」に関する質問です。
古川氏いわく「ゲーム業界においては、以前から敵キャラクターの動きなどに AI に近い技術が取り入れられてきたため、ゲーム開発とAI 技術はもともと近い関係にあったと考えています」とのこと。それは「アルゴリズム」であり、“創る”生成AIとは別ものなので、単なる枕詞でしょう。
そこも自覚しているようで「昨今話題になっている生成 AI は、よりクリエイティブなこともできますが、一方で、知的財産権に関する問題等も有していると認識しています」「技術の発展に対しては柔軟な姿勢で対応しつつも、単純に技術だけでは生み出すことのできない当社ならではの価値を、これからもお届けしていきたいと考えています」とも付け加えています。
要約すれば、1.生成AIの学習データに著作権のあるコンテンツが含まれている場合、訴訟の対象にもなりうる 2.生成AIも技術の1つであり、排除しないが任天堂ならではの付加価値をめざす。当たり前のことしか言ってないものの、生成AIの現状を正確に認識した素晴らしい「当たり前」です。
たとえばマイクロソフトはXboxゲーム開発につきInworld AIと複数年のパートナーシップを締結し、キャラクター、ストーリー、クエストを作成するAIツールを導入すると堂々と発表しています。
任天堂とどちらがいいか悪いかではなく、「あくまで自社の持ち味で単独ハードで戦う会社」と「マルチプラットフォーム前提の全方位戦略」との違いであり、数年後にどのような形でそれぞれのゲームに反映されるか興味深いところです。
ゲーム開発の長期化は若い世代の育成にとって深刻
中核の開発メンバーらがが高齢化している、若い世代への引き継ぎは考えているのか?との質問に、なんとマリオ生みの親・宮本茂氏が自ら回答。
「取締役のなかで私は最年長ですが、快適に仕事をしています」「個人的には「つくる」ということをしていないと日々が楽しくないし、つくれなくなっていくので、『Pikmin Bloom』のようなモバイルアプリや、映像などの新しいメディアに関わっています」とのこと。そこまで『Pikmin Bloom』にガッツリ関わってるのかと驚きでしたが、もともとピクミンは宮本氏の庭いじりから発想されたものですしね。
この若い世代への引き継ぎについては、株主からの「過去と比較してソフト開発が長期化しているように思う」との質問と密な関係があります。質問者は開発期間を縮めてゲーム発売のペースを上げることに重きを置いていましたが、1本の開発期間が長引くほど「たった1本のゲーム開発しか知らない」世代が増えることが深刻でしょう。
たとえば『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の発売から『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』までは約6年も空いています。
かつてのアーケードゲームであれば、同じ開発チームで1年に数本は手がけていましたし、6年といえば初代『ドラゴンクエスト』から『V』までの期間。つまり堀井雄二さんが5本ドラクエを作るあいだに、たった1本しかゲーム開発に関わっていないあことになります。
確かにゲーム開発のスピードアップは必要ですが、それは「若い世代を育てるため」になくてはならないのでしょう。