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杉並サンバ祭り会場火炎瓶事件はなぜ起きたか:高齢者犯罪の心理

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(写真:アフロ)

高齢男性はなぜサンバ祭り会場に火炎瓶を投げたのか。孤独と孤立が、高齢者の自殺と犯罪を生む。

■杉並サンバ祭り火炎瓶事件

8月7日夜、サンバを踊る杉並区の祭り会場に、火炎瓶のようなものが投げられる事件がありました。子どもを含め、15人がケガをしています。これは、「富士見丘七夕祭り」の一部としてのサンバカーニバルで、高さ2メートルの炎が上がりました。

「警視庁は、近くに住む60代の男が自宅から投げつけたあと、首をつって自殺したとみて、8日、自宅を捜索するなど、殺人未遂の疑いで捜査を進めています」(男の自宅から複数の火炎瓶のようなもの 杉並祭りの最中に火炎瓶か 自殺図った男が事件に関与の疑い:NHK)。

自宅からは、複数の火炎瓶や、ボーガンも見つかっています。

詳細は不明ですが、近年高齢者の犯罪が増加しています。もし、彼が加害者だとするなら、なぜ高齢男性はサンバ祭り会場に火炎瓶を投げたのでしょうか。

■高齢者犯罪の増加

犯罪統計によれば、高齢者による犯罪は高齢者人口の増加率をはるかに上回って急速に増えています。「高齢者の検挙人員は、他の年齢層と異なり、増加傾向が著しい」と「犯罪白書」(平成25年度版)にも書かれています。

たとえば万引きも、かつては少年の犯罪でしたが、現在では高齢者の犯罪です。高齢者による暴力事件もしばしば見られます。

高齢者が元気になり、活動的になったことも原因でしょう。格差社会の問題もあるでしょう。しかし高齢者犯罪の原因は、貧困よりも孤立と孤独感だと言われています(自殺も、心理学的には孤独の病と言われています)。

高齢者万引き犯の中には、お金があるのに盗む人もいます。少年のような、遊びやスリルを求めての万引きとも違います。お金が減っていくことへの不安が、万引きの大きな原因の一つです。

また、普通は泥棒や乱暴などして仕事や人間関係を失うことを私達は恐れますが、学校も会社も関係なくなり、さらには家族親戚との人間関係も希薄になれば、犯罪へのブレーキを失います。

■高齢者が暮らしにくい現代社会

昔なら、お父さん、おじいちゃんというだけで、尊敬が与えられました。子ども孫は敬語を使って話しかけ、おかずが一品多かったり、テレビのチャンネル権を持っていたりしました。しかし、今は違っています。

昔、世の中の変化が少なかったころなら、高齢者は物知りででした。しかし、変化が激しい現代社会では、若者の方が物知りだったりもします。

昔からの祭りについてなら、高齢者は物知りです。しかし、サンバについてなら若者の方が詳しいでしょう。

世の中のルールが次々と変わる中で、適応できなければ、ストレスが溜まります。若いころなら、間違いを指摘されても、素直に謝ってやりなおせたのですが、高齢になると、体力的にきつかったり、プライドが邪魔をして、素直に訂正できない人もいます。

つい、カッとなって暴言暴力が出てしまう人もいます。

特に男性は、退職後に人間関係が途切れてしまう人がいます。器用に近所づきあいや、趣味の生活を楽しめる人なら良いのですが、難しい人もいます。ストレスが溜まっても、ストレス解消のおしゃべりができない人もいます。

報道によれば、今回自殺した男性は、1年前に妻に先立たれ、一人暮らしでした。

生きている理由を失った高齢者が、自殺や破壊的犯罪に近づいていきます。

■騒音問題

今回の男性は、「祭りがうるさい」と以前から言っていました。

騒音は、音の大きさの問題ではありません。

たとえば、昔から親しんできた祭りのにぎやかな音なら、懐かしく、楽しく、心踊るものになるでしょう。しかし、新しく始まった、理解できない祭りの音なら、同じ大きさでも騒音になってしまうでしょう。

■心と体のバランスを失うとき

一般論ですが、心身のバランスを失ったとき、人は自分を傷つけたらり、他人に害を加えようとすることがあります。たとえば、仕事を失い、家族を失うなど、喪失体験が続くと、心身は大きなダメージを受けます。

特に突然一人暮らしになった高齢男性は、仕事や、仕事による収入や人間関係や生きがいを失い、職場や家族とのコミュニケーションを失い、慣れない家事の負担が加わり、バランスをくずしやすくなります。

怒りや恨みの感情も、おしゃべりや、様々な楽しい活動があれば薄れていくのですが、一人ぼっちで悶々と考え続けると、否定的な感情はますます高まります。

若者の通り魔事件のように、自分の人生を終わりにしたいが、最後に自分の正しさや強さを表したいと考えてしまうと、破壊行動の直後に自殺を考えてしまうこともあるでしょう。

また、それまで何の問題も起こさなかった中高年の人が。突然ご近所トラブルなど問題を起こすこともあります。その中には、妄想を持つなど、精神疾患がからんでいるケースもあります。一人暮らしだと、気ずかれにくいこともあるのです。

■高齢者犯罪防止のために

孤独なら犯罪を犯してよいわけではありません。しかし、孤独な高齢者が犯罪を犯しやすいなら、孤独を癒すことが防犯につながります。

高齢者の万引き防止のために、中高年の店員を雇う動きも始まっています。若いアルバイトでも、高齢者とコミュニケーションが取れる若者を採用する店もあります。

「声かけ」は、いつでも万引き防止になりますが、高齢者には特に効果的です。

社会は変わり、街は変わります。祭りもイベントも、人間関係も変わっていきます。その中で、孤独な高齢者を防ぐ工夫も、考えて生きたいと思います。

■参考

とんがれ、高齢者!:過去に生きず、未来を見つめて今を生きろ」Yakoo!ニュース個人:碓井真史

高齢者の自殺を予防するためにYakoo!ニュース個人:碓井真史

『高齢初犯:あなたが突然、犯罪者になる日』(NNNドキュメント取材班/ポプラ社)

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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