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新豆の季節が近づいてきた ~ 山形の紅大豆収穫

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
山形県川西町特産の「紅大豆」

 見出しを見て「おや」と思った人もいるだろう。「新豆」が出回るまで、あと少しだ。豆は収穫して、すぐに出荷できないのだ。秋から冬へ駆け足で変化する季節の中で、山形県川西町では、ちょうどいま、豆の収穫も最終段階だ。

・豆のある町かわにし

 ここ数年で、「豆のある町かわにし」という呼び名が定着してきた山形県川西町。人口1万5千人の小さな町だ。米や米沢牛の生産で知られる地域だが、最近では「豆」の生産地としても名前を広めつつある。

 その「豆」の中でも、川西町特産で人気の高い豆が「紅大豆」である。「紅大豆」は、一般的には赤大豆という種類として知られているが、その中でもこの置賜地域に伝わる伝承野菜の一つとして育てられてきたのだ。「紅大豆」は収量が少なく、栽培に手間もかかるために、一時は「幻の」と形容されるようなったが、10年ほど前にその存在が山形県内で知られ、この川西町の農家の人たちが復活させた豆である。

川西町のちょうど真上。画面右側が米沢市になる(撮影・筆者)
川西町のちょうど真上。画面右側が米沢市になる(撮影・筆者)

・畑で完熟させる

 枝豆と大豆は、同じものだということ知らない人も多い。枝豆は、大豆の未成熟なもので青いうちに刈り取って、出荷する。そのまま、畑で枯れるまで置いておくと、さやの中の豆が完熟し、大豆になるのだ。この紅大豆も、若い実の頃は、枝豆として食べることもできる。

 「もうこれが紅大豆を刈り取るのが最後の畑だよ」豆農家の方に畑に連れて行ってもらうと、すっかり枯れてしまった株が並んでいる。茶色くくすんでいて、見る影もない。一見、荒れ果てたた枯草が並んでいるように見える。

 しかし、よく見るとたくさんのさやがぶら下がっており、それを振ってみると、からからと良い音が聞こえる。畑で完熟させることで、濃く鮮やかな紅色になるのだ。

 

すっかり枯れて乾燥した豆の株(撮影・筆者)
すっかり枯れて乾燥した豆の株(撮影・筆者)

・収穫後にも乾燥を行う

 豆の収穫は、専用コンバインを使って行う。収穫されたばかりの豆は、水分量がまだ20%を越している。これをさらに乾燥させ10%台にまで落とさなくてはいけない。

 「今年は雨が多かったので、なかなか乾燥しなかった。毎年のことだけれど、天気に左右されるところが、工業と違うところだね。」

 農家の男性はそう言う。収穫したばかりの時は、豆に枝や葉が混じっている。これを選別機にかけ、豆だけにして出荷していくのだ。

豆を刈り取る専用のコンバインを使う(撮影・筆者)
豆を刈り取る専用のコンバインを使う(撮影・筆者)

・知名度が上がれば困ったことも

 2016年度の山形県の大豆の収穫量は約7千800トン。全国での生産量は、23万5千500トン。北海道がダントツ第一位で8万2千400トン。山形県は、そう多い方でもない。しかし、この置賜盆地は、「仙台の問屋に少し変わった豆の注文が入ると、この辺りの農家に栽培してくれと依頼が入るのだよ」と地元の農家の人が言うように、さまざまな品種の豆が栽培されているのが特徴だ。

 紅大豆もその一つ。在来種と呼ばれる古くから栽培されていたものだが、だんだん廃れてしまった品種の一つだった。「紅大豆」というのは、川西町役場が保有する登録商標だ。ここ数年、川西町の農家の人たちの努力や、大手食品メーカーが採用するにしたがって知名度が向上してきた。すると今まで使っていなかった人たちまでが、無断でこの「紅大豆」の名前を使うケースが頻発している。いわゆる便乗商法だ。

 「地元産品のブランド化を進めるためには、商標を守っていく必要がある。たいていの方は登録商標ですと話すと、判りましたと理解を示してくれる。ただ、一部、お願いしても聞き入れないで無視する人たちもいる。そうした人たちに、どう対処するかも考えなければいけない時期に来ている」と町役場の担当者は話す。「紅大豆と表示してあっても、ここで栽培しているものとは種類が違うのか、形が違ったり、色も違ったりする。同じ山形県産でも、違った土地ものを勝手に紅大豆だと出されると、消費者に誤解を与えてしまうのが怖い。」と紅大豆の生産農家の一人は話す。知名度が上がったら、上がったで、困ったことも起こる。

刈り取られたばかりの豆(撮影・筆者)
刈り取られたばかりの豆(撮影・筆者)

・新豆の季節がやってくる

 赤いルビーのような紅大豆は、その色や栄養価の高さが注目され、売れ行きも急上昇している。しかし、そう簡単に増産ができるものではない。収穫前からほとんどの紅大豆は行先が決まってしまっている。4年ほど前、作り過ぎて在庫が増えて困っていると生産農家の人たちが嘆いていたのが、嘘のようだ。川西町の紅大豆の生産面積も、4年前の約7ヘクタールから、今年は17ヘクタールに増加した。「翌年に植える豆を残しておかなければならず、これ以上の増産は無理だというところまで来ている。」生産農家はそう言う。

色鮮やかな紅大豆の煮もの
色鮮やかな紅大豆の煮もの

 収穫され、さやから出された豆は11月いっぱい乾燥させられる。天候が順調であれば、11月末から12月にかけて新豆が市場に登場していく。山形県川西町では、紅大豆だけではなく、青ばた豆や秘伝豆といった様々な種類の豆も生産されている。

 夏にビールと一緒に楽しんだ枝豆が、今度は豆ごはんなど様々な料理として食卓に登場する。夏と冬、全く同じ植物であるのに、全く違う食べ物のように楽しめる。身近であるが、意外とどのように作られているか知らない食品も多い。短い秋が終わろうとしている山形県川西町の豆作りを見る旅も面白いのではないだろうか。

もうすぐすると辺り一面、真っ白になる(撮影・筆者)
もうすぐすると辺り一面、真っ白になる(撮影・筆者)
神戸国際大学経済学部教授

1964年生。上智大学卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、京都府の公設試の在り方検討委員会委員、東京都北区産業活性化ビジョン策定委員会委員、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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