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時速300kmオーバー!やっぱり鈴鹿はバイクのレースが面白い!

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
鈴鹿JSB1000のトップ争い【写真:MOBILITYLAND】

国内2輪レースの「全日本ロードレース」が鈴鹿サーキットで開幕する。毎年恒例の「SUZUKA 2&4 RACE」(スーパーフォーミュラと併催。4月12日、13日)で最高峰クラスのJSB1000クラスだけが先に開幕し、2週間後の九州・オートポリス戦で残りのクラスもようやく開幕する。

F1で有名な鈴鹿。でも、本当に面白いのは

スーパーバイクと呼ばれる市販車ベースの1000ccスポーツバイクが戦う「JSB1000クラス」は鈴鹿サーキットで開幕。舞台となる鈴鹿サーキットは世間的にはF1日本グランプリが開催されるコースとしてお馴染みで、世界屈指のテクニカルコースとして多くのドライバー達がフェイバリットコースに名前を挙げる事でも有名だが、2輪レースの世界でも「鈴鹿」を愛するライダーが多い。

2輪は4輪コースに専用シケインが一つ追加され、最終コーナー手前のシケインも専用となるので1周は5.821km。スタートからは右回りで、立体交差をすぎてヘアピンからは左周りになる世界的に見ても特異なレイアウトを持ち、アップダウンも非常に激しい。マシンの総合力、乗り手のチャレンジ精神が求められるコースであるのは4輪でも同じだが、難しいレイアウトになっている分、4輪では抜きどころの少ないコースになっている。しかし、このコースは2輪ではオーバーテイクポイントが数多く存在する非常に面白いコースに変貌する。

鈴鹿サーキット空撮 【写真:MONILITYLAND】
鈴鹿サーキット空撮 【写真:MONILITYLAND】

大きなオーバーテイクポイントは、下りのホームストレートから第1コーナー、そして130Rからスピードを乗せたままフルブレーキングする最終シケインの2つ。2輪の場合はヘアピンへのブレーキング、逆バンクコーナーからの立ち上がり、そして130Rへの飛び込みもオーバーテイクポイントになることが多い。4輪の場合はジワジワ攻めて1発勝負を仕掛けて前のマシンをしとめるが、スリップストリームが効きやすい2輪では例えオーバーテイクを仕掛けても、その次の周には同じように抜き返される可能性がある。鈴鹿サーキットは他のコースに比べても抜きどころが多いだけに、ライダー同士の抜きつ抜かれつの駆け引きが面白い。特に排気量の小さい軽量級クラスでは写真判定になる接近戦が展開されるのは当たり前で、何年かに1度、1000分の1秒違わぬ同着の判定が下されることが起こる。鈴鹿はマシンのポテンシャルやライダーのスキルの総合力が必要なだけでなく、ライダーにとってはレース中に常に相手との駆け引きが求められ、とてつもない集中力を必要とするコースと言える。オーバーテイクの回数は4輪の比では無い程多く、順位が全く変わらない周回は鈴鹿ではごく稀だ。

タイヤ2つで時速300kmオーバーのJSB

津田拓也(ヨシムラ・スズキ) 【写真:MOBILITYLAND】
津田拓也(ヨシムラ・スズキ) 【写真:MOBILITYLAND】

軽量級クラスは特に面白いレースが展開されるが、1000ccのビッグマシンによる「JSB1000」も毎年強烈なトップ争いが展開される。ここ数年、雨やセーフティカー導入で「水入り」となるケースも多いが、ホンダ、ヤマハ、カワサキ、スズキのトップライダー達が繰り広げるバトルは「水入り」さえ無ければ、全周に渡って見ている側も心が休まる瞬間が無い程の大バトルになる。しかも、JSB1000はトップスピードが時速300kmを超えるマシンもあり、まさに極限の世界でバトルを繰り広げるライダー達には感情移入してしまう人が多い。

2輪の最高峰JSB1000のレースを見て、レースの純な面白さを知ってしまったファンはなかなかこの刺激を超えるものを見つけるのは難しいのではないか。ビッグバトルが展開される度に、2輪レースにハマる人が増えていく。

開幕戦エントリーは58台

鈴鹿8耐に参戦する「Honda鈴鹿レーシングチーム」 
鈴鹿8耐に参戦する「Honda鈴鹿レーシングチーム」 

これだけバトルが多くても4輪に比べると人気や知名度が今ひとつなのは何とも残念だが、2輪レースの世界は景気回復の兆しに素早く反応し、アマチュアレースを含め、出場台数はまた増加傾向にある。「JSB1000」の開幕戦のエントリーは決勝グリッド44台に対し、58台のエントリーが集まった(全車出場となった場合、昨年比5台増加)。

ただ、全日本ロードレース「JSB1000」の年間エントリー台数は19台と少ないが、鈴鹿サーキットのレースだけはいつも台数が激増する。これは夏に開催される「鈴鹿8耐」に参戦するチームがスポット参戦をするためで、現在は8耐を軸に年間計画を立て、開幕戦の鈴鹿のレースだけはテストマッチとして出場するケースが多いからだ。現在の全日本ロードレースJSB1000クラスと8耐のマシン規定はほぼ同じになっており、スプリントレースなのに、8耐を見越して耐久仕様のマシンでレースに挑むチームも。3ヶ月以上前とはいえ、JSB1000開幕戦はさながら8耐の前哨戦と位置づけられている。

周回数が5周増えて、バトル3割増し?

8耐の準備を兼ねるチームが多いからか、今年のJSB1000開幕戦・鈴鹿のレースは周回数が通常の15周から5周も増えた20周で争われる。鈴鹿8耐のレースの1スティントから比べると短いが、これまでの15周スプリントとは戦い方を変えなければならない。

決勝フルグリッド44台の中には各メーカーのトップチームからバイクショップ単位のプライベートチームまで様々な顔ぶれが居る。昨年の予選タイムで見てみるとポールポジションの秋吉耕佑(F.C.C TSR HONDA)から44番グリッドの選手まで実に11秒の差が開いており、周回数が長くなればなるほど、優勝を狙うトップライダー達は周回遅れのマシンをパッシングしていかなければならないコーナーが多くなる。他車とバトルをしながら周回遅れを抜いて行くという難しいレースを展開せねばならず、トップライダー達にはさらに気の抜けないレースになることは間違いない。これまでのデータを基にすると優勝争いを展開するライダー達はレース終了までに20台〜25台の周回遅れをパスしていかなければならない。これはタフなレースだ。

JSB1000クラス スタートシーン 【写真:MOBILITYLAND】
JSB1000クラス スタートシーン 【写真:MOBILITYLAND】

ライダーは大変だが、観客にとっては、これまでにないドラマも期待できる面白いレースになりそうな予感。4輪レースの「スーパーフォーミュラ」に大きな注目が集まっているが、この機会に4輪レースファンの皆さんにも2輪レースの面白さを感じてもらえればと思う。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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