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優勝したE・グリリョと2人の少年の交流は、なぜ、こんなにも世界のゴルフ界で絶賛されているのか!?

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
(写真:ロイター/アフロ)

 米男子ゴルフのPGAツアーの大会、チャールズ・シュワッブ・チャレンジ(米テキサス州コロニアルCC、5月25日~28日)で勝利したアルゼンチン出身の30歳、エミリアーノ・グリリョの心優しき「武勇伝」が、米国のゴルフファンの間で大きな話題になっている。

 最終日を首位から2打差の4位タイで迎えたグリリョは、終盤に単独首位に立ち、2位に2打差で最終18番ホールを迎えた。しかし、18番ではティショットをクリークに入れて手痛いダブルボギーを喫し、後続組のスコア次第で、優勝か、敗北か、あるいはサドンデス・プレーオフにもつれ込むという状況になった。

 後続組のホールアウトを待つ間、グリリョは18番のティショットを大きく曲げた原因は何だったのかを考えようと思いつつ、屋外に出て、パッティング練習場に向かった。そして、フェンスの外から熱心に眺めている2人の少年の姿に気付いた。

 「おーい、キミたち。こっちに来て、ボールを打ってみたくないかい?」

 グリリョが少年たちに声を掛けると、少年たちはやや躊躇しながらも「打ちたい」という表情を見せた。グリリョが再び手招きすると、傍にいた父親と思われる男性が少年を抱き抱え、フェンスを越えさせようとした。

 フェンスの内側で警備についていたポリス(警察官)も歩み寄り、少年を一人ずつ、父親の手から引き継ぎ、かくして2人の少年はフェンスの内側へ無事に着地。

 グリリョは自分のクラブを少年に握らせ、1番ティから「打ってごらん」。少年は、いきなり握ったグリリョのクラブで、なかなかのナイスショットを打ち、グリリョも周囲の人々も「ベリー・グッド!」と絶賛。その場にいた誰もが笑顔になった。

 それから数分後、グリリョは25歳の米国人選手、アダム・シェンクとのサドンデス・プレーオフに突入。2ホール目で見事なバーディーを奪ったグリリョが、7年7か月10日ぶりに勝利を挙げ、PGAツアー通算2勝目を飾った。

 まだ自分自身が勝つか、負けるか、プレーオフを戦うことになるのかどうかが決まっていない段階にある選手は、フツウに考えれば、神経がピリピリしているものだが、そんな状況にありながら、ギャラリー少年を招き入れ、貴重な経験をさせたグリリョに、すぐさま賞賛の声が上がった。

 しかし、「へー」と感心させられる話は、その先に、まだあった。

 「あのとき、ふと見たら、7歳か8歳ぐらいの少年たちが視界に入った。僕もちょうどそのぐらいの年齢のとき、ホセ・コサレス(現在59歳。アルゼンチン出身の選手)に同じような経験をさせてもらったことがあった。だから今度は僕が同じことを少年たちに経験させたいと思った。あの子たちが今日のことを覚えていてくれたらいいなと思う」

 実を言えば、グリリョが少年たちを招き入れた理由は、もう1つあった。72ホール目で「ダブルボギーを喫したことを早く忘れたかった」。気持ちを切り替えるためにも「何か」をしたかった。そんなとき、少年たちの姿が目に入ったのだそうだ。

 グリリョには昨年3月に待望の第1子が誕生。「14か月前に父親になったばかりだ」という彼の視線は、だからこそ、自ずと子どもたちの方へ向いたのではないだろうか。

 表彰式を終えた後、グリリョは2人の少年を選手用のロッカールームにも招き、「はい、これを1つずつね」と言いながら、キャップをプレゼント。もちろん、彼のサイン入りだ。

 「これまでで最高の出来事だ」と満面の笑顔で大喜びする2人の少年、ペイトンくんとサットンくんの様子は、すぐさま動画に収められ、ツイッターで発信された。

 今、ゴルフ界は、由緒あるPGAツアーと新興のリブゴルフの激しい対立で大揺れしている。どちらの側からも相手に対する批判や非難、対抗策や悪口といったことばかりが取り沙汰されている中、グリリョと少年たちとの交流の話は、久しぶりに見られたグッド・ストーリーであり、ゴルファーの「心」と「世代」を継承していくための大事な姿勢の手本でもあった。

 メジャー3勝、通算13勝を誇る29歳の米国人選手、ジョーダン・スピースも、7歳のとき、地元テキサスでPGAツアーの試合観戦に行き、プロゴルファーと交流した経験があった。

 スピースと彼の父親がパー3ホールのグリーン脇の芝の上に座って観戦していた際、当時のビッグスターだったフィル・ミケルソンのボールが飛んできて、スピース少年の至近距離に止まったそうだ。

「じっとしていられるかい?」「イエス!」

 そんな短いやり取りの後、座ったままのスピースのすぐそばにあったボールを、ミケルソンはウエッジで見事に打ってピンに寄せ、パーセーブに成功。

 カップからボールを拾い上げたミケルソンは、その足でスピース少年のところまでわざわざ戻り、「じっとしていてくれて、ありがとう。いい子だ」と言って、サインしたグローブをスピース少年に手渡し、握手を交わしたという。

 「あのとき僕は、フィルのようなプロゴルファーになりたいと思った」

 ミケルソンからスピースへ。コサレスからグリリョへ。そして今度は、グリリョから少年たちへ。そうやって受け継がれたものが、ゴルファーを育て、ゴルフ界を大きく成長させていくことを、昨今は誰もが忘れかけている。

 だからこそ、グリリョが取った行動は、ゴルフ界に大切なことを思い出させてくれた「武勇伝」として、米国のゴルフファンの間で大きな話題となり、今、絶賛されながら世界へ拡散されている。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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