『出前館』創業者の壮絶人生 1077年間の借金返済計画から 20兆円の殺処分ゼロプランまで 花蜜幸伸
【追記】『令和の虎』に出演の花蜜幸伸 氏
【追記終わり】
『出前館』の創業者である花蜜幸伸(はなみつ・こうしん)氏のセミナーを沖縄県名護市のcoconovaで参加してきた。
波乱万丈の人生は数あれど、彼ほど波乱万丈も珍しい。いや、ありえないほどだ。
東京地検特捜部からの株価操縦、10億円の借金、追徴金の返済期間はなんと1077年間…気の遠くなるマイナスから、なんと20兆円のビジネスアイデアをくりだす『妄想力』に大いなる勇気がもらえた。彼の苦闘から比較すると世の中の人の人生は幸せすぎるからだ…。
特に、インターネットの黎明期におけるアクションは、特筆すべきものであった。同時にベンチャー経営者で苦労をしている人は彼の経験をぜひ知っておくべきだろう。
そう、彼はなんといっても、ゼロから『出前館』を創業した男であるからだ。『あきらめない』という彼の生き方は、壮絶なまでものデメリットをも凌駕する。
インターネットの成功者は数多くいれど、その裏にはその何100倍もの失敗者がいることを知っておいて損はない…。
■映画『ザ・インターネット』のワンシーンから、世界初のネット宅配サイト『出前館』が誕生した。
映画の中のワンシーンで、サンドラブロックがピザの宅配をネットで注文するシーンにインスパイアされる…。
『花蜜幸伸(はなみつ・こうしん)』、1969年生まれ現在53歳
高校卒業後、1991年、21歳の時にバイク便の事業を創業する。そして、当時の映画で、ネットを扱った初期の作品『ザ・インターネット(the Net)』のサンドラ・ブロックがネットでピザを注文するシーンを見て、ネット宅配にインスパイアされる。日本での映画公開は1996年1月。
Macの展示会の『MACWORLD EXPO』の開催中にこの映画が会場内で撮影されていたので筆者もこの映画をよく覚えている。
『サンドラ・ブロック』がインターネットでピザを注文するシーンは印象的だった、いつかこんな時代がやってくるんだろうなぁと筆者は思っていたが…、花蜜氏は、違う。『ヤバい!これはチャンズだ!』と直感したそうだ。
そう、バイク便では、フロッピーやCDのメディアをメインに運んでいたが、添付ファイルでメールでそれらが運ばれる時代になると、バイク便のような事業はやばくなると思っていた時に、ネットで注文できる時代がついにやってきたと…。
花蜜氏は、早速ネット宅配の調査に乗り出したが意外なことに誰も手を付けていなかったのだ。花蜜氏の決断は早かった。誰もやっていないならばやるべきだと感じたのだ…。
1999年、花蜜氏 29歳で世界初の宅配サイトサービス『出前館』がスタートした。
『夢の街想像委員会株式会社(現・株式会社出前館)』を創業する。
『出前館 <2484>』
時価総額749億円(2022年9月21日)
■誰もやらなかった3つの理由
誰もやらなかった3つの理由
1.時代が早すぎた
当時、インターネットは、ダイヤルアップ接続で電話線を経由してモデムでアクセスしていた。 ネットに接続するまでの30秒間、交信音を聞いていなければならなかった。そして、 従量課金で接続している時間によってアクセスフィーがチャージされていた。
2.そば屋の出前
日本の出前システムでは、蕎麦屋でも出前で注文すると宅配料がかからず注文ができた。わざわざ、宅配料金が上増しされるネット宅配が浸透するには、1999年から20年近くかけてウーバーイーツが当たり前にやっとなった。
3.ネット販促が不可能
何よりも最大の問題は、インターネットでのサービスなのにインターネットで販促することができなかったことだ。 出前館を知ってもらうためには他の媒体を活用することが必要だった。
初年度の年間売上は10万円という悲惨な結果…。しかし、
花蜜氏のあきらめの悪さと営業力がモノを言う。
■花蜜のウルトラマーケティング『顧客に頼りきれ!』
初年度の年商が10万円でもあきらめないと言う花蜜氏の諦めの悪さとこのウルトラC提案によって業績は徐々にアップしていく。
1.相手のチラシなどに出前館のロゴとURLを無料でお願いする
2.ネット注文のときには特典をお願いする
3.ネットからの注文で、フィーを売上から5%
4.最後は顧客に『出前館』に出資をお願いする。
これで、了解をとりつけてくる花蜜氏の営業力に完全にノックアウトされる。
こんな都合の良い交渉事がなぜ? 成立するのか!と…。
業績はアップすれど、常に資金繰りには困る日々。花蜜氏は、1999年に創業し、2002年1月には、『出前館』経営のバトンタッチを早々に決意する。
『リクルート』を経て『ほっかほっか亭(ハークスレイ)』で、ネットデリバリーを担当し、出前館の加盟店だった中村利江 氏を、社外取締役として招聘し、その後社長へオファーしたのだった。
悩み抜いて引き受けた“社長”オファー 中村利江
夢の街創造委員会株式会社(出前館)から、社外取締役になってほしいという話がありました。社外なら、と思って引き受けたのですが、最初の取締役会で知ったのは、同社の経営状態が危機的だったということです。多額の負債を抱え、融資を受けることもままなりませんでした。
そこで私は、大阪ガス主催のベンチャー支援のビジネスコンテストへの応募を提案。資料の作成を主導し、プレゼンをしたところ、4,000万円を獲得できました。その結果、私は当時の社長から驚きのオファーを受けました。「ぜひ社長になってほしい」と言われたのです。
そして、出前館の株式上場は中村利江氏就任4年後の2006年なので、花蜜氏は創業者でありながらも、株を手放していた為、上場益を得ることもなかった…。
■上場後に舞い戻るが、そこからはじまる地獄の日々
『出前館』は、上場後に再度、成長エンジンの人材が必要となり、経営参加を請われて『特別顧問』として花蜜氏を抜擢した。
そして、スティーブ・ジョブズのように『出前館』に返り咲いた花蜜氏だったが…。
実は、そこからが地獄の日々が始まるとは、人生はまさにジェットコースターだ。
経営陣の一人として、創業者として、筆頭株主相当の持ち株を得るために個人としての自社株買いをすすめていたが、そうがうまくハマらなかった…。
しかも3倍ものレバレッジがかかる『信用取引』だった。知人らに借りた金額の総額がなんと『10億円』。それで3倍もの30億円分の株を買い続けた…結果…、
ある日、筆頭株主よりも多い大口の株が市場に売りに出され、大暴落となる。
3日以内に証券会社へ3億円の『追加保証金』を払えと言われた…、払えなかった為に花蜜氏の、全株を証券会社に売却となった。
花蜜氏が個人的に自社株買いを進めている最中に『売り浴びせ』の策略にまんまとハマったしまったのだ。むしろ被害者の認識が、実際には、株を買い進める行為が『株価操縦』の加害者としてとらえられてしまったのだ…。
■運命の大暴落 2014年6月4日
さらに、大暴落から、8ヶ月後、東京地検が動き出す…
■2016年『株価操縦』の疑いで東京地検特捜部に在宅起訴
安く売られる株を、株価を抑えるために買い支えていくが、さらに売りが出る。ついに、株を買うための原資が枯渇したところでさらに売りが出る。レバレッジをかけて買った株なので追証の保証金も払えなくなる…。
■2020年、4年4ヶ月もの苦闘の日
その後、出前館は、2016年、LINEが出前館に出資し20%の株主になり、2019年、LINEはYahoo!ジャパンと経営統合の発表、2020年、LINEは、300億円の出資で出前館をLINEの子会社化とした。2021年、Zホールディングスから800億円を調達する。Zホールディングス傘下のデリバリー部門の中核となった。
一方、花蜜氏は…
善意の弁護団が現れたことにより、最高裁まで戦うが、最終結果は敗訴…。
長い長い時間と手間をかけてようやく、結果が出た。
精神的にも金銭的にも、ボロボロの状態だった。
被告人を懲役3年、及び罰金2,000万円に処する。
被告人においてその罰金を完納できないときは、金5万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判が確定した日から4年間その懲役刑の執行を猶予する。
被告人から金1億2,928万5500円を追徴する。
出典:花蜜氏プレゼン資料
■死んでも払いきれない…なんと1,077年間のローン型返済
借金10億円、追徴金1億2,928万5500円を月額1万円づつ支払うことで、なんと1077年かけて、返済するということとなった。
花蜜氏は、1077年分の返済計画を立てていたことに驚愕した。そんなことができるのかと…。
『自己破産』するよりも、毎月に返せる金額を提示し、何千年、何万年、いや何億年かけてでも返済していく『意思』があれば返済計画が成立することの方に感銘を受けた。
これならば、そのうち、ビッグなビジネスでドーン!とまさに朝ドラの『ちむどんどん』の長男、賢秀のような人でも生きている間に、資金繰りができ、再びチャレンジができる…。
■『殺処分ゼロ』の事業で日本を変える!?
ここからの花蜜氏の事業計画がまたとんでもなくユニークである。
ここまで、4年以上の人生の辛酸を舐め続けた人が何をやるのか…これがまた、とっても奇想天外だった。
『ペットの里』発案による『ペット信託事業』だ。
『ペットの里』
『ペットの里』は、2014年、花蜜氏が調子の良かった頃に、支援した東京ドーム9個分12万坪の敷地でオープンした、岩手県の世界最大級の犬猫の保護施設だ。ドッグランや猫カフェなどが併設されている保護施設だ。
殺処分ゼロプロジェクト の推進団体でもある。
花蜜氏の、現在の肩書は執行猶予中で、役員になると迷惑をかけるということで『応援団長』である。
花蜜氏は、ペットの保護施設を運営していて、壮大な事業プランをひらめく…。
転んでも、タダでは起きないオトコである。
■殺処分ゼロなんて簡単だ!シニアの3人に1人がペットを飼えば瞬時になくなる!
日本全国での犬や猫の年間殺処分件数は、2万3764頭、1日65頭が殺処分されている。(2020年)
最も低い殺処分は、北海道の6%から、最も高い長崎県の71%まで 殺処分は、自治体によって大きな差がある。
『動物愛護センター』に引き取られる犬猫の年間総数は7万2433頭(2020年度)なので、32%の2万3,764頭は殺処分され、68%の4万9,254頭は引き取り手さえいれば、命を継続することができる。
ちなみに、ペット飼育されている 犬は848万頭、猫は964万頭 合計1,813万頭だ(ペットフード協会)。さらにペットを飼いたい人は、シニア世代で増えている。
。 ペット関連の市場規模は、2020年度に1兆6242億円
3年後の2025年には団塊世代が75歳を迎え、日本国民の4人に1人が75歳以上となる。高齢者人口は3,640 万人と過去最多(2021年)
そして、ペットを飼っていないシニアが約3,000万人もいることだ。
■ペットの『信託保険』を作れば、シニアがペットを飼える!
そこで、花蜜氏は考えた。
毎年、2.3万頭の殺処分をなくすためには、ペットを飼っていないシニア層3,000万人のうち3人に1人が飼えば、1,000万頭のペットが飼えることとなる。年間2.3万頭の殺処分なんて一瞬でなくなる。動物愛護センターの年間7.2万頭も一瞬だ。むしろ全国の保護施設114施設も不要となる。生体を仲介する機能さえあればよいのだ。
何が原因なのか…。シニアの一番の大きなペットを飼えない理由は、自分の死んだ後に面倒が見れないという『課題』だった。人間には死後に『信託』で「自分の大切な財産を、信頼できる人に託し、自分が決めた目的に沿って大切な人や自分のために運用・管理してもらう」制度がある。
しかしだ…。
『ペットの信託保険事業は存在しなかった…』
花蜜氏はここで、出前館を創業した時の『ピザのネット宅配事業は存在しなかった』ことを思いだした。ないものは作る…。
花蜜氏は、動産扱いのペットを、信託保険を通じて受け入れ先もふくめて完成するスキームを金融・保険業界に提案した。
ペット保護施設のほとんどがボランティアや寄付で運営されている。信託保険事業による対価が得られれば、もっと高度なサービスでペットを受け入れることができる。保護施設も事業としてしっかりとスタッフも雇用できるようになる。
花蜜氏の妄想は、さらにとまらない…。起業家に必要なのは『妄想力』だ。
■シニア1千万人×信託総額200万円で20兆円市場の創生
花蜜氏は、実際に金融・保険業界とかけあい『金融商品』を作ってしまった。
すでに、プルデンシャル生命保険と、ジブラルタ生命保険でペットの信託保険が始まった。
ペットを飼うシニアが1,000万人になると、信託保険200万円だと、なんと、20兆円だ。500万人でも10兆円と花蜜氏は豪語する。
いや、100万人でも2兆円だ。筆者も自作の『億兆電卓』で 取らぬ狸の皮算用をしはじめた…。通常の電卓だと花蜜氏の構想は計算できないからだ。
年間20万円の信託金としても、1,000万人が加入すれば、2兆円だ。
たとえ、仲介手数料を5%としても1,000億円だ。
100万人でも100億円の手数料となる。最悪1万人でも1億円の手数料だ。
■シニアの健康にペットが寄与した場合の医療費・介護費 削減額は3.4兆円!
もっとすごいのが、 シニアがペットを飼うことによってのヘルスケアへの効用だ。
医療介護費、認知症問題、シニア自殺などのいろんな問題が、ペット信託保険の浸透ともに改善されると見込まれる。
エビデンスはこちらだ。
■シニアのペット効果『主観的健康感の維持』に貢献。犬猫を飼育する高齢者における 13年後の要介護度予防効果
研究目的:在宅に居住する高齢者における犬猫を世話することと関連する要因を明らかにし、その 12 年 9 ヶ月後の要介護度との関連と関連要因間の因果構造を明確にする
研究方法:九州に位置する A 県 A 自治体の在宅に居住する高齢者全員を対象5,022 名を分析対象者として、2011年 11 月 30 日までの 12 年 9 ヶ月間の生存を追跡し 1,801 名の死亡と 3,221 名の生存を確定し、同時に 2011 年 11 月
30 日時点での要介護認定度を確認した。死亡を含む要介護度を規定する死亡を含む要介護度を規定する 12 年 9 ヶ月前の関連要因との因果構造はパス解析により分析した。
結果:犬猫の世話をするほど主観的健康感が維持され外出頻度が高まる傾向は統計学的に有意に関連することが示されたものの、12 年 9 ヶ月後の要介護との関連は男性では見られなかった。しかしながら、パス解析により、年間収入に支えられる犬猫の世話が、主観的健康感を維持させ外出頻度を高めることを経由し、その後の死亡を含む要介護度重症化を抑制する因果構造が男女共に示された
研究課題:特定地域での調査結果とは言え、犬猫の世話をすることが、主観的健康感の維持と、外出頻度を高めることを経由して、死亡と共に 13 年後の要介護度重症化の抑制に寄与する可能性が示された。研究課題としては ,無作為抽出調査により研究成果の外的妥当性を高め、更には動物介在療法により介護度の予防介入効果を実証し因果構造を明確にすることである。
日本の社会保障給付費は、131.1 兆円で、医療費は3割の40.8兆円である(2022年予算ベース)。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21509.html
■シニアの国民医療費に占める割合は60.6% で24.7兆円
国民医療費とは、「当該年度内の医療機関等における保険診療の対象となり得る傷病の治療に要した費用を推計したもの」とされている。この費用には、医科診療や歯科診療にかかる診療費、薬局調剤医療費、入院時食事・生活医療費、訪問看護医療費等が含まれる。先進医療、不妊治療における生殖補助医療等に要した費用は含まれていない。
■シニアの介護費用は3年連続で10兆円超え 10兆7,783億円
厚生労働省が公表した2020年度の「介護給付費等実態統計」によると、介護保険給付や自己負担分を含めた介護費用は10兆7,783億円で、過去最高となりました。
介護保険の内訳は、国と自治体の税金が50%、40歳以上が支払っている保険料が50%と単純な構成になっています。
介護費用が増加した際の対処法は大きく分けて、「財源を増やす」「給付を減らす」という2つになります。
そこで、近年実施されているのが「給付を減らす」という方法です。
例えば、高所得高齢者の自己負担額が、2015年に2割、2018年に3割に引き上げられました。
直近では2021年8月に、預貯金が多い高齢者などを対象に介護施設での食費などを補助する「補足給付」が削減されました。
計算上では、最大で月6.8万円以上の負担増となっているのです。
■『シニアのペット効果』国民医療費2.4兆円削減、介護費用1兆円削減 合計3.4兆円の削減が可能
シニアのペットを飼育できる機会を増やすことにより、『主観的健康感の維持』により、1割の削減が期待できるだけで、国民医療費2.4兆円削減、介護費用1兆円削減 合計3.4兆円の削減が可能となる。
『主観的健康感の維持』が2割だと、国民医療費4.8 兆円削減、介護費用2兆円削減 合計6.8兆円の削減が可能となる。
日本の 社会保障関連の給付を減らせれば膨大な金額の税金が削減できる。
ペットを飼うシニアが1,000万人になると、信託保険200万円だと、なんと、20兆円。500万人でも10兆円と花蜜氏は豪語するが、6.8兆円もの財源支出抑制効果が加わり、その上、ペット信託保険20兆円も含めてペット関連産業産業1.6兆円もさらに巨大となる。
さらに賃貸マンションなどでも、65歳以上のシニア一人あたり1頭までなどの、ペット飼育可にする助成金や補助金が与えられれば、一気にペットを飼う人は増えることだろう。
ペット飼育が可能な既存のマンションの補助金で様子をみながら、効果がありそうであれば、助成金として、『シニアペットマンション助成金』を予算組みすればよいだろう。
予算は削減されるであろう医療費や介護費用を考えると数1000億円規模の予算組みが可能なはずだ。
花蜜氏の妄想力に、筆者の得意とするフェルミ推定の妄想力が自然と加わった。
現在、花蜜氏は、『令和の虎』というインターネット番組でも特番が組まれ、3,000万円の融資の進捗が進んでいる。
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