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U―20W杯開幕、久保の適性ポジションは?バルサ育ちの15歳が切り拓く運命

小宮良之スポーツライター・小説家
U―20W杯に挑む久保建英。(写真:田村翔/アフロスポーツ)

15歳、久保建英の適性ポジションはどこなのか? 前途有望な15歳。U―20ワールドカップ(5月20日開幕、韓国)には、FW登録で挑むが――。

超攻撃的なプレーを信奉するバルサ。特殊な環境で育ったデメリット

バルサにいた頃の久保は、アタッカーとして育成されてきた。ボールを持って、前を向いて、崩し、決定的な仕事をする。タイプはまったく異なるが、リオネル・メッシと同じように、そのボールスキルをゴールにつなげる能力が買われていた。

世界に冠たるバルサは独特なプレーモデルで、4-3-3をフォーメーションの基本としている。攻撃には確乎たるオートマチズムがあって、4バックの前にはアンカーとなる選手を置き、そこを起点に左右のインサイドハーフが攻撃の渦を作り出し、強力な攻撃力を持った前線の両ワイドの選手がボールを前に運ぶ。自分たちがボールを握り、高い位置でボールを回し、攻め続けることで守備とし、ゴールを奪い、勝利を収める。

ここまでストイックな攻撃美学は、世界でも例外的と言えるだろう。

もし久保がバルサに残っていたら――。そのポジションは、おそらく前線のサイドになっていただろう。

しかし、Jリーグではそもそも4-3-3のフォメーションを使っているチームがほとんどない。あったとしても、守備的でフィジカル的な選手を用いた編成である場合が多いだろう。なぜなら、バルサと同じプレー哲学を信奉するには、選手のスキルや戦術眼が足りないからだ。

これは、日本だけでなく世界的に見ても同じことが当てはまる。

バルサを出た選手たちは、ボールプレーを放棄するようなチーム戦術に戸惑いを見せる。ボールを回し続けるオートマチズムがないチームで、輝きを放てない。実力者ではあるが、本来の力を出し切れないのだ。

例えばメッシよりも早くトップデビューし、「マシア史上最高の逸材」と騒がれたボージャン・クルキッチは、17歳で二桁得点を記録する快挙を遂げている。ところがバルサを去ってからは、ローマ、ミラン(イタリア)、アヤックス(オランダ)、ストーク・シティ(イングランド)、マインツ(ドイツ)と各国リーグをまわっているものの、飛躍を遂げているとは言いがたい。味方がボールを持つ時間が少なく、運動量やコンタクトプレーを迫られるチームで、適応するのに苦しんでいるのだ。

ボージャンはマシな例だろう。「メッシの再来」と言われ、16歳にしてイスラエル代表でデビューを飾ったガイ・アスリンは8チームを渡り歩き、26才になった今シーズンは2部B(実質3部)でプレー。同じく26才のダニ・パチェーコも、メッシに続くアタッカーとして育てられたものの、17才で新天地に選んだリバプールに移籍後に羽ばたけず、2部リーグが主戦場になっている。

一方、バルサの宿敵であるレアル・マドリーの下部組織出身者が、多くのクラブで適応している点は興味深い。マドリーはプレーヤーにどこでも力を発揮できる「太さ」を求める。肉体的にも、精神的にも、不屈さのある選手をスカウティングで探す。そして徹底的に強さを鍛え上げる。トップチームで定位置をとる選手はバルサよりも少ないが、どこへ行っても通用する人材を育てているのだ。

かつてバルサを率いたジョゼップ・グアルディオラは、ペドロ、クエンカのような線が細いサイドアタッカーを、一気にトップに引き上げている。バルサのトップで馴染ませれば、ボールを持つ時間が長いプレーの中で攻撃に専念できるが、下部リーグでつぶし合いをさせれば埋没する。それを予感していたのだろう。

久保の最大の魅力はゴール、もしくはゴールに直結するプレー

では、バルサではないチームで久保が活路を切り拓いて行くには、適性ポジションはどこになるのか?

U―20代表は、4-4-2が基本になっている。ワイドから自由に攻撃を仕掛けるシステムではない。久保のポジションは2トップの一角、セカンドストライカー的な仕事になるだろう。

内山篤監督が率いるU―20代表は組織として未成熟さを感じさせる。守備が安定していないし、大会直前に対戦したホンジュラスの攻撃に対してもイノセントだった。サイドはピッチの幅を広げ、深みを作るという回路もないのが現状だろう。

前線は劣勢を強いられる。

しかし、久保は一発がある。

「建英はバイタルエリアでボールを預けたら、ドリブルでもパスでも勝負できる」(内山監督)

おそらく、大会では勝負所での投入になるだろう。15歳での選出は、「18歳を前にバルサへ戻ったら招集できない可能性が」という理由も否定できない。率直に言って、現時点で彼より力のあるアタッカーは他にもいるだろう。しかし相手も経験が不足している年代だけに、ジョーカーとしてはアドバンテージを持っている。外国人選手との場数もその一つと言える。

セカンドストライカーとして活路を開く。

それが現状、久保のベストポジションではないか。

将来的には、「小柄だから、コンタクトの少ない中盤で」という意見はある。ただ、久保はボールを握る(失わない)という訓練は受けていない。トップから中盤に落ちてのプレーはできるが、中盤を主戦場にする力はないだろう。なにより、バルサ以外のチームの中盤は、「空中戦も含めて相手の攻撃を受け止め、跳ね返す」という守備面のインテンシティが不可欠になる。久保に適性はなく、そこでエネルギーを使わせるのは得策ではない。

久保の最大の能力は、ゴール、もしくはゴール似直結するプレーである。左足のキックは振りが早く、軌道が読みにくく、精度も高い。持ち前のビジョンや閃きも、一瞬のやりとりの中で生かせる。性質的にも、ふてぶてしさを持っている。たとえ消えている時間帯があったとしても、一発を期待できるだろう。

U―20W杯、久保は自らの運命を切り拓けるか?

「チームというのが日本の特長だけど、自分はボールを持ったら仕掛けたい」

久保は挑むように言う。

5月21日、南アフリカ戦が初戦になる。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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