プロの室内競技で初めて有観客試合でシーズンを開幕したBリーグと選手、コーチたちが感じた思い
【ほぼすべての会場で1000人以上を集客】
10月2日のアルバルク東京対川崎ブレイブサンダース戦を皮切りに、Bリーグの2020-21シーズンが開幕した。NPBやJリーグの屋外競技ではなく、日本で初めて室内競技の有観客試合による開幕に、人々はどのような反応を示すのか注目が集まっていたのではないだろうか。
昨シーズンのBリーグは新型コロナウイルスの影響で、シーズン途中で中断したためプレーオフも行わずリーグ優勝すらも決められないまま終了していた。併せてB1(1部リーグ)とB2(2部リーグ)の入れ替え戦も実施できなかったため、今シーズンはB2上位2チームを自動昇格させ、20チームを東西2地区に分ける異例の措置でシーズンに臨んでいる。
この週末は10会場で計20試合を実施。各会場は新型コロナウイルス対策で、収容人員の50%(上限は5000人)の入場制限を行っていたが、滋賀レイクスターズのホーム2試合以外は、すべて1000人を上回る集客を記録している。
人気チームの宇都宮ブレックスや名古屋ダイヤモンドドルフィンズ、さらにB1に初昇格した信州ブレイブウォリアーズのホーム試合では、2000人を超える盛況ぶりだった。まずまずの滑り出しといえるだろう。
【新型コロナウイルス対策は各チームで対応】
開幕の様子を確かめるべく、今回は大阪エヴェッサ対広島ドラゴンフライズ戦と京都ハンナリーズ対富山グラウジーズ戦の2試合を取材してきたが、大きな混乱もなくスムーズな試合進行が印象的だった。
新型コロナウイルスに関してはBリーグのガイドラインを元に、各主管チーム(ホームチーム)が対策を行っていたが、入場時での検温、入場者全員のマスク着用、入り口を含めた各所での除菌スプレー設置、一定の間隔を空けた座席配置、規制退場などの基本対策は当然のことながら、終始徹底されていた。
大阪に至っては、観客席に近い場所で応援するチアダンサーは、コート上でのパフォーマンス以外はマスクを着用する徹底ぶりで、安全対策に努めていた。
【声無し応援も場内演出で十分にカバー】
試合中も応援はNPBやJリーグと同様に、声を挙げての応援は原則禁止だった。だがBリーグは元々チームでしっかりした場内演出をしていたこともあり、入場者は攻守に分けての応援音楽に合わせ、手拍子やハリセンを叩いて応援を続けており、NPBのように静寂な時間が生じることもなかった。
またNPBでは、我慢できなくなったファンが大声を張り上げる場面に何度となく遭遇しているが、自分が取材に回った2試合では選手たちの素晴らしいプレーに沸く場面があったものの、個人で声を挙げるようなシーンは見られなかった。
また京都では、ハーフタイムのイベントでも会場アナウンサーと参加者の接触を避けるため、コートのビジョンを使って入場者に声を発しないかたちでイベントに参加できるよう工夫もされていた。
【選手、コーチはバスケットができる喜びを実感】
まさに厳戒態勢の中で迎えたシーズン開幕だが、昨シーズンを途中で中断し、長い自粛期間を経た上で、ファンの前で再びバスケットをプレーできることに、選手、コーチは一様に喜びの声を口にしている。
「コロナ禍の中、こうしてファンの方々の前で試合ができたことを嬉しく思っています。Bリーグも2週間に1度PCR検査をしてくれますし、チームとしての自己管理もしっかりやっています。今後徐々に100%の状態で開催してもらえたら、選手たちのエネルギーにも繋がりますし、そういう方向に進んで欲しいなと思っています」(広島・堀田剛司HC)
「(場内が)静かだなとは感じはあまりしなかったですね。自分がコートに立っていて必死だったのかもしれませんが、去年とあまり変わらなかったです」(大阪・竹野明倫AC)
「久しぶりの試合でしたので、素直にバスケットができた幸せと、また自分たちがコートの上に立てたということが一番嬉しかったことです。その中で観戦の仕方とか応援の仕方というのは違うと思うんですけど、ここから試行錯誤しながら今シーズンのBリーグのあり方というのが必ず出てくると思いますので、まずはこういった中で試合ができたということが自分にとってはとても嬉しく思っています」(広島・朝山正悟キャプテン)
「開幕前はファンの皆さんの前でできないと思っていたんですけど、こうやってファンの皆さんの前でプレーできて幸せだと感じました。不思議な感じはありましたけど、実際試合に集中していたのでプレーしていてあまり変わりはなかったです。ただファンの皆さんも(制限のある中で)言いたいこともたくさんあると思いますけど、そこはちょっと抑えて頂いて、はい」(大阪・伊藤達哉選手)
「違和感というのは一切感じませんでした。自分の中ではひどい試合をしてしまったなと申し訳ない気持ちがいっぱいの中で、それでも最後まで応援してくださったのは自分の中ですごく大きな力になりましたし、選手にも間違いなくそれが伝わっていましたし、選手たちも点差がある中でも最後まで声をかけ合ってやってくれたのが嬉しかったです」(京都・小川伸也HC)
「改めてバスケットができていた日常が当たり前じゃないんだなというのを感じました。みんなが感染対策に取り組んだからこそ今日という日があると思うし、今後もバスケット界が一丸となってコロナ対策をやっていかないと、バスケット界の振興もないなと思っています。そういった中で来て頂いた方には感謝の気持ちで一杯ですし、そうした方々の期待に応えたいと改めて思いました」(京都・永吉佑也キャプテン)
それぞれが熱い思いを胸に、開幕を迎えていたのが理解できるだろう。
【スポンサー企業もチームを後押し】
新型コロナウイルスの影響で経済活動が停滞し、各企業も厳しい状況が続く中、Bリーグを支えるスポンサー企業は今もリーグ、チームを後押ししているようだ。
リーグ屈指のスポンサー収益を上げる大阪の場合、多少スポンサーの入れ替わりはあったものの、シーズン開幕を迎えるに当たり昨シーズンより10社ほどスポンサーを増やすことに成功しているという。
また逆にB1の中では低予算チームの京都でも、ある程度のスポンサー企業の撤退を覚悟していたようだが、実際は微減に留めることができたようだ。
【室内競技ならではのリスクの高さ】
こうしてBリーグは、シーズン開幕を順調に滑りだしたとはいえ、このままシーズン最後まで感染者、陽性反応者を出さずに乗り切れる保証は一切ない。それは今でもNPBで陽性反応者が出ていることからも明らかだ。
しかも室内競技ならではのリスクもある。選手とファンの交流は禁止されているとはいえ、NPBやJリーグとは比較にならないほど、両者の距離はかなり近接している。時にはソーシャルディスタンスを確保できない場面も生じてしまうケースもある。
また富山が今回の京都遠征でバスを利用しているように、Bリーグの多くのチームが、普段から長距離以外の遠征はバス移動を基本にしている。その分チームの濃厚接触時間は長時間に及ぶことになり、陽性反応者が出た場合はチーム内に拡散するリスクも高くなってしまう。
Bリーグは、そうした厳しい現実と向き合い続けなければならないのだ。
その一方で室内競技に関して、スポーツ先進国の米国でも、中立地の1箇所での無観客試合を実施している状態だ。現在のBリーグの試みは、今後世界の室内競技の行く末を左右する試金石といえるだろう。
やはり今後もBリーグの動向に注目していくしかない。