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豊島竜王の辛抱実って形勢好転か? 羽生九段の攻めはつながるのか? 竜王戦第5局はいよいよ終盤戦

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)(提供:アフロ)

 12月6日。神奈川県箱根町・ホテル花月園において第33期竜王戦七番勝負第5局▲羽生善治九段(50歳)-△豊島将之竜王(30歳)戦、2日目の対局がおこなわれています。

 矢倉模様から定跡形をはずれての戦い。豊島竜王は金を打ち込んで8筋を突破して飛車先にと金を作り、羽生玉に迫ります。

 さらには58手目、今度は3筋に歩を打ちます。これが桂取り。8筋と3筋にと金ができれば、左右はさみ撃ちの形を作ることができます。

 勢いよく攻めているのは豊島竜王。ただし金を損しているため、ギリギリです。

 午前中に放映されたNHK杯▲羽生九段-△渡辺明名人戦は、両者の実力がいかんなく発揮された名局でした。羽生九段の戦いぶりを見て、改めてその強さに感服したというファンの方も多いことでしょう。

 現在の将棋界は渡辺名人、豊島竜王、藤井聡太二冠、永瀬拓矢王座がタイトルホルダーとして君臨する「四強」の時代と言われています。その勢力図を塗り替える一番手は、いまこうして竜王戦を戦っている羽生九段でしょう。

 本局がおこなわれている箱根はよく晴れていて、窓側の上座にすわっている豊島竜王の背中から、対局室に陽射が差し込んでいます。

「カーテンを閉めさせてもらいますので」

 12時30分、羽生九段の手番で昼食休憩に入る際に、中村九段からそう声がかかりました。

 再開前。豊島竜王、羽生九段の順に対局者が戻ってきます。

 13時30分。

「時間になりました」

 記録係の木村友亮三段が告げて、対局が再開されました。

 一呼吸を置いて羽生九段の手が駒台に伸びます。そして歩を手にして、8筋に打ちました。飛車取りです。

 豊島竜王も想定はしていたことでしょう。しかしすぐに次の手は指さず、長考に入りました。はたしてどう応じるべきか。打たれた歩の背後には羽生九段の角が利いているために、飛車で取ることはできません。と金(成歩)で取れば、羽生玉からと金が遠ざかってしまう。

 長考の途中、豊島竜王は右手で頭を抱えていました。その仕草だけで判断すると、苦しそうにも見えます。

 考えること1時間4分。豊島竜王はじっと飛車を二段目にまで引きあげました。そしておしぼりで顔をそっと拭きます。豊島竜王が選んだのは、辛抱の一手でした。こうした手が指せるのも、充実している証拠なのかもしれません。

 形勢はわずかに羽生九段よしと見られていました。羽生九段はどうするのか。

 羽生九段は22分考え、攻めの方針を選びます。豊島玉をにらむ飛車を主軸に、強く迫っていきました。対して豊島竜王は一手の余裕を得て、桂を取りながら3筋に大きなと金を作ります。

 局面は終盤戦の様相を呈してきました。

 72手目。豊島竜王は銀を引いて自陣を整備します。これが味のいい受け。豊島竜王の辛抱が実を結んだか。筆者手元のコンピュータ将棋ソフトが示す評価値だけを見れば千数百点ほどの差。現状、形勢は逆転して豊島竜王がリードを奪ったようです。

 時刻は15時45分を過ぎました。羽生九段はゆっくりしていられません、攻めはつながるのでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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