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親に懇願されて離職し結婚もせず介護を続けた40代次女のこれから、仕事はどうする?

太田差惠子介護・暮らしジャーナリスト
イメージ画像(提供:イメージマート)

 いまの時代、「自分の介護のことで子どもに迷惑をかけたくない」と考えている親が多数派だと思います。しかし、一方で必要以上に子に依存してくる親がいるのも事実。距離を置く方が良いケースもあると思います。

仕事も結婚もやめて介護

 エイコさん(40代)は実家で80代の両親と3人で暮らしていました。2歳上の姉は新幹線で1時間ほどのところで、夫と長男と3人暮らし。

 エイコさんは短大卒業後、地元で就職。30代の終わりに父親が脳卒中で倒れたため、仕事を辞めて介護をするようになりました。「当時、結婚を考えている人がいましたが、ダメになってしまいました」とエイコさん。

 30代で仕事も結婚もやめてしまったことが気になりました。「母が1人で介護するのはキツイって、私に訴えたんです。『エイコだけが頼りだ』って。彼を家に連れてきたときにも、母は彼に『結婚したらうちで同居してね』なんて言うから、彼は逃げてしまったんだと思います」とエイコさんは肩をすくめます。

頼られる喜び

 エイコさんの姉は子どものころから成績が良く、現在はIT関連の会社の正社員。常に「忙しい」と言い、たまにしか実家に顔を出しません。けれども、エイコさんは、それで良いと思っています。「姉が来ると、母は機嫌がいいんですけど、私が父の部屋に行っている隙に、『エイコは役に立たない』とか、私のことを悪く言うんです。姉は、それを聞くと『何を言ってる!エイコに感謝しなさい』って怒りだし、ややこしいことになっていくんです」とエイコさん。

 筆者はエイコさんの話を聞きながら、次第に釈然としない気持ちになっていきました。どうして、エイコさんはこんな役回りを演じているのでしょう。

「しばらく姉が来ないと、『あの子はダメ。エイコだけが頼りだわ』と母は言うんですよ」とエイコさん。

 エイコさんは、そう言うと黙り込んでしまいました。1~2分ほどたったでしょうか。突然顔をあげて、筆者の顔を見据えました。

「わかっているんです。母は、都合良く、私のことを操っているんです。でも、わかっていても頼られるとうれしい。近所の親戚には、『エイコは結婚も仕事もしないから、私の年金で養っている』とか言っています」。 

 エイコさんはそう一気に話すと、大きなため息をつきました。

「毒親」かもしれない

 エイコさんは子どもの頃から、姉と比較されたといいます。気付いたときには、姉は優秀で、エイコさんはダメな子というレッテルが貼られていました。母親に対し、腹立たしい気持ちになることもあるそうですが、「逆らえば、もっと大変なことが起きそうで逆らえない。結局、黙ってしまいます」とも……。

 しかし、筆者がエイコさんに会ったとき、エイコさんは、母親から離れることを模索しているところでした。

 昨年、介護をしてきた父親が他界。姉からは実家を出ることを勧められています。「このままじゃ、エイコの人生がダメになる。わかっている? あの人は『毒親』だよ」と、姉は言うそうです。

「確かに母は、『毒親』なのかもしれませんが、年老いて1人になったのを見捨てていいものか、決心がつかないのです。でも、私ももうすぐ50歳になります。自分の人生をやり直すにはぎりぎりの時期かも」とエイコさん。

自立の準備

 筆者はエイコさんの話を一方的に聞いただけなので、母親がいわゆる「毒親」なのかどうか判断することはできません。

 けれども、親の人生と子の人生は別です。エイコさんは母親から離れ、自分の人生を歩んでも良いと思います。実家を離れるからと言って、母親を見捨てることにはなりません。現在の母親の心身の状態がよくわかりませんが、気がかりなことがあるなら、地域包括支援センターに「高齢の母親が1人暮らしになる」と相談すれば、必要に応じて、サービスの利用を提案してくれるでしょう。

 一方で、キャリアが中断しているため、「仕事を得ることができるか、不安なんです」ともエイコさんは話します。「姉から、国の職業訓練を受けてみることを勧められています。訓練を受けながら、お金ももらえるって。近々、ハローワークに行ってみようと思っています」とエイコさん。

月10万円もらいながら資格を得る方法

 エイコさんが利用を検討している職業訓練は、「求職者支援制度」によるものだと思います。雇用保険を受給できない人が、職業訓練によるスキルアップを通じて早期就職の実現をめざすものです。訓練期間は2~6か月で、受講料は無料。

 受講できる要件は次の通り定められています。

「求職者支援制度」訓練受講の要件

・ハローワークに求職の申込みをしていること

・雇用保険被保険者や雇用保険受給資格者でないこと

・労働の意思と能力があること

・職業訓練などの支援を行う必要があるとハローワークが認めたこと

 さらに条件はありますが、月額10万円の給付金(別途、訓練施設までの交通費)を得ることができるのも大きな魅力です。こちらも利用には要件があります。

給付金の支給要件

・本人収入が月8万円以下

・世帯収入が月30万円以下

・世帯全体の金融資産(現金・預金・株・投資信託など)が300万円以下      など

 訓練分野はIT関連や医療事務、ネイリスト、介護関係など多彩です。必ずしも就職につながるとは限りませんが、例えば、介護職員初任者研修を修了すれば介護の仕事に就くのに有利です。「毒親」かもしれない母親の介護はサービスに任せ、自分は職業として介護に携わるのも悪くない選択ではないでしょうか。

子の健康と生活設計を優先

 筆者は、30年近く、家族介護の現場を取材してきました。正解がないことは承知のうえで、それでも、子が仕事や結婚をやめてまで親の介護に専念することはお勧めできません。

 特に、相性が良いとはいえない親との2人暮らしの場合、精神的に追い込まれていきます。それに、親が生きている間は、親の年金で生活するにしても、亡くなると、途端に経済的に困ることになります。親の介護を行うことを否定するつもりはありませんが、子の心身の健康と、生活設計を確保することが優先されるべきなのではないでしょうか。

介護・暮らしジャーナリスト

京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材。「遠距離介護」「高齢者住宅」「仕事と介護の両立」などの情報を発信。AFP(日本FP協会)の資格も持ち「介護とお金」にも詳しい。一方、1996年遠距離介護の情報交換場、NPO法人パオッコを立ち上げて子世代支援(~2023)。著書に『親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと 第3版』『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本 第2版』(以上翔泳社)『遠距離介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版)『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(共著,KADOKAWA)など。

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