【泉南市】住宅街に38年佇む“小さな八百屋”は84歳の「あるエキスパート」が営む素敵な店だった。
「今まで来てくれていたお客さんも亡くなってしまって。若い人らはスーパー行くやろ? お客さんもすっかりおらんくなってしもうたわ」
そう語るのは、樽井の住宅街に店を構える「西村青物店」店主 室川 梅吉(むろかわ うめきち)さん、御年84歳。
泉南デパートで20年、ここ樽井(大発タウン)の住宅街で38年ほど八百屋を営んでいるという八百屋歴58年の大ベテランです。
お世辞にも賑わっているとは言い難い店は、雨の日も風の日もいつでも開店(月曜定休)しているのに客は少なめ。 住宅街に溶け込む店舗の軒先には、新鮮でカラフルな野菜や果物が並んでいます。
「今日なんか取材してもあかんで~。雨降りそうやから、あまり(野菜)並べてないねん」と室川さん。
それでも新鮮な野菜や果物が破格値で売られていて、この一盛を買いに来るだけでも価値があるのでは? と思うほど。
このりんご、うまいで~! と店主イチオシの「新物 津軽りんご」一盛 500円(税込)。
娘さんが市場で仕入れるという野菜や果物は、高い日もあれば安い日もあるそう。
それでも「スーパーより断然 新鮮で美味しい」と室川さん。
「新鮮やから日持ちするで~」と見せていただいたきゅうりがコチラ。
緑色のカゴと同化したフォトジェニックなきゅうり。
“新鮮なきゅうりを見分ける方法”があるというので教わりました。
「この先っぽの部分をちょっと押してみて、かたくてしっかりしたものが新鮮なきゅうりや。やわらかくなってしまっているものは中は真っ白、古い証や」。
きゅうりを選ぶ時、イボがしっかりあるものを選ぶようにしていますが、先っぽのチェックまではしていませんでした。ほほぅ~、なるほど…と感心したところで次は“新鮮なりんごの見分け方”のレクチャーがはじまります。
一見、なんの変哲もないプクプクの大きなりんごをサッと持ち上げて…
「ほらっ」と室川さん。
「わ! ぴかぴか! え? どういうことですか?」
「ピカピカのりんごは買うたらあかん。古くなってくると見栄えをよくするためにこうやって磨いとるんや。綺麗やとつい手を伸ばしたくなるやろ?」
ほほー! なるほど、そういう視点をもつことも大切なんですね! 確かに傷がないのはもちろんのこと、つい綺麗なりんごを選びたくなってしまいます。
売る側の“裏話”など、他では聞くことができない貴重なお話も「対面」で買う八百屋ならではだと感じます。
他にも「自家製のローリエ」 100円(税込)や、プロの料理人ご用達の「鳴門産の塩」1kg 100円(税込)など、魅力的な「掘り出しもの」もいっぱいありました。
調味料や粉類、乾物なども取り扱っているので、日々の買い物にも事足りそうです。
ここでふと店先に積まれていた日切れ品の「パインの缶詰」のことが気になり、尋ねてみました。
「その『パインの缶詰』は、9月1日が賞味期限や。日切れ直後が熟してて一番おいしいんや」と室川さん。
聞くところによると、なんと室川さんは若い頃、神戸で「缶詰の検査員」の仕事をしていたのだとか。缶を叩くだけで“穴が開いている”とか、“熟し具合”までもわかってしまうそう。八百屋の大ベテランというだけでなく、「缶詰のエキスパート」でもあったとは驚きです。心なしか、野菜や果物の話をする時と同様、缶詰の話に顔がほころぶ室川さん。働き盛りだった頃の自分を想い出しているのかもしれません。
店の奥には冷蔵庫もあり、陳列されていない野菜も声をかければ出してくださいます。
この日は、たねなし柿11コ、新物の津軽りんご3コ、自家製ローリエ1袋、鳴門の塩1kg、パインの缶詰2缶、信州高原レタス1つ、きゅうり2本、とたんまり買って(おまけもしてくれて)1700円ほど。
パパっと暗算でお会計する室川さん。いくつになっても頭脳はシャープです。
「勘弁してよ~」とレンズに向かって照れ笑いする室川さん。
「泉南市も人口が減ってしまってさみしいわ。樽井の駅前も昔は映画館もあって賑わっとったけどな」。もう歳だから…と、引退も考えているといいます。
ずっと気になっていた、住宅街に佇む小さな八百屋は、意外にも八百屋歴58年の「缶詰のエキスパート」が営む素敵なお店でした。
こんなお店が後世に残ってほしい。
会話しながら買い物をする時間は、パパっとカゴに放り込んでいくだけでは味わえない人の温かさと食べ物へのありがたみを感じますから。
【基本情報】
店名:「西村青物店」
住所:泉南市樽井3丁目31-17(Googleマップ参照)
Tel:072-483-5306
営業時間:9:00~18:00
定休日:月曜
駐車場:なし
取材協力 「西村青物店」店主 室川 梅吉様
*記事内容は取材当時のものです。