ソウル市長選で野党候補が当選すれば、文在寅大統領の悲願である「32年夏季五輪南北共同開催」誘致は頓挫
国際オリンピック委員会(IOC)が2月25日の理事会で2032年夏季五輪・パラリンピックの最優先候補地としてオーストラリアのブリスベンを選定したことに韓国政府とソウル市は遺憾の意を表し、4月1日に32年五輪の南北共同招致提案書をIOCに提出したようだ。
しかし、仮に7日に開票されるソウル市長選挙で保守野党「国民の力」の呉世勲候補が当選すれば、果たして新市長が南北共同開催を推し進めるかは不透明だ。
文在寅大統領が執念を燃やす南北共同開催は2018年9月に平壌で行われた南北首脳会談の合意事項である。南北は「平壌宣言」で「20年夏季五輪(東京)をはじめとする国際競技に合同で積極的に出場し、32年夏季五輪の南北共同開催を誘致するため協力する」ことで合意を見ていた。
当時のソウル市長は与党「共に民主党」の朴元淳氏である。朴氏は南北統一論者で、北朝鮮との関係改善に誰よりも熱心であった。しかし、昨年7月に「セクハラ疑惑」が浮上し、自殺してしまったため現在は空席のままである。今回、IOCに再考を求める提案書は徐正協・市長権限代行の名で出されている。
南北共同開催はソウル市議会で決議されており、その市議会は現在、110人いる市議員のうち102人までが与党議員である。またソウル市には25人の区長がいるが、24人までが民主党系である。従って、新市長の独断で南北共同開催誘致を撤回することは簡単ではないが、呉候補を推している「国民の力」が北朝鮮と対峙していることが不確定要素となっている。
「国民の力」の統一政策は自由民主主義の基本秩序に立脚し、北朝鮮の開放と民主化が前提である。どちらかと言えば、北朝鮮が警戒している吸収統一に近い。
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「国民の力」は北朝鮮の人権弾圧に無関心な与党と比べて、脱北者問題も含め熱心だ。現に、昨年4月の国会議員選挙では2人の脱北者を「国民の党」から擁立し、当選させている。従って、脱北者やその支援団体が北朝鮮に向け飛ばしている宣伝ビラを封じ込める法案にも反対しており、韓国非難を連発している金正恩委員長の実妹・金与正党副部長に対しても真っ向応酬するなど北朝鮮へのスタンスは手厳しい。
その北朝鮮もまた、「平壌宣言」に基づき韓国と共に2019年2月にIOCに五輪共同招致の意向書を提出したが、直後の2月27日にハノイで開かれた2度目の米朝首脳会談が「仲介役」の韓国の不作為により決裂したことで熱意を失ってしまっている。
米国の許可がなければ南北関係改善に踏み切れない文在寅政権に怒り心頭の金正恩政権は昨年6月には「(韓国を)もう二度と相手にしない」と宣言し、南北対話、接触の場である南北共同連絡事務所を爆破してしまった。先月も金与正副部長の「南朝鮮(韓国)当局とは今後、いかなる協力や交流も不要である」との談話を発表したばかりである。
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南北関係が冷え込んだ現状では五輪の南北共同開催の誘致が非現実的であることは言うまでもない。提案書で「2032年の南北共同開催は南北の統一に寄与する」ことをいくら強調しても虚しく聞こえ、IOCには響かないだろう。
文大統領は昨年11月に任命した盧泰剛駐スイス大使に対し、7月に開催予定の東京五輪での南北合同入場行進についてIOCと協議するよう指示していたが、肝心の当事者の南北の間では今もって打ち合わせも行われていない。
先月25日に平壌で北朝鮮オリンピック委員会の総会が開かれ、金日国・体育相が今年の活動方針を報告したようだが、北朝鮮の報道では「南北共同開催」とか「東京五輪」という言葉は見当たらなかった。ただ単に「新たな5カ年計画の期間、国際競技でメダルの獲得数を持続的に増やして尊厳ある我が国家の栄誉を一層輝かし、全国にスポーツ熱気を高調させて社会主義建設を力強く促すべき」ことだけが強調されていた。コロナで国境を封鎖している現状では東京五輪不参加もあり得なくもない。
いくら文政権が意気込んでも2032年夏季五輪の南北共同開催招致は客観的に見ても事実上白紙化してしまったも同然だ。